第1回:Hyuga Pharmacyにおける在宅への取り組み
政府の施策のもと地域包括ケアシステムの構築が進められ、医療の現場は病棟から在宅へ移行しつつあります。厚生労働省が3年ごとに実施する「患者調査の状況」(2019年3月発表)によると、2017年10月の調査日に在宅医療を受けた患者数は約18万人と、1996年の調査以来最多。そのうち、訪問診療は11万6000人と、2008年調査の3倍超を記録しました。
在宅医療ニーズの増加を背景に、近年は在宅に取り組みたいと考える薬剤師が増えています。とはいえ、何をすればいいかわからず、最初の一歩を踏み出せない方も少なくありません。そこで本企画「在宅医療で薬剤師は何ができるのか?」では、2008年の創業以来、在宅医療に力を入れているHyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)株式会社取締役事業部長の城尾浩平さんに話をうかがいました。
同社が展開する「きらり薬局」での取り組みや在宅における薬剤師の役割について、全6回のシリーズでお届けします。
第1回はHyuga Pharmacyが取り組んできた在宅医療の変遷をご紹介します。
「福岡と首都圏で薬局を展開し、月に1万1000回超の在宅訪問
最初に、Hyuga Pharmacyの創業の経緯と在宅医療の現状について教えてください。
城尾当社は2008年に代表の黒木(代表取締役の黒木哲史さん)が、廃業しようとしていた福岡県太宰府の薬局を譲り受ける形で創業しました。1号店の「きらり薬局太宰府店」を皮切りに、現在は福岡(20店舗)、東京(1店舗)、千葉(4店舗)、神奈川(4店舗)で現在は合計29の薬局を展開しています。調剤事業の他、居宅介護支援事業や病院・介護事業のコンサルティングも手掛けており、薬剤師128名、緩和薬物療法認定薬剤師4名など、合計375名の職員が勤務しています。
当社では創業当時から企業理念として、「患者さんが24時間365日、自宅で「安心」して療養できる社会インフラを創る。」を掲げています。これは、「在宅で薬を必要としている人のもとへ必要な薬が必要な量だけ届き、適切な指導のもと服用できること」が当たり前になる社会を目指すという内容です。そのため、「きらり薬局」では店舗での外来調剤だけでなく、ご自宅や施設など安心できる場所で暮らしたいと考える方のために24時間365日の切れ目なく薬をお届けする、在宅訪問を行ってきました。創業当初は在宅医療を希望する患者さんの数が少なく、なかなか処方箋をいただく機会に恵まれませんでしたが、病棟から在宅へ医療提供体制が変わるなか利用者は徐々に増え、いまでは居宅と施設をあわせて5,600人の患者さんを対象に、月1万1000回の訪問を実施しています。
Hyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)株式会社取締役事業部長の城尾浩平さん
障害者施設への配送をきっかけに訪問先と患者数が大幅に拡大
在宅医療を拡大するなかで、どのような課題がありましたか?
城尾まずは訪問先の開拓ですね。事業をスタートさせた当初は、そもそも処方箋の枚数が少なかったので、処方箋を「待つ」のではなく「取りに行く」というスタンスで動いていました。太宰府店が小児科門前だったので、地域の公民館で子供向けに薬の教室を開いたり、保育園や高齢者の親睦会に出かけたりもしたんですよ。「ご近所にお住まいでしたら、うち(の薬局)でも(お薬を)受け取れますよ」と患者さまに説明して回りましたが、反応はいまいち。今考えても効率の良い営業ではありませんでしたね。
そんななか、訪問先の開拓で転機が起きたのは2008年のこと。黒木が障害者施設の施設長から薬の管理について相談を受けたのです。その施設では、看護師1人で約60人もの患者の薬を管理しており、患者別の服薬管理に大変苦労しているという話でした。そこで、「きらり薬局で患者さんごとに薬を管理しやすい状態でお届けしましょう」と提案したところ、現場の看護師、施設長の方からすごく好評をいただきました。これをきっかけに他の障害者施設からも依頼が入り、計300人分の処方箋を一気に取り扱うことに。以降は介護施設やクリニックからも在宅医療の依頼が増えていきました。
順調に訪問先は増えていったのですが、次に浮上したのは「人材」の問題でした。障害者施設などからの配達依頼が増えるとともに、従業員の労働時間も着実に増加。そのころ、黒木を含め薬剤師は2名、あとは調剤事務1人の計3名という陣容で、圧倒的な人手不足でした。当時、私は別の薬局に勤めていましたが、突然電話で呼び出されて手伝いにいったこともたびたび……。その後、Hyuga Pharmacyに入社して本格的に事業に参画してからも、週末も休むことなく薬を用意しては配送する日々でした。
知り合いの薬剤師さんのサポートを受けながら在宅訪問に対応しつつ、薬剤師の採用も進めました。ところが、当時は在宅に対する認知度が低くてうまく集まらず、せっかく採用できても激務を理由に辞める職員も少なくありません。ある朝に出勤すると、デスクの上に保険証が置いてあり、そのまま退職してしまった、というケースもありましたね(苦笑)。
調剤機器の導入や大型拠点の開設、職員のスケジュール管理で業務を効率化!
かなり大変そうですが、人材の課題はどのように解決したのですか?
城尾そこで着手したのが環境の整備です。自動分包機の導入、訪問先開拓と調剤業務の業務担当の切り分け、2011年には介護施設への訪問を強化するため、大野城に在宅専門の大型拠点も立ち上げました。ここに人や機能を集約させることで、職場環境はずいぶん良くなったと思います。
これと並行して、配達スケジュールの見直しも実施しました。それまでは依頼があれば都度、薬を運んでいましたが、配達する曜日を決めてストックが切れないようスケジュール管理を徹底。これにより非効率な配達を改善することができました。
また、新しいチーム編成も取り入れました。あるとき、50歳を過ぎた製薬メーカー出身の薬剤師が当社に履歴書を送ってきたのですが、現場での調剤経験はなく年齢も考えると、通常の薬局勤務は難しい。しかし、知識を持つ中高齢者に活躍していただきたい。そこで、臨時処方分を担当する「GGZ(ジージーズ・臨時処方対応薬剤師)」という専門部署を発足させることに。急な発熱や痛みといった「緊急対応」をGGZに任せ、「通常」と「緊急」で業務担当を分けることで、働く薬剤師全体の負担が解消されました。
さらに、大きく改善したのは事務処理作業が大変なドクターやケアマネさんへの報告書です。最初は手書き、次はエクセルで処理していましたが、自社開発のシステムを用いることで、作業が激減しました。このように、ハードの整備やタスクの見直し、ITの活用で課題を解決し、組織体制を強化しました。
次回は、Hyuga Pharmacyが在宅医療に注力する理由や、そこで求められる薬局、薬剤師の役割についてうかがいます。