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漢方製剤の解説

更新日: 2019年9月6日 河本 ちかこ

お腹の冷えからくる便秘、下痢の両方に効く「大建中湯」

薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は「葛根湯」について説明しましたが、シリーズ第2回目は、「大建中湯」です。

出典
*1 ツムラ大建中湯エキス顆粒添付文書
*2 コタロー大建中湯エキス細粒添付文書
*3 月間薬事の記事(2018.2Vol.60No.3)
*4 ツムラ・メディカル・トゥデイ(2011.10.26)

お腹の冷えからくる便秘、下痢の両方に効く「大建中湯」 大建中湯の画像

皆さんご存知の通り「大建中湯」は①カンキョウ(乾姜)、②サンショウ(山椒)、③ニンジン(人参)と④コウイ(膠飴)からなります。

医療用医薬品として使用されている「大建中湯」は、ツムラの「大建中湯エキス顆粒」とコタローの「大建中湯エキス細粒」があります。効能効果はツムラのものは「腹が冷えて痛み、腹部膨満感があるもの」:*1で、コタローは「腹壁胃腸弛緩し、腹中に冷感を覚え、嘔吐、腹部膨満感があり、腸の蠕動亢進と共に、腹痛の甚だしいもの:胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛」*2となっていて、少し差異があるように思われますが、基本的には腹部の冷えによる症状に効果があると考えてよいでしょう。

具体的には「大建中湯」は、体力がなくお腹が冷えて痛み、軟便性の便秘や腹部膨満感を感じる人、四肢が冷えて多尿を感じたり、腹部の冷えから腰やひざなどにだるさを感じたりする人、自覚症状でいえば顔色が悪い、体がだるくて疲れやすい、腸の中で腸がモクモクと動いているような症状を感じる人に処方されます。このような症状の改善は服用後3週間前後で見られることが多く、1か月服用を続けても効果が感じられない場合は処方があっていない可能性があります。

またそれ以外にも、外科手術後の消化管運動不全や腹部膨満症状の改善に使用されていて、排便の回数や便の症状を変えることなく排便を促すといわれています。ただ、「大建中湯」の排便効果は効果発現まで少し時間がかかります。患者さんによっては数時間で効果が表れる方もいますが、通常3日程度はかかる場合が多いと考えてください。

体を温め胃腸の状態を改善―大建中湯の作用機序―

「大建中湯」は寒証腹痛に対する薬です。その作用を具体的に見ていきましょう。

「大建中湯」の成分である「乾姜」と「山椒」は温補薬に、「人参」と「膠飴」は補気薬に分類されます。温補薬は体内にある陽気の不足により体が冷えてしまった人に用いられ、陽気をめぐらせることにより、陽気不足による体の冷えからくる症状を緩和する働きがあります。一方の補気薬は大きく補気薬と補脾薬に分けることができます。補気薬はそれ自体に気を補う力があるもので、補脾薬は消化器の状態を改善する力があるものになります。

では、なぜ脾(胃腸)の状態を改善すれば気が回るようになるのでしょうか。脾(胃腸)の機能の一つに運化をつかさどるというものがあります。運化とは消化、吸収、代謝のことを指します。つまり、脾(胃腸)は食べ物を消化し、それを吸収して全身に輸送するための臓器で、その働きによって運ばれた栄養物質と水が気の源になります。なので、その機能が健全であれば、気もおのずと満ち溢れていますが、その機能が低下していると気が不足し、体の変調をきたすことになってしまうのです。

つまり、「大建中湯」は温補薬の「乾姜」と「山椒」の力で陽気をめぐらせて体を温めると同時に不足している気を作り出す源である脾(胃腸)を「膠飴」の力で改善させたうえで「人参」で気を補ってあげることによりその症状を改善していくのです。

西洋医学の観点から―「大建中湯」の作用-

「大建中湯」は体を温め胃腸の状態を改善の画像

「大建中湯」は神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌促進作用を持っているため胃や腸の動きを活発にします。また、小腸から分泌されるモチリンの分泌を促進させることによって胃腸の蠕動運動を活発にし、便の排出を促すことがわかっています。それに加え、「乾姜」と「山椒」の効果である腸管運動亢進作用・血管拡張作用を持つカルシトニン遺伝子関連ペプチド・CGRPの刺激作用により、末梢血管を拡張させて、血流量を増加させることで腸管運動を正常化していくのです。*3ほかにも、「乾姜」「山椒」は血管拡張作用と抗炎症性サイトカイン作用を持つアドレノメデュリン(ADM)を刺激する作用を有しているので、腸管の炎症などによる病気(クローン病など)に対する治療にも期待がかかっています。

注意したい重篤な副作用の兆候

「大建中湯」は比較的安全性が高い漢方製剤です。ただし、頻度は不明ですが薬剤…

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河本 ちかこ
かわもと ちかこ

薬科大学を卒業後外資系企業にてMR、新製品企画部にて勤務。その後、企業の経営を学ぶべく大学院でMBAを取得する。MBA取得後は医薬品業界の市場分析などを執筆する傍ら薬膳アドバイザー、食育インストラクターなどの資格を取得。健康な体は日々の食事からをモットーに、現在は薬局薬剤師として勤務しながら中医学の見識を深めるために中国人医師のもとで勉学にいそしんでいる。

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