在宅医療で薬剤師は何ができるのか?

更新日: 2020年2月6日

第3回:在宅医療において薬剤師に期待すること

第3回:在宅医療において薬剤師に期待することの画像

 福岡や首都圏で「きらり薬局」を展開するHyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)は、創業時から居宅、施設での在宅医療に力を入れています。
全6回にわたるシリーズ連載「在宅医療で薬剤師は何ができるのか?」では、同社の取り組みなどを、取締役事業部長の城尾浩平さんにお聞きしています。第3回目は、在宅医療において薬剤師に期待することがテーマです。

前回までの記事はこちらからご覧ください
第1回「Hyuga Pharmacyにおける在宅への取り組み」
第2回「Hyuga Pharmacyが在宅に注力する理由」

「気軽に薬の相談ができる人」こそ、これからの薬剤師に求められる姿

在宅医療における薬剤師の役割とは何でしょうか。

城尾 在宅医療に限った話ではないのですが、理想とする薬剤師像は、「患者さんが薬について気軽に相談できる人」だと思っています。それには、「患者さんの不安に寄り添う」ことがもっとも大切な薬剤師の役割だと思っています。
ちょっと話はそれますが、この考えに至った経緯を紹介させてください。社会人になりたての頃、車を購入しようと思って、自動車販売店を営む友人に、「中古でも何でもいいから持ってきてほしい」と頼んだのです。そして後日、彼が選んでくれた車がまさに私の希望通りのものでびっくり! 彼は、私の生活スタイルや車の利用シーン、デザインの好み、価格などを考慮して、私にあった1台を見繕ってくれたんです。車に疎い私にとって彼の行動はとても心強く信頼が増しました。

そんな友人の姿勢を目の当たりにして、患者さんにとっての薬剤師もこうありたいなぁと思ったのです。患者さんは薬の専門家ではないので、自分の薬がどんなもので、どんな注意が必要か、自分の体内に入れるものがよく分からない状態。そんなときに、「いつも対応してくれるあの薬剤師に聞いてみよう」と気軽に思ってもらえる存在であれたらいいなと思っています。患者さんの抱える不安に応えるのが、かかりつけ薬剤師のもっとも大切な役割ではないでしょうか。そして、在宅であれば、患者さん本人だけはなく、ご家族の不安もケアできる。そんな薬剤師が増えれば、在宅医療において薬剤師はいまよりもっと頼もしい存在になるはずです。

たしかに、患者さんの不安に寄り添う、というのも薬剤師として大切な役割ですよね。

城尾 ある年の元日の出来事です。夜遅くに痛み止めの処方箋が届いたので、さっそく患者さんのお宅に薬を持ってうかがうと、そこには高齢のご夫婦の二人暮らし。奥さまにお薬を渡すとすぐにご主人が服薬し、痛みがひいて少し落ち着いた様子になりました。話をうかがうと、ご主人は1週間前に退院したばかりのがん末期の患者さん。「前日の大晦日も目やにが止まらなかったため、薬剤師さんに目薬をもってきてもらったのよ、本当にありがとう」と、奥さまにお礼を言われたのです。
退院後の不安で張り詰めていた緊張が緩んだのか、静かに話しながら奥さまが流された涙は、いまでも私の心に残っています。薬剤師はただ薬を届けるだけじゃない、在宅医療は患者さんの不安に寄り添うことができる、と強く感じました。

第3回:在宅医療において薬剤師に期待すること Hyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)株式会社取締役事業部長の城尾浩平さんの画像

Hyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)株式会社取締役事業部長の城尾浩平さん

街は大きな病院で自宅・施設は病室 仲間と一緒に地域を守るのがミッション

薬剤師に求める役割として「患者さんの不安によりそうこと」の他にもありますか?

城尾 患者さんやご家族に幸せを提供することですね。例えば、コミュニケーションのとり方一つでも幸せを提供することができます。
「きらり薬局久留米店」で活躍する70代の薬剤師はまさに患者さんを幸せにするコミュニケーションの達人(笑)。採用面接時は、「1年ほど現場から離れている」という話だったので、少し心配もしていたのですが働き始めてすぐにその心配はふきとびました。近隣の店舗からも評判の看板薬剤師になっていて。彼に会いたくて外来患者さんが来るほど、人気者になっていたのです。馴染みの患者さんには「おいっす!」と挨拶するくらいフランクで元気はつらつ (笑)。「また来たね~」「大丈夫、治るよ!」と声をかけていて、患者さんも楽しそうなんです。
これは店舗に限った話ではありません。患者さんの生活スペースに踏み込む在宅医療のシーンこそ、患者さんが笑顔になるコミュニケーションは重要です。

薬剤師の仕事は医療でもありサービス業でもあると思っています。その本質は患者さんやその家族を幸せにすることで、そのためのツールが薬。
薬剤師が話す言葉で患者さんを安心させ、不安な闘病生活に少しでも笑顔を増やしたいと思っています。

医師や看護師、介護職員など関係者からも期待されていることは何でしょうか?

城尾 地域医療を考える際、私は街自体を大きな病院、患者さんがいる自宅や施設は病室、薬局は街の薬剤部だと捉えています。病院でのチーム医療と同じく、地域医療として街に住む人々の健康を守るには、医師を含む他の医療従事者と連携し、仲間になることが大切です。
そのなかで薬剤師に期待されるのは、さまざまな医療職種をつなぐ、ハブの役割ではないかと思っています。
医師の診断のもと処方された薬について、患者さんに服薬指導し、患者さんの様子を見て医師にフィードバックをする。看護師や介護士から患者さんの様態をヒアリングし、それにあった薬物治療を提案する。他職種からの情報をキャッチして、薬学の知見を踏まえて検討し、よりよい薬物治療を提案する。それが薬剤師に求められる役割だと考えています。

――在宅医療においては、多職種連携だけでなく、患者さんに「寄り添う」という薬剤管理とは離れたところにも価値がある、という指摘が発券でした。次回は、薬剤師としての役割を担うためのスキルについてさらに詳しくうかがいます。

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