薬剤師に求められるチーム意識と責任 -医療マンガで学ぶ第一回
2020年に放送されたテレビドラマ「アンサングシンデレラ」は大きな話題を呼びましたが、このドラマは病院薬剤師を主人公にしたマンガが原作です。医師や看護師が主人公のマンガは多くありますが、薬剤師という職種にスポットライトが当たることは珍しいので、皆さんの記憶にも残っているはずです。このマンガを読んで、薬剤師という職業を誇りに感じたり、日々の仕事にやる気が出た方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、医療をテーマにした有名なマンガ、ニッチなマンガを紹介しながら、そのストーリーやキャラクター、あるいはそのセリフから、私たち薬剤師が学ぶべき内容を考えていきたいと思います。
©乃木坂太郎・永井明/小学館
■今回のマンガ
タイトル:医龍
作者:乃木坂太郎/永井明
主人公:胸部心臓外科医 朝田龍太郎
出版社:小学館
連載:2002年〜2011年
「医龍」は、大学病院の封建的な体制を改革するために、助教授(現在は准教授)である加藤が、天才心臓外科医の朝田龍太郎をスカウトし、研修医の伊集院らと共に数々の難手術をこなしながら教授職の椅子を狙う、というストーリーです。
心臓外科や救急医療という、人の生死に日々直面する医療現場のリアルだけではなく、大学病院に勤務する医師や看護師などの人間ドラマも細かく描かれています。私が薬科大学の4年生の時に、大好きなマンガを通して医療の知識を吸収したいと思って読んでいたので、とても思い入れがある作品でもあります。
“チーム医療”の一員であることの意味とは
研修医の伊集院は、朝田の執刀する”難易度の高い手術”のメンバーに選ばれます。研修医である自分が選ばれたことに動揺しながらも、覚悟を決めてその日を待っていました。しかし、助教授の加藤は伊集院の実力を疑っており、ある手術でその能力をテストしようとします。このとき伊集院は、朝田が当然助けてくれるものだと期待していましたが、当の朝田は「何も手伝わない」と伝え、更にこのように突き放します。
©乃木坂太郎・永井明/小学館 医龍4巻 P10
誰かが助けてくれるのがチームじゃねえ。死に物ぐるいで全員の役に立とうとするのがチームだ
©乃木坂太郎・永井明/小学館 医龍4巻 P11
「医龍」は、教授選や心臓外科手術など見所がたくさんあるが、その中でも研修医である伊集院の”成長”は大きなテーマとして描かれる。朝田のセリフは一見、冷たいように見えるが、これは伊集院を自分のチームの一員であると認め、成長するチャンスを与えている。最高のチームを作って患者を助ける、そんな朝田の思いを感じることができるセリフである。
医療職の中では、薬剤師は他職種のスタッフと連携する機会にそこまで恵まれているわけではありません。そのため、なんとなく仲間意識が薄れてしまうこともありますが、ひとりの患者さんを治療するための”チームの一員”であることに間違いはありません。
「最終的には医師や看護師が何とかしてくれるだろう」という意識で、「薬を間違えなければ良い」、「用法用量や注意事項を伝えていれば良い」と考えているようでは、チームの一員とは言えないでしょう。ひとりの患者さんを治療するというチームの中で、薬剤師として自分にもっとやれることはないか、朝田の言うとおり”死に物ぐるいでチームの役に立とう”というくらいの気概を持って考える必要があるしょう。それができてこそ、薬剤師も”チームの一員”だと胸を張って言えるのだと思います。
そしてこれは、他職種と関わるチーム医療の場だけでなく、薬局や病院の調剤室の中でも言えることです。医師や看護師を含めた大きなチームがあれば、自身が働く部署の中にも同僚の薬剤師や事務員を含めた小さなチームがあります。このチームを機能させるためにも、ひとりひとりの薬剤師が「全員の役に立とう」と、死に物ぐるいで頭を働かせなければなりません。
チームであるために背負う責任の重さ
上記の手術をなんとか終えた伊集院は、加藤のテストに合格したことを朝田から告げられます。伊集院は、研修医である自分に、難易度の高い手技を要求したことに対して「自分が失敗したらどう責任を取るのか?」と朝田に問います。すると、朝田はこのように答えます。
©乃木坂太郎・永井明/小学館 医龍4巻 P41
オレのチームに入った以上、これからも責任をしょわせるさ
伊集院は凡人・・・どこにでもいる研修医として描かれている。私も含めた多くの読者は、天才である主人公・朝田ではなく、凡人である伊集院に感情移入してしまうだろう。朝田は、間違ったことを一つも言っていない。ただ純粋に事実を伝えて、伊集院の成長を促す。このように”責任”の重さに悩むことも、成長するために必要な要素だと朝田は考えているのかもしれない。
研修医にとっては、とても厳しい言葉です。しかし、自分で決めて自分で行ったことに責任を負うのは当然であるとも言えます。
責任とは、立場上負わなければならない任務や義務のことですが、私たち薬剤師ももちろん、「薬」の関わるところでは多くの責任を負っています。薬のプロフェッショナルとしてチームに関わっている以上、「この薬はあまり詳しくなかったから説明がうまくできなかった」、「この薬にそんなリスクがあるとは知らなかった」という言い訳は通用しません。自分が引き受けた投薬で起きたこと、自分が伝えた指導の結果などには、自分で責任を負う必要があります。朝田の言うとおり、それで患者さんに不利益が起きた場合は、自身が頭を下げて解決しなければなりません。
チームで働き、チームで乗り越えよう
一見すると、薬剤師の仕事は調剤や監査のように、自分一人だけで行っているように見えるものが多いでしょう。しかし、これらの業務も医療という大きなチーム、薬局や薬剤部という小さなチームで行うものの一部です。
自分が何をすれば、何ができるようになればこのチームの役に立てるのか。そのために何を学び、どんな経験をするべきなのか。朝田の表現を借りれば、”死に物ぐるい”で考え続ける必要があります。
・・・と、このように述べると、自分は”チームの一員”としてやっていけるのだろうかと不安になるかもしれません。しかし、そんな不安になった時に助けてくれるのもまたチームなのです。
一人では救えない患者さんも、チームであれば救えるかもしれません。一人では分からなかったことも、仲間の薬剤師と一緒に考えれば解決するかもしれません。さらに、責任の重さに耐えられなくなりそうな時に、支えてくれるのもチームの仲間であるはずです。実際に「医龍」でも、朝田が一人では助けられない患者をチームで助けるシーンが描かれています。そして、本当の意味で朝田が仲間に助けられるという展開もあります。
自身が所属するチームを改めて意識し、そのチームでどのような貢献ができるかを考えてみましょう。そこには責任が伴いますが、辛い時や苦しい時はきっと力になってくれるはずです。