高いプロ意識を持つ薬剤師であるために -医療マンガで学ぶ第四回-
2020年に放送されたテレビドラマ「アンサングシンデレラ」は大きな話題を呼びましたが、このドラマは病院薬剤師を主人公にしたマンガが原作です。医師や看護師が主人公のマンガは多くありますが、薬剤師という職種にスポットライトが当たることは珍しいので、皆さんの記憶にも残っているはずです。このマンガを読んで、薬剤師という職業を誇りに感じたり、日々の仕事にやる気が出た方も多いのではないでしょうか。
今回は、災害現場で活躍する医師を題材にした「Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス〜」を紹介します。医療の現場では、様々なプロフェッショナルが患者さんの治療に関わります。その中で、薬剤師が持つべきプロ意識とはどのようなものかについて、瓦礫の下での医療を描いた本作品のシーンを交えて考えていきます。
©菊地 昭夫・高野 洋/集英社
■今回のマンガ
タイトル:Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス〜
作者:菊地 昭夫 (著), 高野 洋 (原著)
主人公:内科医 八雲響
出版社:集英社
連載:2011年〜2016年
病院内で治療をする救急医療ではなく、災害が起きた時に現場に急行し、「瓦礫の下の医療」に従事する医療組織があります。災害現場で命を繋ぐことを使命としている、Disaster Medical Assistance Team、略して“DMAT”を題材にした「Dr.DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス」のご紹介をします。
交通事故や地震などの目を覆いたくなるような災害現場において、救出作業と並行して医療を提供する緊迫した場面を、スピード感ある展開と迫力ある画力で描いた作品です。限られた物資と時間の中でギリギリの選択を迫られるキャラクターの心情も緻密に表現されています。
東日本大震災や熊本地震の際は、薬剤師も医療者の一員として現地で活躍しました。医師や看護師だけではなく、薬剤師も災害の現場で活躍することが増えている中、今回はこちらの作品を通して、薬剤師のプロ意識について考えていきたいと思います。
薬のプロフェッショナルである薬剤師の役割とは?
東京DMAT指定病院である有栖川病院には、主人公の八雲が率いるチームの他にも活動しているチームがいくつかあります。ある日、外科の村上が率いるチームは大規模な雪崩が起きた現場へ出場することになります。村上のチームは、臨時救護所で交代・補充要員として待機しますが、正義感が強い看護師の山月は、被災者がほとんど運び込まれて来ないために焦りと苛立ちを隠しきれません。その時に、医師である村上は、自分たちは医療のプロであって、荒れ始めた雪山で出来る事はないと伝え、このように続けます。
©菊地 昭夫・高野 洋/集英社 Dr.DMAT9巻 P158
現場には現場のプロがいる・・・お前もプロなら自分の役割をはたせ。万全の態勢で受け入れに備えるのが俺達の仕事だ
主人公の八雲は現場での冷静な対処と的確な判断、外科の村上は豊富な経験を活かして、それぞれDMATの隊員として活躍します。彼らは2人とも非凡な才能を持っているキャラクターとして描かれているため、看護師の山月に共感する読者の方が多いかもしれません。やる気や使命感はあるが空回り、周りに迷惑ばかりかけてしまう彼に、看護師という医療者のプロであること、そしてDMATというチームに求められている役割があることを諭すこちらのシーンは、本作品の見所の一つです。
薬剤師は言うまでもなく“薬のプロフェッショナル”です。では“薬のプロフェッショナル”に求められる役割とはどのようなものでしょうか。
例えば、薬のことであればなんでも答えられる辞書のような薬剤師。あらゆる調剤を正確かつ素早くこなし、薬の安定性や保管方法にも精通している薬剤師。医師に負けないくらい疾患や治療の知識を併せ持つ薬剤師。このような薬剤師はプロフェッショナルと呼ぶにふさわしいでしょう。
ただ、ここにもう一つの視点を含めて考えたいと思います。対物から対人へ業務をシフトするように「患者のための薬局ビジョン1)」で示されてから、薬剤師は特に患者さんを意識して仕事をすることを求められるようになりました。正確に薬を渡すことに加えて、薬剤師それぞれが目の前の患者さんとその治療法を評価し、その専門性を発揮して治療をよくするため積極的に参加することが求められています。
医師である村上は、「現場には現場のプロがいる」と伝えています。これは、災害の現場で救助を行うプロと、医療のプロである自分たちを区別しているセリフですが、医師である自分と看護のプロである山月の違いを表しているとも言えます。
患者さんの治療という大きな目的のために、病院や保険薬局には薬剤師というプロがいます。私たち薬剤師は、薬のプロとしての役割を再確認し、日々の業務に向き合う必要があります。
自らの行動の結果を大切にする姿勢がプロを作る
主人公の八雲の同僚である脳外科医の伊勢崎が率いるDMATは、ある交通事故に出場します。その現場では、伊勢崎の過去のトラウマも影響してしまい、被災者を助けることができませんでした。心身ともに過酷なDMATの活動を辞めると決めた伊勢崎は、偶然にも同僚のDMATの一員である看護師の吉岡と会って話をします。DMATの過酷さ、主人公である八雲のDMATとしての目覚ましい活躍を目の当たりにして、なぜこんな仕事を続けられるのかと吉岡に問います。吉岡は、DMATは見返りも少なく割りに合わない仕事であると答えたとにこのように続けました。
©菊地 昭夫・高野 洋/集英社 Dr.DMAT8巻 P148
やる前の損得よりもやった後の結果。その姿勢が人を一流のプロにするんだと思います
良いチームに共通するのは、医師や看護師といった立場に関係なく、思っていることを伝え合える間柄だと思います。伊勢崎は、全てにおいて秀でており自信の溢れるキャラクターですが、満たされない何かをずっと探しているようにも描かれています。自分が思い描いていた未来とは少し違うDMATという現実の中で、その欠けていた何かが周りの仲間達によって満たされていく、という描写も本作品の魅力です。
吉岡はこのセリフの後、「仕事と自分を裏切らず全力を尽くすようなプロ意識の高い看護師になりたい」と続けました。
薬剤師は、地味で大変なこともある仕事です。朝から晩まで調剤や監査をしたり、病院や薬局に来られない患者さんの自宅に薬を届けて治療の支援をしたり、入院患者さんの状態に目を光らせたり、業務がひと段落したと思ったら明日の準備や薬歴の作成などに追われたりするのが、日常です。
薬剤師の仕事が頑張りに見合わない、と落ち込む時もあるでしょう。しかし、その頑張りのお陰で日々の治療がより良くなる患者さんが多くいることは、間違いありません。薬剤師として、自分が作り上げてきたこれまでに目を向けてみると、損得ではない結果があるはずです。プロだから素晴らしい活動をしているということではなく、素晴らしい活動を積み上げてきた結果、一流のプロになっていくのです。
くたくたになるまでのめり込めることも才能の一つ
八雲の患者さんでもあるパティシエの柏木が、内科医とDMATの活動で疲れ果てた八雲の姿を見て声をかけるシーンがあります。
才能のない者には、くたくたになるまでのめり込む事は出来ないんですよ!
©菊地 昭夫・高野 洋/集英社 Dr.DMAT2巻 P40
“プロフェッショナル”と感じる人たちには、日々そのことばかりを考えて集中し、ボロボロになるまで働いている人が多いように思います。患者さんに良い対応ができなかった、他の医療職とうまくコミュニケーションが取れなかった、勉強不足で知らないことがあったなど、頑張ってもなかなか満足のいく成果につながらないこともあります。
ただ、柏木の言うように、そこまで薬剤師にのめり込んでいることがすでに才能の一つかもしれません。自分が積み上げた結果を受け止め、それによって作られたプロ意識の高い薬剤師を目指す…「Dr.DMAT」に薬剤師は登場しませんが、それぞれの役割を全うすることの大切さを教えられた作品です。