コロナ禍で生まれる課題や不安を薬剤師の視点で解決する

更新日: 2022年5月17日 小原 一将

新型コロナウイルスによる生活のストレスに対して薬剤師ができるアドバイス

生活の変化によるストレスへのアドバイスの画像1

オミクロン株の急速な流行により、新型コロナウイルスによる感染の再拡大が起きています。私たちも現場で、経口薬や抗原検査の準備、発熱患者の来局など日々変わる状況への対応が求められています。その中で、長く続くコロナ禍で疲弊した患者や患者家族の課題に直面する場合もあるでしょう。

すぐには解決が難しい場合も多いですが、医療者としての知識を使い、患者さんに寄り添う気持ちを持つことで、薬剤師として役立つことを提供することができるはずです。

本連載では、コロナ禍で起こりうる患者さんの課題とその対応について、心理学的なアプローチも踏まえて紹介します。日々の服薬指導や、患者対応の際にお役立ていただければ幸いです。今回は、コロナ禍によって変化した生活によるストレスを解消するための方法を考えます。

情報との付き合い方を見直す

毎日のように、「今日の感染者数は〇〇人」という報道が行われています。感染の状況を確認するために必要な情報ですが、自身でコントロールできない感染者数に一喜一憂していては精神的な負担になってしまうこともあります。

そんな時は、たとえば「情報を受け取る時間を定める」という提案ができます1)。具体的には、ニュースを見る時間は朝に1時間、夜に1時間と決めてしまい、それ以外の時間はテレビを消したりスマホなどのニュースから離れたりする、などといったものです。負担を感じている人は、知らず知らずのうちにテレビやスマホの情報に長い時間触れ続けていることがありますので、まずはこうした方法で時間を減らすことが有効です。

また、「情報をどこから得るのか」という点を伝えることも重要です。テレビやインターネットの記事だけではなく具体的には、厚生労働省の発表している新型コロナウイルスに関する情報を中心に、公的機関の情報を取得するように促すことが良いでしょう。

公的機関の情報の例:

身近な人からの情報や、テレビなどのメディアが報道する情報、SNSの情報に触れる機会は多いですが、勝手に流れてきた情報に左右されるのではなく、自らが積極的に取得した情報を自分の中で噛み砕いて処理することは、物事を冷静に捉えることに役立ちます。

患者さんは、不安な気持ちで色々な情報を収集しています。薬剤師は、適切な情報の取得の仕方や正確な情報の見極め方を、その不安な気持ちに寄り添いながら伝えていく必要があります。なお、「情報」を扱う際には、出典が明記されているもの、そしてその出典の内容がきちんと確認できるものを選びましょう。

コミュニケーション不足を解消する

コロナ禍では、感染拡大を防ぐために対面でのコミュニケーションの機会が大きく減ってしまいました。社会的つながりが減ると、孤独感が増して気分が落ち込みやすくなってしまいます。

こうした場合、電話やオンラインなど安全な方法でコミュニケーションの機会を増やすよう心がけることは良い提案になるでしょう。zoomなどのツールを使えば、遠い距離に居る友人や知人・家族とも、顔を見てコミュニケーションを取ることができます。定期的に連絡を取ることで人とつながる感覚を持つことが大切です。

また、しっかりと感染症対策をしてから対面でコミュニケーションを取るのもお勧めです。その際は薬剤師として「適切な感染症対策」を伝える必要があります。食事をしながらの会話はなるべく避けて、少人数でマスクをしながら換気の良い場所を選ぶ、といったアドバイスをしましょう。

なお、薬局やドラッグストアで、私たち薬剤師が対面でコミュニケーションを取ることが、孤立を防ぐ対策になるとも言えます。いつもの服薬指導や市販薬の説明だけで終わるのではなく、その人自身に興味を持って、患者さんの様子に気を配りながら関わりを持つことが大切です。「何かお困りのことはありませんか?」といったように、相手に関心があることを示す声かけをすることも良いでしょう。自分は口下手で積極的なアプローチが難しいなという人でも、いつもより丁寧に話を聞くように心がけることで、相手に与える影響は変わってくるかもしれません。

臨床/公認心理士の先生が教える一歩踏み込んだ薬剤師の対応

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小原

薬剤師から患者さんに助言できるような、ストレスに対するセルフケアの方法は何かありますか?

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先生

前回、認知行動療法のお話で“呼吸法”を紹介しましたが、これもストレスに有効なセルフケアの方法の一つです。この“呼吸法”を使ったセルフケアは身近になされていることが多く、実は“ため息”も立派なセルフケアの方法なので知っていてほしいですね。『あ~~あ。』と声を出しながら“ため息”をつくと、胸のあたりの力が抜ける感覚があると思います。“リラックス=力が抜ける”ですので、積極的に声を出して“ため息”をつくのがセルフケアでお勧めの方法です。車の中やトイレの個室、お風呂や休憩時間の時などに意識的に“ため息”をつくようにするとよいですよ

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小原

“ため息”はどちらかというと、してはいけないと思っていましたが、リラックスするためには積極的に行っても良いのですね

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先生

そうです。セルフケアのコツは、“ストレスを外在化する”ことです。よく『ストレスをため込む』なんて言い方がされますが、ストレスに感じていることを自分の胸の中だけに抑えこんでいると、身体や精神状態によくない影響が出てきます。つまり、ストレスに感じること(ストレッサー)を外に出すことが重要です

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小原

なるほど、ストレスに感じたことを相手に聞いてもらうだけでも楽になるのはそのためですね。

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先生

他にも、このストレッサーを紙に書き出す(外在化する)という方法があります。この時、“~と感じている”“~と思った。”と自分の感情に焦点をあてて書いていくことがポイントです。『~と言われてイライラした。』『~に不安を感じている。』『~でやってられないと思った。』と自分の感情を書き出して“外在化する”ことで、ネガティブな気分や感情と距離を置くことができます。そして、書き出すことで自分の中のネガティブな感情を客観的に捉えやすくなります。自分の気分や感情を否定するのではなく、『~と感じている。』と外在化することが重要です。また、“外在化する”方法としては、他にも『~がつらい!』と実際に声に出すのも効果的です。自分が抱えている苦しさ(ストレス)を認め、『心の叫び』ではなく実際に声に出してみましょう。

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小原

私はストレスがたまったり、疲れたりしたら、頭を使わなくて良いようなゲームやマンガに没頭することがあります

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先生

それも良い方法です。“頭を空っぽにできる手先を使った単純作業”もセルフケアとして効果的です。具体的には、休日などの時間があるときにあえて料理や家事に没頭してみるのがおすすめです。目の前の単純作業に意識を向けることでストレスと距離を置くことができるうえ、家事も終えることができるので、気分がすっきりしやすくなります。また、最近では目頭や鎖骨の下といった部位を指で軽く刺激する“タッピング”も、セルフケアの方法として有効であることが明らかになっています2,3)。(専門的にはTFT:Thought Field Therapyという心理療法が有名です。)目を閉じて、体の部位を指で軽くたたいたり、優しくなでたりすると気持ちが落ち着く効果があり、私自身もセルフケアで取り入れています。目を軽く閉じて目頭のあたりを人差し指と中指で“トントントン…”と軽くたたくと心地よいですよ。

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小原

そういった、特に害のないセルフケアは気軽に試してもらえるので、提案しやすいですね。

〇おすすめのセルフケア

  • 大げさなため息…「あ~~あ」と、声を出しながら“ため息”をつく
  • ストレスを外在化する…書く、つぶやく、声に出す、聞いてもらう
  • タッピング…どこでもよいので、自分が心地よいと感じる身体の部位を指で軽くたたく

1) 国立精神・神経医療研究センター コロナに負けない:不安との付き合い方
2) J Clin Psychol . 2001 Oct;57(10):1193-206.
3) Explore (NY) . Jan-Feb 2021;17(1):84-91.

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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