院外処方を検討する際に出会った、利益主義な薬剤師兼CEO
開業の際は院内処方にする!と決意した私。しかし、開業から1年ほど経ちボチボチ患者さんが来院してくれるようになった頃、医薬品卸さんへの支払いが開業前の構想とは解離していることに気がつきました。
院内処方を続けるもデッドストックの山が…
当時、私は複数の医薬品卸さんに対して厳しく相見積もりを取って院内処方の医薬品を仕入れていました。しかし、それでも薬価差益は15%程度であり、当院レベルの取引量ではそれ以上の値引きは無理であることがわかりました。 一方で、患者さんを逃したくない一心から、その患者さんにしか処方しないような薬でも用意していました。もちろん、患者さんが通院し続けてくれる保証はないわけですから、生まれるのはデッドストックの山。そりゃそうです。
こうして見通しや戦略の甘さから、院内処方が医療経営的に厳しいと自覚し始めた頃、ある調剤薬局チェーンを展開している薬剤師兼CEOからアポ入れがありました。
利益主義の薬剤師兼CEOに呆気にとられた話
前回に引き続き、このエピソードも20年以上前の話ですが、お会いした薬剤師兼CEOはパンチパーマでクリクリ、左手には金のロレックスという、その当時でさえなかなか見かけないバブリーなお姿の方でした。
そして開口一番、「今私は、東京進出を狙っています。先生のところが院内処方と聞いてぜひお役に立ちたいと思いまして」とおっしゃいます。
内心「いきなり自分の展望の話か…」と一抹の不安を感じながらも、院内処方に厳しさを感じていた私にとって渡りに船であることも事実。「しばらく話を聞いてみよう」と我慢を続けました。しかし、いくら話を続けていても患者さんの薬物治療や地域医療に関する話題が一度も出てきません。そして出てきたのは、「ところで先生のところ、皮膚科も併設しているから処方箋は1日当たり100枚くらいですか?」とのご質問。
当時の患者数は1日50人いくか、いかないかレベルでした。ちょっと盛って「60枚くらいですかねえ」と伝えたところ、彼の態度は豹変。
「先生、携帯なっちゃったので後日連絡させていただきます、失礼しまーす。」とお帰りになりました。
クリニックであれ調剤薬局であれ、ビジネスですからある程度の利益は必要です。しかし、あまりに露骨な利益主義な態度に、怒りを通り越して呆れてしまいました。
もちろん、その薬剤師兼CEOからは二度と連絡はありませんでした。
経営は大事だが利益主義では連携できない
この薬剤師兼CEOとの話は当然流れましたが、その後、ありがたいことに共に地域医療を支えていけると思えるいくつかの調剤薬局さんとの出会いがありました。当院もいまでは一部の薬を除いて院外処方に切り替えています。
ご紹介したエピソードは調剤バブルと言われていた時代の話であり、いまではこうした利益主義の薬剤師兼経営者は減っているでしょう。
また、近年の診療報酬改定では、患者のために頑張る医療機関を評価する方針が明確に示されました。患者さんの服薬情報をしっかり把握して密に情報提供してくれる「患者主義」の薬局・薬剤師さんがいっそう増えていくことを願っています。