第4回:あいさつこそ在宅薬剤師に必要なスキルである!

医療の現場が病院から在宅へシフトするのに伴い、薬剤師の役割も大きく変化しています。特に薬局では、薬剤師が患者のもとに赴き、服薬指導や服薬管理を行う在宅医療の取り組みが加速しています。本シリーズでは、2008年の創業以来、在宅医療に注力するHyuga Pharmacy(ヒューガファーマシー)取締役兼事業部長の城尾浩平さんに、同社が運営する「きらり薬局」の取り組みをうかがいました。
第4回は在宅医療を担うため薬剤師に必要なスキルについて教えていただきます。
▼前回までの記事
第1回「Hyuga Pharmacyにおける在宅への取り組み」
第2回「Hyuga Pharmacyが在宅に注力する理由」
第3回 在宅医療において薬剤師に期待すること
必要なのはコミュニケーション能力。信頼を築くのは、一にも二にもあいさつ!
在宅医療における薬剤師の役割は「患者さんが薬について気軽に相談できる人」であり、そのためには「不安に寄り添うこと」が大切だというお話でした。(前回記事参照「在宅医療において薬剤師に期待すること」)では、そのために薬剤師に必要なスキルは何とお考えでしょうか。
城尾
そうですね、やはりコミュニケーション能力でしょうか。その中でも特に大切に考えているのが「あいさつ」です。
在宅訪問では、患者さんやそのご家族だけでなく、施設の方、医師、看護師といった医療従事者など、非常に多くの人と関わります。その際、「こんにちは!」というあいさつをするだけで、相手からの印象がぐっとよくなり、その後の関係構築がスムーズに運ぶんです。
じつは、あいさつにもひと工夫があります。私が社内の薬剤師におすすめしているのが「ひょっこりあいさつ」です。
ずいぶんユニークなネーミングですね。「ひょっこりあいさつ」とは、どのようなあいさつなんでしょうか。
城尾 例えば、高齢者施設を訪問したとき、だれもいないエントランスに立って小さな声で「こんにちは」とあいさつしても意味がないわけです。事務所にうかがって施設職員さんの顔を見て「こんにちは!」とあいさつをする。事務所を素通りせずに、ひょっこり顔を出してあいさつをするので「ひょっこりあいさつ」と呼んでいます(笑)。
なぜあいさつを重視するかというと、患者さんだけでなく在宅医療に関わるすべての方への敬意を示したいからです。以前、ある高齢者施設を経営する社長さんが患者さんへの接し方についてこんなふうに話されたことがあったのです。
「私は施設を建てるために借金を背負い、人生をかけている。一生懸命営業をして、やっと多くの利用者さんに入居していただいた。大事な施設に住む利用者さんたちは、私にとって家族のような存在。だから医療従事者の方たちにも大切にケアしてほしい」と。
「外部」の私たち薬剤師は、施設職員さんやご家族との信頼があってはじめて、患者さんとの信頼関係が生まれると思うのです。よいあいさつが薬剤師に対する胸襟を開くきっかけになり、深いコミュニケーションにつながると考えています。
関係する医療従事者とのコミュニケーションについても同じでしょうか。
城尾
はい。同様です。医師や看護師、ホームヘルパーといった職種の前に、まずは人と人としての信頼関係を築くこと。そのためにはあいさつが大切です。
処方提案や残薬管理など、薬剤師としてのスキルを高めることも必要ですが、じつは在宅医療では「あいさつがよりよい薬物治療につながる」といっても過言ではないんです。他職種との信頼関係があるからこそ、薬剤師の処方提案が受け入れられる。それにより、患者さんにとって最善の薬物治療を施せるのです。
信頼関係を築く最初の一歩があいさつなのです。
在宅医療では、他職種や患者さん、ご家族などとの会話に緊張する薬剤師もいるようですが、あいさつなら誰でもできるはず。あいさつによって互いの距離が近づけば、専門的な話もスムーズに進められると考えています。
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