震災のリスクを感じる今こそ、災害処方箋について知っておこう

地震や洪水のような自然災害により、倒壊や浸水、衛生問題などで医療機関での診療が困難になります。
このような自然災害が起こると、避難所生活の延長によって定期薬が不足したり、定期薬を紛失することがあります。また、普段と異なる環境・ストレスによる体調不良のため、追加の診療が必要となる可能性もあります。
このような場合、救護所や避難所などの医療機関以外で医師による診療が行われます。そこで、薬による治療が必要となった際に発行されるのが”災害処方箋”です。今回は、この”災害処方箋”を受け付けた時、どのように対応すれば良いのかを解説します。
“災害処方箋”とは
災害時は日赤救護班(日本赤十字社の救護班)やDMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)、JMAT(日本医師会災害医療チーム:Japan Medical Association Team)が避難所などを周り、診療活動を行います。このような保険医療機関以外の診療活動の中で、処方箋医薬品での治療が必要となった時に発行されるのが”災害処方箋”です。
“災害処方箋”は被災地の医療機関が診療を再開するまでに限定されるので、発行されている期間がとても短い処方箋です。
では、この“災害処方箋”をどこで調剤したら良いでしょうか。災害時は薬局も被災しており通常営業ができない可能性があります。その為、“災害処方箋”を受け取った薬剤師は、救護所や移動式薬局(モバイルファーマシー等)、営業している保険薬局などで調剤を行います。
注意点として、被災地でも保険医療機関で診療を行った場合は保険診療となり、そこで発行されるのは災害処方箋ではなく保険処方箋であることは覚えておきましょう。
“災害処方箋”は保険処方箋と何が違う?
災害処方箋と保険処方箋の大きな違いは根拠としている法律です。そのため、請求先も異なります。
普段扱っている保険処方箋の法的根拠は健康保険法のため、請求先は患者さんが加入している公的医療保険の運営者である保険者となります。それに対して“災害処方箋”は、災害救助法を法的根拠とされており、請求先は各県市町村です。 災害救助法は自然災害が発生した際に被災者を迅速に救済し生活の安定のために制定されました。
根拠としている法律 | 請求先 | |
保険処方箋 | 健康保険法 | 保険者 |
災害処方箋 | 災害救助法 | 県市町村 |
“災害処方箋”は日本薬剤師会が発行しているひな形があるので、どのような記載事項が必要か確認しておきましょう。

参考:改訂版「薬剤師のための災害対策マニュアル」
https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/activities/saigai_manual.pdf
記載事項
- 〈災〉等の災害処方箋と分かる記載
- 患者の氏名・生年月日・性別
- 交付年月日
- 医療救護所等の名称
- 医師の氏名
- 所属する医療機関の名称
- 処方内容
“災害処方箋”の様式の準備がなくても、上記の事項が記載されていれば手書きでも”災害処方箋”とみなされるので、記載されている内容からも判断できます。
お伝えしたように、“災害処方箋”の法的根拠は災害救助法です。健康保険法の適応とならないため、保険者番号の記載は不要です。
日本薬剤師会のひな形を使って“災害処方箋”への記載事項について紹介しましたが、各県でも用意があることもあるので確認しておくと安心です。
また、保険処方箋とは違い、“災害処方箋”では患者さんへの窓口の負担は発生しないので、お金の支払いがないこともしっかりとおさえておきましょう。
- 保険処方箋と災害処方箋で法的根拠と請求先が異なる
- 災害処方箋を受け付けた際、患者さんの負担額はなし