精神に不安があったり、疲れすぎて眠れない人に効果 ~酸棗仁湯~
薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は「八味地黄丸」について説明しましたが、第9回は「酸棗仁湯」を取り上げます。ストレスとそれに伴う不眠に用いられる漢方です。職場環境や人間関係のストレスで眠れない、といった症状にも出番が多い漢方です。
参考資料
「中医学基礎理論」東洋医学研究会、神戸中医学院
「体質改善のための薬膳」日本国際薬膳師会 著 辰巳 洋 監修 緑書房
「「漢方294処方 生薬解説 その基礎から応用まで」根本幸夫 監修 じほう
「中薬学」東洋医学健康会 神戸中医学院
新年度が近づくにつれ、心身ともにストレスを抱え、精神が不安定になり、不眠を訴える人が増えてくるのではないでしょうか。
中医学の観点からストレスやそれに伴う不眠がどのように起こってくるかを考えると、大きく「気の異常」と「血の異常」のどちらかが原因と考えられるものに分けられます。
「気の異常」からくるストレスや不眠とはイライラする、のぼせやほてりがある、動悸などを感じるといった「気逆」という状態の人、あるいはやる気が出ない、疲れやすい、食欲がないといった「気虚」の状態の人によくみられる諸症状のことを指します。
また、「血の異常」からくるストレスや不眠とは、貧血であったり、顔色が悪く、皮膚のかさつきや脱毛が気になるといった「血虚」の状態の人に見られる不眠やストレスのことを指します。
このように同じストレスや不眠でも原因となる状態が違うとおのずと用いる処方が異なってきます。
気虚の状態の人に用いられる「酸棗仁湯」
今回取り上げる「酸棗仁湯(サンソウニントウ)」は「気の異常」である「気虚」の人に対して効果がみられる処方になります。具体的には、体が疲れて気力が出ず、疲れているのに目がさえてしまうといった人に対してよく用いられます。
気が不足していて疲れているのに眠れないというのは、疲れすぎていると心身が軽い興奮状態になると考えられていて、覚醒と睡眠のリズムが乱れてきてしまいます。また、夜になるとその乱れから目がさえてしまうといった症状が現れてきます。「酸棗仁湯」はそういった症状を緩和するといわれています。
「酸棗仁湯」の処方は、「酸棗仁(サンソウニン)」「茯苓(ブクリョウ)」、「川芎(センキュウ)」「知母(チモ)」「甘草(カンゾウ)」からなり、そのうちの主成分である「酸棗仁」は気が上衡(ジョウコウ)してしまうことによっておこるのぼせや頭重感、めまい、身体動揺、精神不安などの症状を気を下ろすことによって改善せ、心を養い、肝を滋養し、血を補う作用を持つ養心安心薬に属します。特に肝の血が不足していることによる精神の不安定な状況を改善させるといわれていて、 そ…