糖尿病患者にメチルコバラミン?―メトホルミン長期投与の落とし穴
メトホルミンは2型糖尿病治療薬として広く使用されていますが、長期投与によりビタミンB12欠乏をきたし、貧血の原因となることが知られています。
「貧血=鉄欠乏?」と考えがちですが、MCV(平均赤血球容積)の評価により、小球性・正球性・大球性に分類し、原因を絞り込むことが重要です。
今回は、貧血とメトホルミンの関係について、基礎知識と実際の症例を交えて考えていきましょう。
ヘモグロビンの基礎知識
| 項目 | 内容 |
| 正常値 | 男性:13.7~16.8 g/dL 女性:11.6~14.8 g/dL |
| 主な存在部位 | 赤血球(血球の約99%を占める) |
| 役割 | ヘモグロビンに含まれる鉄に酸素が結合し、全身へ酸素を運搬 |
赤血球は「ヘモグロビンを包んだお饅頭の皮」のような構造で、酸素運搬の中心的役割を担っています。
ヘモグロビンの異常値の例外
Hb値 低下の場合
高齢者では日常生活での活動が低下していることが多く、Hb値が基準値以下となることも珍しくありません。
臨床では、Hb9g/dL以下でも自覚症状がないことがあります。
Hb値 上昇の場合
Hb値の異常は「低値」だけではありません。
利尿薬を服用するなどして脱水に傾いていると、Hb値は上昇することがあります。
特に高齢者では、基準範囲内よりもやや低い値が普段の状態であることが多いため、基準範囲内にあっても「正常」とは言い切れない場合があります。
個人の平常値からの低下や上昇を見極めることが大切です。
貧血の評価では Hb値 に加え、MCV(平均赤血球容積) を確認します。
| 分類 | MCV基準 | 主な原因 |
| 小球性貧血 | 80 fL未満 | 鉄欠乏(出血:消化管出血・婦人科疾患など) |
| 正球性貧血 | 80~100 fL | 腎性貧血、溶血性貧血 |
| 大球性貧血 | 100 fL超 | ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏 |
MCVによる貧血の分類
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小球性貧血
多くは鉄欠乏性貧血で、その原因のほとんどは出血です。
消化管出血では、抗血栓薬(特にアスピリン)による薬剤性潰瘍も少なくありません。黒色便や血便の有無を確認することが重要です。 -
大球性貧血
ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏が代表的な原因です。
ビタミンB 12欠乏は胃の切除手術後や、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の投与でも起こることが報告されています。
症例で考える:糖尿病患者にメチルコバラミン?
◉ ケース
78歳・男性/2型糖尿病にてメトホルミン内服中
- Hb値:11.5 g/dL
- MCV:109 fL
処方変更:
- メトホルミン750 mg中止
- イメグリミン500 mg開始
- メチルコバラミン追加
血液検査の結果、貧血が起きているから薬を変えようと先生に言われた。
ビタミン剤も出すって言われたけれど飲む必要あるの?