マスクを着用することが難しい方への薬剤師としてのアドバイス
新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、多くの人が強い不安やストレスにさらされながら生活を続けています。
そんな中、薬局を訪れた患者さんから、このコロナ禍ならではの疑問や不満をふと漏らされたことがある薬剤師も多いのではないでしょうか。そんなとき、薬と直接は関係ない話であれば有益なアドバイスができない人も居るかもしれません。
しかし、薬局の薬剤師は”街の科学者”として、薬に限らず公衆衛生のことにも広く助言やアドバイスができた方が、きっと多くの人に慕われ、頼られるようになるはずです。
本連載では、そういったコロナ禍で起こり得る、薬とはちょっと異なる領域の課題について、心理学的なアプローチも踏まえた患者さんへの寄り添い方を考えます。
「マスクは本当に意味があるのか?身体に悪いのではないか?」と尋ねられた場合
新型コロナウイルスの感染対策として、アルコールによる消毒や換気をすることは習慣になりました。それらに加えて、外出時にはマスクを着用することも当たり前になり、今ではマスクを着用していない人を探す方が難しいくらいの状況です。
改めて、マスクについての基本を確認しておきましょう。
そもそも、不織布のマスクを着用することで、新型コロナウイルス感染症の発生を53%ほど減らすことができます1)。また、屋内で常時マスクを着用している人は、マスクを着用していない人に比べて感染リスクが66%ほど低いという結果も得られています2)。
また、マスクをすると「息苦しい」「暑苦しい」と感じる場合もありますが、実際に身体に影響が出ているかどうかを調べたデータもあります。不織布マスクを着用していても、安静時や日常生活において血中酸素濃度には影響がありませんでした3)4)。
そのためマスクの着用については、「感染症の対策として有効」であり、「身体に害はない」ということを説明することができます。
ただし、「マスクって意味があるのか?」といった質問があるということは、その患者さんは何かしらマスクについて”不愉快”であると感じている可能性が高いと考えられます。
そのため、「誰かと会話をする場合は着用して、周りに人がいない屋外を散歩する場合は着用しなくても良いこともある」など、相手の生活状況にあわせて、必要性の低い場面では適宜マスクを外せるタイミングもあることを提案してみるのも良いでしょう。
「小さな子どもにも、マスクを着用させた方が良いのか?」と尋ねられた場合
どれくらいの年齢の子どもからマスクを着用するべきかというのは、いま世界でも議論がさかんに行われています。
例えば、アメリカの研究で、2歳以上の園児がマスクを着用することで、保育園が閉鎖になるリスクが13%低くなるという結果が得られています5)。
そのため、マスクを子どもが着用することに効果はありそうです。
しかし、厚生労働省は2歳未満には推奨せず、2歳以上も無理して着用する必要がないこと6)や、WHOも5歳以下はマスクを着用しなくてもよく、6~11歳の子どもは状況による7)としています。
また、マスクを着用する場合、常に正しく着用しているかどうかに注意を向けることよりも、マスク着用によって息苦しさを感じていないかどうか、嘔吐したり口の中に異物が入ったりしていないかなどの体調変化について十分に注意して、本人の調子が悪い場合や持続的なマスクの着用が難しい場合は、無理して着用させず、外すようにした方が良いでしょう8)。
現実的に、子どもはマスクを嫌がる可能性があり、正しく着用することも困難なことが多いはずです。このような場合、マスクを付ける際に役立つツール、マスク着用の不快感を和らげるツールなどを紹介したり、そういったアイテムを薬局で販売することを検討しても良いでしょう。
たとえば、マスクによるゴムの締め付けが気になる場合には、メガネのようにマスクを耳にひっかけて着用するツールが販売されています。また、耳にゴムをかけずにマスクを固定できるようにするものもあります。
「どうしてもマスクを着用できないが、どうすれば良いのか」と尋ねられた場合
マスクの着用は、感染拡大を防ぐために効果的な対策ではありますが、人によっては着用が難しい場合があります。
例えば”感覚過敏”の方は、マスクが顔にあたる肌触りやゴムの締め付けなどが気になり、マスクを着用できないこともあります9)。
”感覚過敏”とは「聴覚」や「視覚」などの感覚が非常に過敏になっている状態ですが、基本的に見た目だけではわかりません。
そのため、大した理由もなくマスクを着用していない、感染対策を怠っている人間だと思われてしまう、そんな目線に怯えて生活をしなければならない状況になってしまいます。
このような場合には、ヘルプマーク10)を使用したり、下記のような表示をするツールを提案するのも良いでしょう。また、マスク以外では、フェイスガードの使用も1つの代替案になります。
参考:https://kabin.life/archives/1633
参考:https://www.wakega-arimask.com/
臨床/公認心理士の先生が教える一歩踏み込んだ薬剤師の対応
情報を伝えるだけではなくその人に合わせた対応を
現在は、電車やバスなどの公共交通機関、またはスーパーやデパートなどにマスクをせずに入ることが難しくなっています。
しかし、私たちは医療者として、これらのツールやフェイスガードの着用が困難な方もいるということを理解しておきましょう。
そのため、マスクが付けられない方がいるということを薬局として啓蒙する活動も良いでしょう。
薬剤師として、マスクを正しく着用するという適切な感染症対策を指導することはとても重要ですが、多様な方が社会で暮らしているということを伝えていくことも大事であると考えます。
感染拡大を防ぐためにマスクを着用しましょうという指導は適切ですが、もう一歩踏み込んで、患者さんやその家族の持つ悩みや不安に寄り添った対応を意識して、日々の業務を行うように心がけていきましょう。
参考文献
1)BMJ . 2021 Nov 17;375:e068302.
2)CDC:Effectiveness of Face Mask or Respirator Use in Indoor Public Settings for Prevention of SARS-CoV-2 Infection-California, February-December 2021
3)JAMA . 2020 Dec 8;324(22):2323-2324.
4)PLoS One . 2021 Feb 24;16(2):e0247414.
5)(JAMA Netw Open . 2022 Jan 4;5(1):e2141227.)
6)新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
7)WHO Coronavirus disease (COVID-19): Children and masks
8)厚生労働省 保育所等における新型コロナウイルスへの対応にかかる Q&A について
9)厚生労働省 マスク等の着用が困難な状態にある発達障害のある方等への理解について
10)厚生労働省 ヘルプマークのJIS(案内用図記号)への追加について
11)国立障害者リハビリテーションセンター 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う発達障害児者および家族への影響-当事者・家族向けアンケート調査結果より‐