コロナ禍で生まれる課題や不安を薬剤師の視点で解決する

更新日: 2022年3月17日 小原 一将

マスクを着用することが難しい方への薬剤師としてのアドバイス

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像1

新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、多くの人が強い不安やストレスにさらされながら生活を続けています。

そんな中、薬局を訪れた患者さんから、このコロナ禍ならではの疑問や不満をふと漏らされたことがある薬剤師も多いのではないでしょうか。そんなとき、薬と直接は関係ない話であれば有益なアドバイスができない人も居るかもしれません。

しかし、薬局の薬剤師は”街の科学者”として、薬に限らず公衆衛生のことにも広く助言やアドバイスができた方が、きっと多くの人に慕われ、頼られるようになるはずです。

本連載では、そういったコロナ禍で起こり得る、薬とはちょっと異なる領域の課題について、心理学的なアプローチも踏まえた患者さんへの寄り添い方を考えます。

「マスクは本当に意味があるのか?身体に悪いのではないか?」と尋ねられた場合

新型コロナウイルスの感染対策として、アルコールによる消毒や換気をすることは習慣になりました。それらに加えて、外出時にはマスクを着用することも当たり前になり、今ではマスクを着用していない人を探す方が難しいくらいの状況です。

改めて、マスクについての基本を確認しておきましょう。

そもそも、不織布のマスクを着用することで、新型コロナウイルス感染症の発生を53%ほど減らすことができます1)。また、屋内で常時マスクを着用している人は、マスクを着用していない人に比べて感染リスクが66%ほど低いという結果も得られています2)

また、マスクをすると「息苦しい」「暑苦しい」と感じる場合もありますが、実際に身体に影響が出ているかどうかを調べたデータもあります。不織布マスクを着用していても、安静時や日常生活において血中酸素濃度には影響がありませんでした3)4)

そのためマスクの着用については、「感染症の対策として有効」であり、「身体に害はない」ということを説明することができます。

ただし、「マスクって意味があるのか?」といった質問があるということは、その患者さんは何かしらマスクについて”不愉快”であると感じている可能性が高いと考えられます。

そのため、「誰かと会話をする場合は着用して、周りに人がいない屋外を散歩する場合は着用しなくても良いこともある」など、相手の生活状況にあわせて、必要性の低い場面では適宜マスクを外せるタイミングもあることを提案してみるのも良いでしょう。

「小さな子どもにも、マスクを着用させた方が良いのか?」と尋ねられた場合

どれくらいの年齢の子どもからマスクを着用するべきかというのは、いま世界でも議論がさかんに行われています。

例えば、アメリカの研究で、2歳以上の園児がマスクを着用することで、保育園が閉鎖になるリスクが13%低くなるという結果が得られています5)

そのため、マスクを子どもが着用することに効果はありそうです。

しかし、厚生労働省は2歳未満には推奨せず、2歳以上も無理して着用する必要がないこと6)や、WHOも5歳以下はマスクを着用しなくてもよく、6~11歳の子どもは状況による7)としています。

また、マスクを着用する場合、常に正しく着用しているかどうかに注意を向けることよりも、マスク着用によって息苦しさを感じていないかどうか、嘔吐したり口の中に異物が入ったりしていないかなどの体調変化について十分に注意して、本人の調子が悪い場合や持続的なマスクの着用が難しい場合は、無理して着用させず、外すようにした方が良いでしょう8)

現実的に、子どもはマスクを嫌がる可能性があり、正しく着用することも困難なことが多いはずです。このような場合、マスクを付ける際に役立つツール、マスク着用の不快感を和らげるツールなどを紹介したり、そういったアイテムを薬局で販売することを検討しても良いでしょう。

たとえば、マスクによるゴムの締め付けが気になる場合には、メガネのようにマスクを耳にひっかけて着用するツールが販売されています。また、耳にゴムをかけずにマスクを固定できるようにするものもあります。

「どうしてもマスクを着用できないが、どうすれば良いのか」と尋ねられた場合

マスクの着用は、感染拡大を防ぐために効果的な対策ではありますが、人によっては着用が難しい場合があります。

例えば”感覚過敏”の方は、マスクが顔にあたる肌触りやゴムの締め付けなどが気になり、マスクを着用できないこともあります9)

”感覚過敏”とは「聴覚」や「視覚」などの感覚が非常に過敏になっている状態ですが、基本的に見た目だけではわかりません。

そのため、大した理由もなくマスクを着用していない、感染対策を怠っている人間だと思われてしまう、そんな目線に怯えて生活をしなければならない状況になってしまいます。

このような場合には、ヘルプマーク10)を使用したり、下記のような表示をするツールを提案するのも良いでしょう。また、マスク以外では、フェイスガードの使用も1つの代替案になります。

参考:https://kabin.life/archives/1633
参考:https://www.wakega-arimask.com/

臨床/公認心理士の先生が教える一歩踏み込んだ薬剤師の対応

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像2
小原

発達障害の方の特性については、私も深く理解できていなかったのですが、マスクをすることが難しいと感じる方は多いのでしょうか?

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像3
先生

発達障害の特性の一つである「感覚過敏」は、音、光、におい、味、皮膚などの感覚に過敏さが表れます(逆に、これらの感覚が極端に鈍い感覚鈍麻の特性がある場合もあります)。

特に皮膚感覚に過敏さがある場合、洋服のタグが肌に当たる感覚が耐えられない方、ウエストのゴムの締め付けがきついと気になってしまいストレスになる方、ウールなどチクチク感がある素材を身につけられない方もいらっしゃるのです。

このような過敏さがある場合、マスクの着用そのものがストレスになる方が多くいらっしゃいます。

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像4
小原

なるほど、息苦しさだけではなくそのような感覚の過敏さが影響しているのですね

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像5
先生

発達障害当事者の方を対象とした調査では、「抵抗なくマスクをしている」のは全体の44%に過ぎず、当事者の半数以上は困難を感じていたと報告しています11)

マスク着用の困難さとして、「感覚過敏でマスクがチクチクする」「マスクのゴムの感覚が苦手」「洗えるマスクは、洗濯洗剤のにおいがつらく、頭痛がする」「耳の裏が痛くなり、頭痛に発展する」などがあげられています。

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像6
小原

病院や薬局で患者さんやその家族と関わる私たち薬剤師はどのような点を意識すれば良いでしょうか?

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像7
先生

新型コロナウイルスの流行による「新しい生活様式」に、はじめは戸惑いながらも環境の変化に適応できている方が多いと思います。

しかし、この環境の変化が大きなストレスになる方もいます。ストレスの要因として「感覚過敏」に加えて、「なんとなくの理解が困難」という特性について理解して対応を考えていくとよいでしょう。

「なんとなくの理解が困難」という特性により、大多数の人がなんとなくわかるルールや感覚が理解できず、ストレスを感じる場面が多くあるのです。

例えば、「新しい生活様式」には”人との十分な距離をとる”ことが言われていますが、人との十分な距離がどのくらいが適当なのかわからないのです。

発達障害のある方は抽象的であいまいな情報によって混乱が生じます。

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像8
小原

具体的にどのような対応が良いでしょうか?

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像9
先生

このような対応が良いと思います。

  • 人との十分な距離”が分かる目印の表示(並ぶ位置の目印や矢印を床に貼る)
  • マスク着用についてのルールの明記(「店内ではマスクを着用してください」など)
  • 手洗いやアルコール消毒の使用方法を明記(「奥まで1回押してご利用ください、十分に効果が見込めます」など)
  • 対応可能なことを具体的に明記(「コロナに関する不安がありましたらお尋ねください」など)

今はマスクを外して良い状況か?感染予防のための手洗いの回数はどのくらいが適当なのか?といった様々な場面で具体的な情報や指示を必要としている場合があるのです。

マスクをすることが難しい方へのアドバイスの画像10
小原

このような対応であれば病院や薬局でもすぐに取り組めますね

情報を伝えるだけではなくその人に合わせた対応を

現在は、電車やバスなどの公共交通機関、またはスーパーやデパートなどにマスクをせずに入ることが難しくなっています。

しかし、私たちは医療者として、これらのツールやフェイスガードの着用が困難な方もいるということを理解しておきましょう。

そのため、マスクが付けられない方がいるということを薬局として啓蒙する活動も良いでしょう。

薬剤師として、マスクを正しく着用するという適切な感染症対策を指導することはとても重要ですが、多様な方が社会で暮らしているということを伝えていくことも大事であると考えます。

感染拡大を防ぐためにマスクを着用しましょうという指導は適切ですが、もう一歩踏み込んで、患者さんやその家族の持つ悩みや不安に寄り添った対応を意識して、日々の業務を行うように心がけていきましょう。

参考文献
1)BMJ . 2021 Nov 17;375:e068302.
2)CDC:Effectiveness of Face Mask or Respirator Use in Indoor Public Settings for Prevention of SARS-CoV-2 Infection-California, February-December 2021
3)JAMA . 2020 Dec 8;324(22):2323-2324.
4)PLoS One . 2021 Feb 24;16(2):e0247414.
5)(JAMA Netw Open . 2022 Jan 4;5(1):e2141227.)
6)新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
7)WHO Coronavirus disease (COVID-19): Children and masks
8)厚生労働省 保育所等における新型コロナウイルスへの対応にかかる Q&A について
9)厚生労働省 マスク等の着用が困難な状態にある発達障害のある方等への理解について
10)厚生労働省 ヘルプマークのJIS(案内用図記号)への追加について
11)国立障害者リハビリテーションセンター 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う発達障害児者および家族への影響-当事者・家族向けアンケート調査結果より‐

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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