尿路感染症第3回 腎盂腎炎の抗菌薬選び
今回は、腎盂腎炎について触れていきたいと思います。
前回までのおさらい
尿路感染症の分類
患者さんの状況によって細かく分かれるため、尿路感染症の分類はやや難しいですが、ここでは、尿路を逆行的に感染が広がるという考え方で、膀胱炎→腎盂腎炎→ウロセプシス(腎盂腎炎からの敗血症)の順番で重篤化するという考えのもとご説明します。尿路感染の多くは、尿道からの細菌侵入により起こるため、原因菌の多くは好気性グラム陰性桿菌ということになります。
尿路感染症を3つの視点で整理しよう
どこで?:膀胱、腎臓、血液中
どんな患者に?:若い女性、高齢女性、妊婦、男性、透析患者などに分類
どんな菌が?:おもにグラム陰性桿菌(大腸菌など)
腎盂腎炎患者の抗菌薬選択はここをチェック!
症状は「軽症」「中等症」「重症」に分けられる
若い人は単純性、高齢者や基礎疾患をもつ人は複雑性になりやすい
投薬の効果判定は3日後に
腎盂腎炎治療の考え方
腎盂腎炎とは、細菌が腎臓にまで達している状態を示します。主に膀胱炎が悪化し、腎盂腎炎に至ることが多く、主な症状として発熱、全身倦怠感があり、特徴的に腰背部痛、腎部圧痛、CVA tenderness(腰から背中当たりをたたくと響くような痛みを感じる)などを認めます。ただし、高齢者では、特徴的な反応を認めないことも多く、炎症反応でさえ認めないこともあり得ると思って、診療を行っていかなければなりません。
一般的に、腎盂腎炎は若い人ほど単純性(1つの菌が原因)となることが多く、高齢者、基礎疾患を持つ人ほど複雑性となる可能性が高いのは、膀胱炎と同じ考え方になります。想定される菌も大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌が最も多いことも同じです。
腎盂腎炎は、年齢や全身状態に応じて軽症、中等症、重症に分けられます。軽症、中等症は医師の判断により外来診療で治療が行われることもありますが、重症になれば入院下での治療となります。
腎盂腎炎の治療経過と特徴
腎盂腎炎の治療も基本的な感染症治療の順番と同じです。まずは、検体(尿培養、血液培養など)を提出し、empiric therapyを開始します。提出した検体から原因菌を突き止め、できるだけ狭いスペクトルの抗菌薬に切り替え(de-escalation)、適切な期間の抗菌薬投与を行います。ただし、効果判定は3日後に行うこととされています。実は、腎盂腎炎の場合、適切な抗菌薬選択が行われていても、解熱を認めるのは3日目になるといわれます。以前、抗菌薬を投与して2日程度経っても熱が下がらず、医師から「抗菌薬を変更した方がいいのではないか?」と電話をいただいたことがありました。その時、たしかに熱は38度~39度とかなり熱を出していましたが、患者さん全身状態は悪くなく、ご自身の自覚でも少し良くなってきていました。そこで医師には「明日までこのまま様子を見ませんか?」と提案。翌日、数値を確認すると予想通り解熱を認めました。このようにそれぞれの感染症は、その疾患により典型的な治療経過が決められていることも多く、正しい経過を知っておくことも、必要な知識の1つとなります。それでは、実際の治療薬を見てみましょう。