便秘で基本の漢方薬「大黄甘草湯」投薬時の注意点とは?
薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は「補中益気湯」について解説しましたが、第7回は「大黄甘草湯」を取り上げます。漢方では基本の便秘薬とされています。投薬時の注意点もおさえておきましょう。
参考資料
「中医学基礎理論」東洋医学研究会、神戸中医学院
「体質改善のための薬膳」日本国際薬膳師会 著 辰巳 洋 監修 緑書房
「漢方294処方 生薬解説 その基礎から応用まで」根本幸夫 監修 じほう
「中薬学」東洋医学研究会、神戸中医学院
「図説 中医学概念」山吹書店 汪先恩著
老若男女問わずよく聞く訴えのひとつに、便秘があります。西洋薬、漢方薬ともに便秘の薬は数多くありますが、その中でも漢方の基本ともいえる便秘薬の「大黄甘草湯」を今回取り上げます。
「大黄甘草湯」の成分はその名前の通り「大黄」と「甘草」のみです。以前紹介した「芍薬甘草湯」にも含まれる「甘草」が成分のひとつとなっています。漢方では「甘草」がよく使われます。それは、「甘草」がほかの薬の作用を補ったり、効き目が強く出すぎないようカバーしてくれたりする作用があるからです。ですので、この「大黄甘草湯」に期待する作用は「大黄」が中心で、その作用を緩和させるために「甘草」があります。
便中の水分が少なく硬い便の人に使われる
ところで、便秘とはどういう症状なのでしょうか。中医学的に考えると便秘は5つの原因が考えられます。ひとつは腸熱といって便中の水分の吸収が亢進してしまうことによる便秘です。ふたつ目は気滞により腸が痙攣して引き起こす便秘です。
3つ目は気虚により腸が弛緩し、腸の蠕動運動の機能が低下してしまう便秘、4つ目は血虚により腸が弛緩し、粘液が不足することによって起こる便秘、5つ目に陽虚により腸が弛緩し、蠕動運動ができないことによって起こる便秘となります。
同じ便秘でも、腸熱、気虚などなにが原因かで使われる薬が変わってきます。「大黄甘草湯」はひとつ目の「腸熱による便秘」に使用する薬になります。
腸熱による便秘の人は、大便が固く乾いています。顔面の紅潮、口の渇きがあり、体の中に熱を持っているので冷たいものを好む傾向、口が乾燥などにより臭く、尿が濃い、舌が紅色であるなどの症状がみられます。
こういった症状の人に対して「大黄甘草湯」に含まれる「大黄」は瀉下(しゃげ)作用により、症状をやわらげます。具体的には、腸の運動を刺激して排泄を促し、便通を図ります。さらに胃腸の炎症を抑えるといった清熱作用も持ち合わせています。
この清熱作用は、体の内部の熱を冷まし、腸熱を取り除き便を適正な状態にします。また、活血作用という血の流れをよくする作用、胃腸の調子を整える作用、駆瘀血という血のめぐりをよくする作用もあり、総合的に便秘を解消していきます。またこの比較的強めの「大黄」に「甘草」を加えることで前述のように「大黄」の瀉下作用を緩和し、腹痛を和らげて適切な効果を発揮させてくれるのです。
「大黄」の成分はセンノシド、重複投与に注意
ではこの「大黄」の成分はなんでしょう?主なものはアントラキノン誘導体、つまりセンノシドなのです。みなさんご存知のようにセンノシドは大腸の粘膜を刺激し、それによって便通を促すといった作用を示します。
ですから、投与する際にはほかのセンノシド製剤と同様に、胃腸がよわく、食欲不振や吐き気、嘔吐、下痢などを起こしやすい患者さんには慎重に投与した方がよいでしょう。 ま…