第1回 患者さんに健康被害!原因は不十分な服薬指導!?
患者に適切に指導等を行っておらず、健康被害が発生してしまった場合の薬剤師の責任は?
患者に適切に指導等を行っておらず、健康被害が発生してしまった場合の薬剤師の責任は?
対人業務を重視!薬剤師法の改正と薬局ビジョン
平成26年6月、薬剤師法25条の2が改正され、薬剤師の調剤した際の義務として、情報提供に加えて、「必要な薬学的な知見に基づく指導」が追加されました。
薬剤師法(情報の提供及び指導)
第25条の2 薬剤師は調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつて いる者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
この改正は、薬剤師と患者とのかかわりあいを重視した改正と考えられ、この改正を経て、平成27年10月、厚生労働省から「患者のための薬局ビジョン~『門前』から『かかりつけ』、そして『地域』へ~」が示されています。薬局ビジョンでは、皆さんご存知のとおり、薬剤師の業務を、「対物業務から対人業務へ」とされており、対人業務が重要になることが明確にされています。
指導義務違反、損害賠償請求が認められることも
このように、対人業務が重視され、指導義務が明確になった今、仮に、患者に適切に指導等を行っておらず、それが原因で患者に健康被害が発生してしまった場合、薬剤師は責任が問われるのでしょうか。
薬剤師法には、薬剤師法25条の2に反した場合の直接の罰則規定はありません。しかし、薬剤師には、患者が適切な薬物治療を受けられるよう指導等の義務が課されているので、指導等を行わず又は不十分であったために、患者に健康被害が発生してしまえば患者は納得しないでしょう。罰則規定がないといって責任がないわけではなく、万が一そのような事態になれば、薬剤師は患者に対して損害賠償をしなければならない責任を負うことになります(民法709条)。
医師にも、以下のとおり指導義務はあるのですが、過去には、医師が薬剤の副作用等ついて適切に説明していなかったとして訴えられ敗訴した裁判例もあります。
医師法
第二十三条 医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。
高松高判平成8年 2月27日 判例タイムズ908号232頁
医師が患者にアレビアチンとフェノバールを併用投与したところ、患者が退院後に300万人に1人しか起こらないとされる副作用の中毒性表皮融解壊死症(TEN)を発症して死亡。患者の遺族が医師に対して、投薬に際し注意義務違反があったとして損害賠償請求を行った事案。
裁判所は、「その副作用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて低い場合であっても、副作用が生じた時には早期に治療することによって、重大な結果を未然に防ぐことができるように、服薬上の留意点を具体的に指導すべきである」、「投薬による副作用の重大な結果を回避するために、服薬中どのような場合に医師の診察を受けるべきか患者自身で判断できるように、具体的に情報を提供し、説明指導すべきである」と判断し、請求額の一部を認容した。
もちろん、医師と薬剤師の指導内容は専門性が異なる以上、全く同じ内容にはならないと思います。しかし、薬剤に関する指導が不十分であったために患者に健康被害等が起こってしまった場合には、医師だけでなく、薬剤師も一緒に訴えられれば、薬剤師にも指導義務がある以上、損害賠償請求が認められることが想定されます。
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