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2018年、求められる薬局と薬剤師のあり方

更新日: 2018年3月9日 狭間 研至

「患者のための薬局ビジョン」と2018年度調剤報酬改定vol.2

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少し旧聞に属するかも知れませんが、2015年10月に厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン」が示されました。健康サポート機能や高度薬学管理機能という概念が含まれた資料をご覧になって「そうなればいいけど、なかなか難しいのでは?」と思われていた方もいらっしゃるかも知れません。あの発表から2年余り経ちました。

2月7日に発表された2018年度調剤報酬改定は、実は、この「患者のための薬局ビジョン」とその源流となる2013年に発表された「地域包括ケアシステム」にあると考えると、目指す方向性がわかります。また、今回のみならず、次回以後も当面続く診療・介護報酬改定がどのように進み、どう対応すべきかが見えてきます。


今回は、つなげてみると意外に理解しやすい「患者のための薬局ビジョン」と「2018年度調剤報酬改定」について、そのポイントをみなさまとシェアしたいと思います。

(参考)厚生労働省【令和2年度診療報酬改定について】 

(参考)厚生労働省【患者のための薬局ビジョン】 


「地域包括ケアシステム」の流れをくむ「患者のための薬局ビジョン」

念のため申し上げますが「患者のための薬局ビジョン」は唐突に現れたわけではありません。超高齢社会に求められる新しい社会保障制度の基本的な考え方である「地域包括ケアシステム」を薬局に当てはめるとどうなるかを考え、まとめられたのがこのビジョンです。

地域包括ケアシステム」では、「高齢者の尊厳と自立生活の支援」とともに「住み慣れた地域でその人らしく最期まで安心して暮らす」ことを、到達イメージとして持っています。しかし、そのためには、在宅療養支援システムを充実させることが不可欠です。

介護を受けられる高齢者のほとんどが経口薬や外用薬による薬物治療を受けている一方で、認知機能や身体機能の低下もあります。服薬コンプライアンスが低下し、薬物治療の質や安全性が揺らいでいる今、現状の薬局のあり方は変えるというのは、当たり前のことと言えるのではないでしょうか?

言うなれば、薬局や薬剤師という地域における巨大な医療リソースが「門前」という立地に固執し、患者さんが処方せんを持って来るのを待ち、薬という「モノ」を渡す業務に専念しています。そんな状況は変えなくてはなりません。「患者のための薬局ビジョン」では、以下の3つのテーマが明示されています。それぞれを詳しくみていきましょう。


薬局ビジョンの3つのテーマは「かかりつけ薬剤師」への期待そのもの

1.「立地依存」から「機能依存」へ

処方せんをお持ち込みになる患者さんを対象とした業務フローを持った薬局には2つの特徴があります。ひとつは、医療機関で診察を済まされた患者さんに、薬局へ来ていただくためにできるだけ医療機関に近接してお店を構える必要があるということ。もうひとつは、できるだけ早く、正しく、わかりやすい説明とともにお薬をお渡しするということです。

しかし、今後も高齢化が進む我が国では、1人の患者さんが複数の病院を受診することが予想されます。特定の医療機関の近隣という立地に依存して、医師の処方に従ってお薬を準備するという単独の業務に専念しているだけでは、複数の医療機関から処方を受ける患者さんが求めてている薬局の機能は果たせません。

2.対物業務」から「対人業務」へ

モノからヒトといわれてもぴんとこないという方もいらっしゃると思います。少し見方を変えて、「お薬を渡す」というモノを扱う仕事から、「薬を飲んだあとまでフォローして患者さんがよくなったことまで診る」というヒトを扱う仕事への変化と捉え直すと理解しやすいかも知れません。

そのためには服薬背景に配慮し、熱心に指導を行うだけでは不十分です。例えば、降圧剤を調剤し交付するだけではなく、実際に血圧が下がったかどうか、また、下がりすぎてないかどうかをチェックすることが必要です。至適血圧に達していないときには、残薬のみならず、重複投与や相互作用の有無を確認して、薬学的見地から医師へフィードバックし、次なる一手をともに考えることが必要だと思います。

3.「バラバラ」から「一つ」へ

薬剤師が複数の医療機関から受けた処方を見て最適な薬を準備し、ヒトを診るようになれば、自然と患者さんは薬剤師に「かかりつけ」るようになります。処方歴が一カ所でまとめられるだけではなく、さらにOTC薬や機能性食品、地域にある医療や介護の情報が得られることにもなれば、患者さんの地域での療養はより安全・安心なものになっていくのではないでしょうか。



以上のような背景を理解していくと、薬局は決して医療機関の「門前」にある必要はありません(あっても良いのですが、それが必須条件ではなくなります)。また、患者さんが困ったとき、特定の薬剤師(=かかりつけ薬剤師)に相談するようになり、薬剤師はクスリというモノだけを扱う存在ではなく、患者さんというヒトを対象に仕事ができるようになります。

「住み慣れた地域で最期まで」の実現と、2018年度調剤報酬改定

2018年度調剤報酬改定では、立地に依存した薬局での対物業務のコストは、ある程度の事業規模があれば、ドラスティックに下がってしまいます。一方、薬剤師が患者さんを継続的に見て、残薬のみならず、相互作用などの可能性を念頭に置いて状態をフォローアップしたり、そこで得られた薬学的アセスメントを医師にフィードバックして処方をより適正なものにしたりといった行動は、評価が高められるようになっています。

例えば、中長期にわたって6種類以上処方されている薬を2種類以上減薬できるように調整する「服用薬剤調整支援料」と、医師からの求めがあったときの「服薬情報等提供料」などが新しく設定されました。そして、これらは医師との連携によって従来の評価よりも引き上げられています。

これらの評価ポイントは「住み慣れた地域で最期まで暮らすこと」をサポートするためには必要な業務だと考えると腑に落ちるのではないでしょうか?この2つに限らず、いろいろな点数の設定を読み込み理解するに、ぜひ「患者のための薬局ビジョン」を「地域包括ケアシステム」から続く流れの一環として読み直してみてはいかがでしょうか。

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狭間 研至
はざま けんじ

ファルメディコ株式会社 代表取締役社長、医師、医学博士。 医療法人嘉健会 思温病院 院長として、在宅医療の現場等で医師として診療も行うとともに、一般社団法人薬剤師あゆみの会、一般社団法人日本在宅薬学会の理事長、熊本大学薬学部・熊本大学大学院薬学教育部 臨床教授としても活動している。
また、薬剤師生涯教育として近畿大学薬学部、兵庫医療大学薬学部、愛知学院大学薬学部の非常勤講師として薬学教育にも携わっている。
主な著書は『薬局マネジメント3.0』『薬局が変われば地域医療が変わる』『薬剤師のためのバイタルサイン』など多数。

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