薬剤師の職能に誇りを持って働くために -医療マンガで学ぶ第二回-
2020年に放送されたテレビドラマ「アンサングシンデレラ」は大きな話題を呼びましたが、このドラマは病院薬剤師を主人公にしたマンガが原作です。医師や看護師が主人公のマンガは多くありますが、薬剤師という職種にスポットライトが当たることは珍しいので、皆さんの記憶にも残っているはずです。このマンガを読んで、薬剤師という職業を誇りに感じたり、日々の仕事にやる気が出た方も多いのではないでしょうか。
今回は、麻酔科医をテーマにした「麻酔科医ハナ」を紹介しながら、薬剤師の職能に誇りを持って働き、若手薬剤師を導けるようになるために必要なことを考えます。
©なかお白亜・松本克平/双葉社
■今回のマンガ
タイトル:麻酔科医ハナ
作者:なかお白亜・松本克平
主人公:麻酔科医 華岡ハナ子
出版社:双葉社
連載:2007年〜
外科や救急といったスポットライトを浴びやすい診療科の陰で、手術を受ける患者さんの生命活動を管理する”麻酔科医”を取り上げたマンガ・・・それが「麻酔科医ハナ」です。後期研修医1年目の主人公、華岡ハナ子が麻酔科医という仕事に悩みながらも患者を救い、病院内での人間関係を乗り越えて成長する姿を、シリアスかつコミカルに描いた物語です。
このマンガに出会うまで、麻酔科医という専門医師について私はほとんど知識がありませんでした。同じ医療者として、そして同じく陰ながら患者を支える薬剤師として、こちらの作品には共感できるストーリーがたくさんあるので、今回の記事でその一部をご紹介します。
地味で目立たない仕事にもたくさんの価値がある
主人公の華岡は、毎日飛び込んでくる麻酔のオーダーをなんとかこなしながら成長していきます。その日も明け方4時まで業務をした後、仮眠するための場所を探します。しかし、控室は埋まっており、廊下のストレッチャーも別のスタッフに使われていました。そこでやむを得ず手術着に着替え、手術台の上で仮眠を取ろうとした時に、“手術を迎える患者の気持ち”に気付きます。不安を抱える患者に麻酔科医である自分は何ができるのか、指導医である火浦は“患者さんのために自分では気づかない気遣い”をしている光景を目にしてこのように考えます。
ついつい分かりやすくて派手なことに走りたくなるけれど、私も・・小さな事にも気づかえるそんな麻酔科医になりたいよ・・・
引用:麻酔科医ハナ3巻 P45
主人公の華岡は、やる気と元気は人一倍ですが、少し空回りすることもある愛らしいキャラクターです。思うようにいかない業務の中でも、周りの仲間に助けられながら自分の役割や業務に責任を持ち成長していきます。華岡に共感する人も多いと思いますが、華岡を一人前の麻酔科医に導こうとする周りの先輩医師の言動に注目することも、この作品を読む上で重要です。3巻 P46のシーンでも、指導医の火浦が示した言動で華岡はまた一つ成長しました。
薬剤師という仕事をゴールキーパーに例える方もいます。攻撃をして点をとるのではなく、相手からの攻撃を防ぎ、チームの失点をできるかぎり少なくする・・・一見、地味な仕事であると言えるかもしれません。医師の処方箋に従って調剤し、間違いのないように監査して、患者さんに適切な治療ができるようにする。処方に疑義を見つけたり、患者さんから聞き取った情報を医師や他の医療職に伝えたりと、目立つ派手なことよりも、どちらかと言えば様々なフォローをしていると思う方も多いでしょう。
しかし、「目立たないから」「地味だから」という理由で、その仕事の価値が下がるわけではありません。患者さんを救うチームである以上、それぞれに役割と責任があります。薬剤師は薬のプロフェッショナルとして、医師や看護師らとともに患者がより良い人生を歩めるようにその職能を発揮しなければなりません。
派手なことや目立つことにチャレンジしてみたいという気持ちを大事にするのも良いでしょう。ただ、仕事は自分のためではなく、患者さんのために取り組むものです。そして、目立ちたいと思って他の人や職種と競うのではなく、今の自分と競って成長する気持ちを忘れてはいけません。
薬剤師である自分を誇りに思って、患者さんに向き合う
華岡は、業務のやりがいについて悩んでしまいます。自分なりに一生懸命にやっているつもりでも周りからは認めてもらえず、外科の医師からは名前も覚えてもらっていませんでした。そんな落ち込んだ気持ちで麻酔を行っていたある日、そのことを上司に見抜かれて手術室を追い出されてしまいます。麻酔科医という自分の仕事にやる気を失い、なぜ周りの仲間はこの仕事ができるのかと考えますが、その一つの答えを別の上司である浅野目から聞かされます。
©なかお白亜・松本克平/双葉社 麻酔科医ハナ1巻 P189
こんなクソ厳しい仕事・・誰がやるって?私はやるわ。麻酔にはそれだけの価値があるし、それができる自分を誇りに思えるから
自分の仕事が嫌になって投げ出したくなった人もいるかもしれません。そのような葛藤は、成長するために必要なことでもあります。そのような時、このシーンの浅野目のように、しっかりと向き合ってくれる仲間や上司がいるかどうかで、その人の人生は大きく左右されるでしょう。若手の目を見て、自分の仕事に誇りを持っていると伝えることができる・・・自分もそんな上司や先輩でありたいと思います。
私は薬剤師として働いていますが、医療業界以外の方と話をする機会も多いです。その時に、「薬剤師さんは仕事をするのに膨大な知識が必要で、患者さんの命に関わる薬を扱っているから大変な職業ですよね」と声をかけられることがあります。最近は違和感がなくなったのですが、以前は少し気になっていました。「自分の仕事はそこまで重要なものなのか?世間で思っているような薬剤師に自分はなれているのか?」と考えていたからです。もしかしたら私と同じような思いの方もいるかもしれません。
前述したように、私たち薬剤師の仕事は派手ではなく、目立たないことも多いでしょう。でもそのような中で、医師が必死に考えた処方を間違いなく患者さんに届け、その治療をできる限り無理なく確実に続けていけるようにサポートする。さらに、他の病院の薬や別の疾患との兼ね合い、患者さんのライフスタイルの変化や精神的な揺れなど多種多様なイベントが起こる人生において、頼れる医療者として寄り添い続ける。薬剤師の行うこれらの業務は、存分に誇りを持つべきものでしょう。
若い薬剤師を導くロールモデルに
どんな仕事も大変ですが、薬剤師も例外ではありません。患者さんへの指導がうまくいかなかったり、医師に怒られてつらい思いをしたりすることもあるでしょう。そんな時、自分に自信がなくなったり、自分の業務に誇りを持てなくなったりすることもあります。
私たち薬剤師にとって、患者さんがより良い生活をできるよう支援することは重要です。しかし、特に”先輩”や”上司”の立場にある薬剤師は、周りの薬剤師が自分を見失わないようロールモデルとなることも重要です。前回の記事では、チーム意識を持つことが大事であるとお伝えしましたが、これは業務を手助けするだけではなく”精神的な支え”になる、ということも意味します。
薬剤師の仕事に意味を感じられなくなってしまったり、誇りを持てなくなってしまった人がチームに居たら、時には厳しい声かけが必要かもしれません。それは、本人だけではなく、その薬剤師が関わる患者さんのためにもなります。
誇りを持って働くためには、知識や技術を身につけながら、何度も立ち上がれる環境を整備することも必要です。