コロナ禍で生まれる課題や不安を薬剤師の視点で解決する

更新日: 2022年6月8日 小原 一将

不安な気持ちが強くなった患者さんに薬剤師ができるアプローチを考える

不安な気持ちが強い患者さんへのアプローチの画像1

オミクロン株の急速な流行により、新型コロナウイルスによる感染の再拡大が起きています。私たちも現場で、経口薬や抗原検査の準備、発熱患者の来局など日々変わる状況への対応が求められています。その中で、長く続くコロナ禍で疲弊した患者や患者家族の課題に直面する場合もあるでしょう。

すぐには解決が難しい場合も多いですが、医療者としての知識を使い、患者さんに寄り添う気持ちを持つことで、薬剤師として役立つことを提供することができるはずです。

本連載では、コロナ禍で起こりうる患者さんの課題とその対応について、心理学的なアプローチも踏まえて紹介します。日々の服薬指導や、患者対応の際にお役立ていただければ幸いです。今回は、このコロナ禍で改めて問題となっている情報との付き合い方とそれによる不安の対処について考えます。

外的な要因から深い影響を受けることがある

前回の連載では、情報との付き合い方を見直すという方法をお伝えしました。長く続くコロナ禍で、新型コロナウイルスの新規感染者数や死亡者数、新しい変異株の出現、後遺症の話題など様々な情報が目に飛び込んできます。生活環境や収入などの状況も大きく変わってしまった人たちも多い中で、ネガティブな情報に触れることによって精神的に悪い影響を受けてしまっている人も少なくありません。そのような中で、厚生労働省からこのような通達がありました。

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自殺に関する報道にあたっての再度のお願い(令和4年5月11日)

精神的な疾患を抱えている人たちだけではなく、仕事がうまくいかなかった、人間関係で失敗した、といった沈んだ気分の時に、有名人の自殺という衝撃的なニュースに触れると、自分でも思わぬほど大きな影響を受けてしまうことがあります。

情報との付き合い方をいくら見直しても、メディアやSNSから流れてくる情報を自分にとって良いものだけにすることは難しいです。そのため、日々患者さんと接する私たち薬剤師は、そういったネガティブな情報に触れてしまった、そうやって「不安」が膨らんでしまった患者さんに対しての対応手段をいくつか持っておく必要があります。

患者さんが「不安を語れる」ためのアドバイスを意識する

自分自身で”不安な気持ち”に対処することが難しい患者さんの場合、「誰かに相談できることを援助する」という関わり方が重要です。例えば、その地域の相談できる機関(例:精神保健福祉センターや保健所)の情報をもっておき、それを患者さんに案内できるようにしておくとよいかもしれません。

また、周囲に自死した人がいる患者さんに、安易な励ましをするのは注意が必要です。「しっかりしないといけないよ」といった言葉は、激励のつもりで発していても患者さんにとっては「励ましてくれているのに、いつまでも落ち込んでいる自分が悪い」「これ以上、何を頑張らないといけないの」と却って自責の念が増したり、気持ちが混乱したりする場合があるからです。

では、実際に投薬をしたり関わっている患者さんが自分に相談をしてくれた場合、具体的にどのような声かけや対応が考えられるのかを心理士の先生と一緒に考えてみます。

臨床/公認心理士の先生が教える一歩踏み込んだ薬剤師の対応

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小原

薬剤師は患者さんと話をしている際に、「こんなニュースを見て不安になってしまった」と言われることがあります。薬剤師は正しい知識や医療情報を伝えることはできるのですが、実際に不安になってしまった患者さんへのアドバイス、今回のような精神的にも負担になるような情報を受け取った患者さんへできることはありますでしょうか?

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先生

まず最初に、不安を訴える患者さんに対して大事なことは、その不安を丁寧に聞いてあげることです。人は『不安を話す』だけでも心の整理がしやすくなります。

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小原

不安であるということや、不安になった内容を話すことが重要なのですね

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先生

そうです。そして今回のニュースのような自死で亡くなった方がいる場合、家族や友人を含めて最低でもその人の周囲5人には深刻な心理的影響が出るという推計もあります。我が国では把握できているものだけで年間約2万人の自死した方がおり、未遂者は少なく見積もっても10倍ほどと言われています。したがって、身近な人に自死や自死未遂の家族や友人がいる患者さんとかかわる場面も出てくるのではないでしょうか?

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小原

そうですね、私も知人の周りにいる人が自死したということを聞いたことがあります

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先生

周囲に自死した人がいる患者さんとかかわる際にまずは、先ほども述べた『不安を話す』ことを手助けしてあげることが重要です。患者さんが語る『不安な気持ち』をありのままに聞き、患者さんの言葉を繰り返しながら“「~になったらどうしようと思う」”→“「~になったらどうしようと思うんですね」”と聞いてあげましょう。

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小原

相手の言葉をあえて繰り返して伝えるということですか

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先生

はい、こうすることでしっかりとあなたの話を聞いていると伝えることができます。人の死に関するような話は、タブーのように扱われることが多く、本来は話せる相手がいないことも多いです。患者さんも相手を選んだうえで話をしているので、その気持ちを慮りながら聞くようにしましょう

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小原

コミュニケーションが苦手でも“繰り返す”というのは難しくないので、すぐに業務にと入れることができそうです

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先生

この時に注意して欲しいのが、不安を無理に『話させる』ことがないようにすることです。患者さんが自発的に「責任を感じるんです」と話をする場合はそれを傾聴してあげるとよいのですが、こちらから不用意に“自分の責任を感じているのですね。”と言ってしまうと強制的に感情を引き出すことになり、心に混乱を生じさせてしまいますので気をつけましょう

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小原

なるほど、“繰り返し”をすれば良いというものではなく、あくまでも患者さんが話そうと思ったことを患者さんのペースで聞くことが大事、ということですね

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先生

その通りです。そして、薬剤師さんは精神科医や心理士と異なり、自死などの深刻な話題について話を聞く訓練をしているわけではありません。重たい話題について相談を受け続けると、自身の心が動揺してしまうこともあります。この時も大切なのは、自身の気持ちが動揺している、という不安を、薬剤師もまた誰かに話して聞いてもらうことです。もちろん守秘義務を考慮しつつですが、相談できる人に話を聞いてもらうだけで、あなた自身の気持ちの整理がしやすくなることも覚えておきましょう

参考:国立精神・神経医療研究センター コロナに負けない:不安との付き合い方

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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