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医療マンガで学ぶ薬剤師の矜持

更新日: 2021年11月20日 小原 一将

1+1を3にする、チーム医療に求められる薬剤師の役割-医療マンガで学ぶ第五回-

マンガで学ぶ「チーム医療に求められる薬剤師の役割」の画像1

2020年に放送されたテレビドラマ「アンサングシンデレラ」は大きな話題を呼びましたが、このドラマは病院薬剤師を主人公にしたマンガが原作です。医師や看護師が主人公のマンガは多くありますが、薬剤師という職種にスポットライトが当たることは珍しいので、皆さんの記憶にも残っているはずです。このマンガを読んで、薬剤師という職業を誇りに感じたり、日々の仕事にやる気が出た方も多いのではないでしょうか。

今回は、放射線技師を題材にした「ラジエーションハウス」を紹介します。放射線科医としての医師の資格を持ちながら、放射線技師として働く主人公・唯織の考えや働き方は、薬剤師がチーム医療の中でどのような働き方をすれば良いのかを考えるきっかけになります。

マンガで学ぶ「チーム医療に求められる薬剤師の役割」の画像2

©モリタイシ・横幕 智裕/集英社

■今回のマンガ
タイトル:ラジエーションハウス
作者:モリタイシ (漫画), 横幕 智裕 (原作)
主人公:放射線技師(放射線科医) 五十嵐 唯織
出版社:集英社
連載:2016年〜

放射線科医とは「放射線診断」と「放射線治療」を専門に行う医師のことです。現在は、内視鏡やMRI 装置などX 線を使わない診断分野も増えているため、画像診断を主に行う放射線科医を画像診断医と呼ぶようになっています1)。そして、それらの診断に必要な撮影を実際に行っているのが放射線技師です。

偶然なのですが、「麻酔医」「病理医」「放射線科医」という一般的な臨床医とは異なった医師を題材とするマンガを本連載で取り上げることになりました。その中でも「病理医」や「放射線科医」は“ドクターズドクター”とも呼ばれ、臨床の現場で医師が診断をする際に意見を求めるため、臨床医にとって欠かせない存在になっています。

そんな医師のための医師と呼ばれる放射線科医を取り上げた作品が「ラジエーションハウス」です。放射線技師でありながら、放射線科医の資格を持つ主人公の唯織が、患者を救うためにチームとして治療にあたる姿勢は、私たち薬剤師にとっても必要な考えが詰まっています。

それぞれの「専門性を発揮する」ためのチーム医療を意識する

主人公の唯織は、医師の資格を持ちながら甘春総合病院で放射線技師として働いていました。それは、「唯織の幼なじみである甘春杏が放射線科医になり、唯織は放射線技師としてその手伝いをする」という子どもの頃の約束を果たすためです。「医師免許を取った方が、放射線技師として働く上でより放射線科医の役に立てる」と唯織は考えたことから、医師免許を取得し、研鑽を積んで優秀な放射線技師となりました。
医師免許を持ち、しかも優秀である唯織が医師として働いたが方が、より多くの患者さんを救えるのではと杏は提案しますが、唯織はその提案を否定した後、「杏が、放射線科医の仕事には、放射線技師の力が必要だと教えてくれた」と答えて、このように続けます。

マンガで学ぶ「チーム医療に求められる薬剤師の役割」の画像3

©モリタイシ・横幕 智裕/集英社 ラジエーションハウス9巻 P78

僕達、放射線技師と放射線科医がひとつのチームとして、それぞれが最高の仕事をする事によって、より多くの患者さんを救えるようになると思っています

本作品は放射線技師と放射線科医をテーマにしており、それらがチームとして働く必要性を伝えている。唯織の放射線技師としての圧倒的な実力が多く描かれているが、その技師としての実力を活かせるかどうかは放射線科医の実力も影響する。放射線技師と放射線科医の専門性をうまく融合させて、多くの患者さんを救うために必要な”信頼”というキーワードが作中に多く散りばめられており、それを最も表しているシーンがこのコマである。

本作品の唯織は医師免許を持っており、医師として患者さんを救うことができます。しかし、その知識と経験を放射線技師として使いながら、放射線科医とチームを作って協力することで、より多くの患者を救うことができると話します。

薬剤師の話に置き換えてみましょう。チーム医療の推進についての報告書2)には、“チーム医療において、薬剤の専門家である薬剤師が主体的に薬物療法に参加することが、医療安全の確保の観点から非常に有益である。”と記載があります。たとえば病院では医師をはじめとした医療職との連携、薬局ではケアマネージャーや介護職との連携など、私たち薬剤師に求められる責任と役割は大きくなっています。

薬剤師は診断をしたり、治療行為を行ったりすることはできません。しかし、薬剤師としての高度な専門性を活かして医師や看護師など他職種と連携し協力し合うことで、目の前の患者さんをチームとして救うことができます。薬剤師としての自分を高めていくだけでは「1」のままですが、他職種とチームを作って「1+1」を「3」にする意識を持つことがとても重要です。

薬剤師の業務は奪われるのではなく、任せて新しく創り出す

ある日、唯織のもとに、恩師で放射線科の権威であるピレス教授から動画メッセージが届きます。それは、「放射線科医の代わりにAIが読影するソフトを開発したいので力を貸してほしい」という内容でした。このAIが完成すれば、世界のどこにいてもレベルの高い診断を受けることが可能になるというものであり、その取り組みに共感した唯織は、AIに覚えさせる読影レポートを手伝うことに決めます。そのメッセージの中でピレス教授は、画期的なシステムであるがゆえの意見に対する自身の思いをこのように伝えた。

マンガで学ぶ「チーム医療に求められる薬剤師の役割」の画像4

©モリタイシ・横幕 智裕/集英社 ラジエーションハウス7巻 P38

それによって仕事を奪われてしまう・・・と懸念する者もいるだろう。しかし私はこう考えたい、我々の仕事の質を高める、これはチャンスだと・・・!AIの進化による効率化で生み出された時間で、今まで以上に新しい挑戦をすることが出来る

今から10年ほど前の2013年の研究で、アメリカの雇用全体の47%がコンピュータによって置き換わる可能性があると発表されました3)。これを耳にして、自分の仕事がなくなるのかどうか悩んだ方も多いと思います。
今回取り上げた『ラジエーションハウス』という作品では、こういった時事的な内容もよく取り上げられています。最新刊(2021年11月現在)である11巻では、2007年に立ち上がった小児の医療被ばく低減を推進する世界規模のキャンペーンであるImage Gently(イメージジェントリー)4)がテーマになっています。普段の薬剤師業務ではあまり馴染みのないものかもしれませんが、ぜひ本作品から色々な情報を吸収してみてください。

科学の進歩により、様々なことが出来るようになっています。例えば、スマートウォッチという時計型のデバイスは、心拍や呼吸などを日常で計測することが出来ると注目されていますが、この機能自体が直接、私たちの生活を豊かにしてくれるわけではありません。確かに、これまでは専門の医療機関で大きな機械を使用しなければわからなかった私たちの身体の状態を、数万円の小さな機械によって可視化出来るのは素晴らしいことです。しかし、それはあくまでも指標を提示してくれるだけであり、その指標をそれぞれの人生に役立てていくためには、その分野の専門家の助けが必要になります。

「IT化やAIによって薬剤師の仕事が失われていくかもしれない」ということがよく話題になりますが、これまで膨大な時間を使っていた、調剤業務や残薬・併用薬の確認、これらを機械に任せることができるようになるかもしれません。そうすると、たとえば先ほどのスマートウォッチによって収集された情報を使って、薬剤師はより細やかな患者さんへのフォローに時間を使うことなどができます。

ITやAIはあくまでもツールであるので、ピレス教授の言うように、薬剤師として新しいことにチャレンジする機会をもらえたと考えることが良いでしょう。これらは、決してネガティブなことではなく、薬剤師の専門性をより発揮して、私たちが自分らしく働くことに繋がるはずです。

(参考:
https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/2218

薬剤師だからこそ出来ることを意識して、チームに貢献しよう

患者さんは・・・診察室では上手く症状を医師に伝えられないことも多いです。そんな時は、検査室で患者さんと直接向き合う僕達技師だからこそ気付けることもあると思うし、患者さんを救える助けになることも出来ると思うんです

©モリタイシ・横幕 智裕/集英社 ラジエーションハウス4巻 P102

こちらのセリフは、そのまま薬剤師にも当てはめることができます。診察室で医師には話せなかったこと、看護をしてくれた看護師には話せなかったこと、家族にも誰にも話せなかったこと、それらを私たち薬剤師は拾い上げることが出来るかもしれません。

それは医師や看護師よりも薬剤師が優れているという意味ではなく、薬剤師がチーム医療の一員として専門性を発揮しながらチームのために役立つことで、より多くの患者さんを救うことに繋がるということを表します。

ITやAIを上手く利用し、それによって生まれた時間を使ってチームの力を向上させていくことが薬剤師にも求められており、本作品はそんな考えや気づきの助けになる作品です。

1)日本医学放射線学会
2)チーム医療の推進について
3)
4)国立成育医療研究センター

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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