認知症症状に対する抗精神病薬の使い分け・リスペリドンとクエチアピン
寄せられた質問に専門医が回答する人気動画「千葉悠平のお悩み相談 by Docpedia」を、記事でも読めるようにしました。今回のテーマは「認知症症状への抗精神病薬の使い分け・リスペリドンとクエチアピン」についてです。専門的な知見をもとに解説します。
回答する医師 千葉悠平
積愛会 横浜舞岡病院医師 認知症疾患医療センター 副センター長・医学博士・医学博士・精神保健指定医・日本精神神経学会専門医 指導医・日本認知症学会専門医 指導医・中小企業診断士・YUAD代表
認知症症状に抗精神病薬をどのように使い分ける?
今回の質問は、「認知症患者の症状が強い場合に、抗精神病薬を使用することがありますが、リスペリドンとセロクエルはどう使い分ければ良いでしょうか?」という内容です。関連質問もあわせて寄せられています。
<関連質問>認知症の周辺症状に対する治療法は?
認知症の患者さんで家族や施設が困るのが周辺症状ですが、妄想や易怒性が強い患者に対して、先生方は一番初めに何を使用しますか?私は糖尿病がなければセロクエル(クエチアピン)、糖尿病があればリスペリドンから開始します。
専門外の医師であっても、認知症のBPSDに対して非薬物療法を実施後、症状が改善せず少量から薬物を使わざるを得ないケースがあるでしょう。関連質問も踏まえ、抗精神病薬の使用方法について解説していきます。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインより
今回解説するのは、リスペリドンとクエチアピンの使い分けについてです。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインにおいても、これらは器質的疾患に伴う精神運動興奮状態・易怒性に対して、使用の選択肢として挙げられています。
リスペリドン・クエチアピンを使用する際の注意点等は以下の通りです。
| 薬剤名 | リスペリドン | クエチアピン |
|---|---|---|
| 注意点 | 糖尿病では注意 錐体外路系の副作用が出やすい |
糖尿病で禁忌 鎮静・催眠作用が強い DLBへの使用も考慮可能 |
| 半減期(時間) | 20-24 | 6-7 |
| 推奨される初回投与量(mg) | 0.5 | 12.5 |
| 最大投与量(mg) | 2 | 100 |
参照:かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
リスペリドンは糖尿病があっても使用可能ですが、錐体外路系の副作用が出やすいため注意が必要です。
用量は一般的に0.5〜2mg程度で使用されますが、それ以上の投与が必要な場合は、精神科の専門医への紹介が望ましいでしょう。また、リスペリドンは液体など様々な剤形があることも特徴です。
一方、クエチアピンは糖尿病には禁忌ですが、DLB(レビー小体型認知症)に対しても使用を検討することができます。鎮静・催眠の作用がありますが、半減期が比較的短いため、必要な時間帯だけ効果を出すことができるという点では、調整がしやすい薬であるといえます。
クエチアピンが適さない場合や調整が難しい場合は、精神科へ相談・紹介していただくと良いでしょう。
各受容体への結合親和性
以下の図は抗精神病薬の各受容体に対する結合親和性をまとめたものです。
引用元:鈴木幹雄ら 統合失調症治療薬ブレクスピプラゾール(レキサルティ錠® 1 mg,2 mg)の薬理学的特性と臨床効果 日本薬理学雑誌(Folia Pharmacol. Jpn.) 第154巻, 275〜287(2019)より/日本薬理学会
「Ki値」は受容体に対する親和性を示す指標であり、値が小さいほど受容体との結合力が強いことを意味します。
D2受容体に対する結合力はクエチアピンよりもリスペリドンの方が強いです。一方で、クエチアピンは用量を増やすことができるため、D2受容体への効果も調整しやすいという利点があります。
また、両剤ともヒスタミン受容体やアセチルコリン受容体への影響には注意が必要です。特にクエチアピンはアセチルコリン受容体への結合が比較的強いため、副作用リスク等に留意しましょう。
抗コリン薬のリスクスコアと代謝経路
日本版の抗コリン薬のリスクスケールにおける、リスペリドンとクエチアピンのリスクスコアは以下の通りです。
- リスペリドン:リスクスコア「1」
- クエチアピン:リスクスコア「2」
そのため心臓や膀胱、その他抗コリン作用の影響が出やすい部位での合併症をもつ患者に対して、クエチアピンを使用する際は特に注意が必要です。少量であっても、代謝の影響により血中濃度が上昇する可能性があります。
またそれぞれの代謝経路は以下の通りです。
- リスペリドン:腎+肝(主にCYP2D6、一部CYP3A4)
- クエチアピン:肝(CYP3A4)
リスペリドンは肝臓で代謝された後、腎臓で排泄されます。そのため肝機能や腎機能が落ちている場合には、血中濃度の上昇に注意が必要です。
参照:日本版抗コリン薬リスクスケール /日本老年薬学会
睡眠への影響の違い
リスペリドンとクエチアピンは、ともに睡眠に影響を与えることが知られていますが、その作用の仕方には違いがあります。
引用元:千葉悠平、上林崇 睡眠薬の薬理作用:実際なにをしているのか?臨床精神薬理 23:409-416 2020より
リスペリドンは比較的深めの睡眠を増やす一方で、レム睡眠への影響は少ないといわれています。
一方、クエチアピンは睡眠作用があることで知られていますが、やや浅い睡眠が増え、深い睡眠が減る傾向があります。またレム睡眠が減ることもあるため、行動障害の改善や睡眠リズムの調整に使用されるということがあります。
認知症患者にリスペリドン、病名登録は?【関連質問】
今回の内容と関連して以下の質問もいただいておりますので、回答していきます。
<関連質問>認知症患者にリスペリドン、病名登録は?
認知症の患者さんへのリスペリドン投与は周辺症状の時によくされると思いますが、その場合に病名登録はどうされていますか?全員、統合失調症とするのも忍びないと思ってしまうのですが、皆さんは他の病名をつけていますか?
ガイドラインには次のように記載があります。
保険適用外使用にはなるが、クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関しては、原則として、器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態、易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとの通達がある。
(2011年9月28日、厚生労働省保健局医療課長、保医発0928第1号。社旗保険診療報酬支払基金、第9時審査情報提供)
参照:かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
このようにリスペリドン等を上記の症状に対して使用することは、保険審査上認められています。しかし保険適用外であるため、副作用等が出た場合に救済制度が使えないことを、家族に説明しておくことが必要です。
また、基本的にリスペリドン・クエチアピンどちらも薬価が比較的安く、老健施設などでもよく使われています。
リスペリドンとクエチアピンを使い分ける6つのポイント
これまで解説してきた内容を踏まえて、リスペリドンとクエチアピンを使い分ける上でのポイントをまとめていきます。