コロナ禍で生まれる課題や不安を薬剤師の視点で解決する

更新日: 2022年4月19日 小原 一将

長引くコロナ禍の中で、不眠症状を訴える患者さんへ薬剤師のアドバイス

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像1

オミクロン株の急速な感染拡大により、私たち薬剤師も、現場で経口薬や抗原検査の準備、発熱患者さんへの対応など日々めまぐるしい業務に追われています。その中で、長く続くコロナ禍で疲弊した患者さんや患者さん家族の課題に直面した経験もあるのではないでしょうか。

こうした問題をすぐに解決することは難しいケースも多いですが、医療者としての知識を使い、患者さんに寄り添う気持ちを持つことで、薬剤師として有用なアドバイスを提供することもできるはずです。

本連載では、コロナ禍で起こりうる患者さんの課題とその対応について、心理学的なアプローチも踏まえて紹介します。日々の服薬指導や、患者さん対応の際にお役立ていただければ幸いです。

長引くコロナ禍による不安から不眠症状を相談された場合

新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中で、仕事や私生活が大きく変化した方が多くいらっしゃいます。そのような変化は、精神的な不安を助長し、不眠の症状を引き起こすことがあります。実際、このコロナ禍で不眠症の発症率が上昇しているという報告1)や、新型コロナウイルス感染症の後遺症として睡眠障害が起きているという報告2)もあるなど、不眠の症状はいま大きな問題となっています。

コロナ禍では、下記のような様々な不安を感じやすくなっているため、これらをきっかけにした不眠症状を訴えられる機会は今後も多いと予想されます。

コロナ禍で起こりうる不眠に関係する不安の例

  • 高齢・基礎疾患があるために、感染・重症化することが不安
  • 接客業など多くの人と接する業務に携わっていることが不安
  • 子どもや両親など、自分の大切な人が感染するかもしれないという不安
  • 収入面や会社の業績といった経済的な不安
  • 在宅ワークへの移行が増えたことによる、働き方の変化に対する不安
  • 家族と接する時間が増えたことによる、人間関係の不安
  • 子どもが学校にいけないことによる、学業や進路の不安

このような不安が原因と考えられる「不眠の訴え」について、病院受診を勧めることで睡眠薬などによる薬物治療を検討してもらうことも確かに有用な対応です。

ただ、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬などは年齢や持病・生活環境等によっては使いにくく、また一度飲み始めると辞めにくくなる恐れもあり、安易に始められるものではありません。そのため不眠症状がよほど酷いものでない限りは、まずは薬以外のアプローチを考えることも大切です。

そこで、コロナ禍における不眠に対して受診勧奨や睡眠薬の他に、薬剤師にどのような対応ができるのかを考えていきたいと思います。

治療薬以外では不眠症状にどのようなアプローチが出来るか

薬剤師が不眠症状に対してできる主なアプローチとしては、たとえば患者さんの不眠症状を具体的に聞き取り、その不眠の原因を推測し、この原因をできるだけ無理なく取り除くような生活・習慣の改善方法を提案する 3,4)、といったことが挙げられます。

不眠の原因 対応
運動不足や外出時間の減少
→リモートワークや”密”の回避のため
・人混みを避けた場所で散歩
・早朝など人が少ない時間に外出
家庭内の環境変化
→リモートワークで寝室が仕事部屋になるなど
・就寝する際はパソコンなど仕事に関係する
ものは収納して目につかないようにする
・寝室にスマホを持ち込まない
・ドアをきっちり閉める
・遮光カーテンを⽤いる。
・寝室を快適な温度に保つ
・ベッドでは寝るとき以外は使用しない
生活習慣と仕事のスケジュールの乱れ
→リモートワークや子どもの学校が
休校になるなど
・規則正しい⾷⽣活
・空腹のまま就寝しないようにする
・脂っこいものや胃もたれする⾷べ物を
就寝前に摂らない
・就寝の4時間前からはカフェインを摂らない
・夜は喫煙を避ける
・お酒は適量にする
・就寝時間と起床時間を一定にする
情報過多による不安
→様々な方面から新型コロナウイルスの情報を
得てしまう
・ワイドショーなどを見る回数を減らす
・日記を書くなど、ストレスを振り返る
時間を短い時間(15分程度)作る
・正しい情報取得の方法を学ぶ
コミュニケーション不足による気分の落ち込み
→趣味や娯楽の機会の減少
・SNS、ZOOMなどのオンラインツールを
利用して交流する

臨床/公認心理士の先生が教える一歩踏み込んだ薬剤師の対応

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像2
小原

薬を使わない不眠の改善として認知行動療法がありますが、こちらは具体的にどのようなものでしょうか?

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先生

『認知行動療法』とは、クライアントの抱える問題に、主に認知(頭に浮かぶ考えやイメージ)と行動(動作や振る舞い)の両面からアプローチをする心理療法のことです。また、問題によっては個人の認知や行動に影響を与えている環境(出来事、状況、対人関係など)にも着目します。最終的には、クライアント自身で問題解決のアプローチや予防に取り組めるようになることを目標にしています

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像4
小原

認知と行動の両方にアプローチするのが認知行動療法とのことですが、私たち薬剤師が出来る患者さんへの対応にはどんなものがあるんでしょうか?

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像5
先生

薬剤師が認知行動療法的なアプローチをする場合、特に助言しやすいのは患者さんの『環境』に対するアプローチではないでしょうか。まずは、医学的根拠に基づいた入眠・熟睡に効果的な就寝環境の作り方や生活習慣について助言することができます

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小原

それは服薬指導の際に行っている薬剤師も多いですね

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先生

その時に意識してもらいたいことは、『具体的な行動に落とし込んで伝える』ということです。例えば、「就寝の4時間前にはカフェインを摂らない」という助言をする際に、具体的にいつも何時ごろに寝るのかを尋ねたうえで、『◯◯さんの場合は、コーヒーを△△時以降は飲まない方が良いということになります』と伝えるのが良いです

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小原

なるほど、一般論ではなくその人に適した形で具体的に伝えるのですね

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像9
先生

そうです。さらに、不眠の相談に訪れた人に、「逆にいつもより眠れた日はありますか?」と尋ねてみてください。もしいつもより眠れた日があれば、眠れた日とそうでない日では何が違ったかを一緒に考えていくように尋ねて、話を聞いていくと良いでしょう。つまり、うまく寝られた日の状況(環境)を整理することで、自らその状況(環境)を作るように促すのです。そして、そのためには具体的にどのような行動をすればよいのかを確認していきます。

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像10
小原

眠れないという訴えに対して、眠れない状況を改善することばかり考えてしまいますが、眠れた日を比較して検討するというのは効果的ですね

不眠症状を訴える患者さんへのアドバイスの画像11
先生

不眠(入眠困難、中途・早期覚醒、熟眠感が得られない)はうつ病の症状の一つでもありますので、食欲の有無や急な体重の増加・減少などと併せて尋ね、早期診察につなげることも心に留めておくとよいかもしれません。うつ病の改善にエビデンスがある認知行動療法では、リラックス法の練習をすることもあります。気になる患者さんには就寝前にリラックス法に取り組むことを助言しても良いでしょう。

リラックス法

リラックスするための姿勢

  • 椅子に腰かけ、下腹部(みぞおち)と両足の裏に意識を向けます。
  • 両肩の力をストンと抜きます。(力を抜きづらい時は、一度両肩を真上にあげて、ストンと力を抜きます)
  • 両腕の力を抜き、手のひらを上に向けて体の横にだらんと腕を落とします。または、手のひらを上に向けたまま膝の上に置きます。
  • 顎を軽く引き、胸はそらさず楽な姿勢にします。
  • 軽く目を閉じます。

リラックスするための呼吸法

  1. ため息をつくように、口から大きく息を吐ききります。
  2. 息を少しだけシュッと鼻から吸いこみ、一度息を止めます。
  3. 口から、さっき吸った息を細く長く、少しずつ吐いていきます。
  4. 吐ききったら、2~3を5分程度繰り返します。
  5. 足の裏や手の感覚、吸ったり吐いたりしている呼吸の感覚を味わうようにします。

1) Lancet Psychiatry . 2021 May;8(5):416-427.
2) Eur Respir J . 2022 Feb 3;59(2):2101341.
3) Ann Intern Med. 2015 Aug 4;163(3):191-204.
4) 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。
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