日本で創製された漢方薬 ~治打撲一方~
薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は中国の国家中医薬管理局で発表された「コロナウイルスへの対策方法」について説明しましたが、第13回は「治打撲一方」を取り上げます。日常でふとした拍子に体をどこかにぶつけて内出血をしたり、強い痛みを感じることはよくありますが、そんなとき多くの方は非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用かシップ剤を張って痛みを軽減させることが多いかと思います。さらに言えばそのときに漢方薬を使用することを選択する方はあまりいないのではないでしょうか。
それは、漢方薬はゆっくり効く薬で、即効性がないという認識でいる方がまだまだ多いことが理由の一因ではないでしょうか。「治打撲一方(ヂダボクイットウ)」は読んで字のごとく打撲による痛みや腫れを治すための処方で、比較的即効性が期待できる薬だといわれています。
「治打撲一方」は日本で創製された漢方薬で、戦国時代の軍医たちが考え、江戸時代中期の医師である香川修庵(1683-1755)が整理して今の処方内容になったといわれています。
その構成成分は「桂皮(ケイヒ)」と「丁子(チョウジ)」、「大黄(ダイオウ)」、「撲そく(ボクソク)」、「川芎(センキュウ)」、「川骨(センコツ)」、「甘草(カンゾウ)」からなっています。
それぞれの成分の分類を見てみると、駆瘀血薬(体内に滞積した非生理的な血液を排除することにより血行を調える作用をもつ)に分類される「川芎」「川骨」そして「撲そく」、通便をはかり瘀血を除く作用を持つ瀉下薬に分類される「大黄」、陽気の循環を改善し体を温める作用をもつ補温薬に分類される「丁子」、発汗解熱薬に分類される「桂皮」と消化器を保護する役目をもつ補気薬に分類される「甘草」となっています。
参考資料
「図説中医学概念」山吹書店 汪先恩著
「漢方294処方生薬解説」じほう
「方剤学」東洋医学健康会神戸中医学院
「漢方トゥデイ 頻用処方解説 治打撲一方」秋田大学医学部付属病院 漢方外来 中永士師明
外傷性の腫脹は局所的な瘀血によるもの
駆瘀血薬が中心の「治打撲一方」がなぜ打撲に効くのかというと、中医学では外傷による腫脹は局所的な瘀血ととらえるからです。もともと血の病変は大きく血の不足である「血虚」と血行障害の「瘀血」に分けられます。「血虚」は血が不足している状態で貧血などがこれに当たります。一方の「瘀血」は気虚、気滞、痰飲、血寒、血熱、外傷、薬物などによる血流障害あるいは脈管損傷がそれにあたり、 全…