ノイロトロピンの使いどころは?痛みの分類や高齢者への効果的な使い方
寄せられた質問に専門医が回答する人気動画「三木健司のお悩み相談 by Docpedia」を、記事でも読めるようにしました。
今回のテーマは「ノイロトロピンの使いどころ」です。
実臨床に役立つ知識が満載の実践的な内容となっています。
回答する医師 三木健司
大阪行岡医療大学 医療学部 特別教授
早石病院 疼痛医療センター センター長
日本整形外科学会 整形外科専門医 認定リウマチ医
日本リウマチ学会 リウマチ専門医
運動器の健康・日本協会 運動器疼痛対策事業運営委員
日本いたみ財団 研究委員会委員
Best Doctors in Japan™ 2010-2013、2014-2015、2016-2025
(難治性疼痛(CRPS,線維筋痛症)、難治性骨折、偽関節の専門家として)
日本疼痛学会 理事
日本運動器疼痛学会 監事
Q.ノイロトロピンの使いどころは?
今回の質問は以下の通りです。
慢性疼痛を訴える患者で、アセトアミノフェン、NSAIDs、プレガバリンを併用しています。ガイドラインには神経因性疼痛にノイロトロピンも記載されており、副作用も特になさそうなのでトライしてもよいと考えているのですが、こういう患者には効くことがある、などはありますか?
慢性疼痛診療ガイドラインにおけるノイロトロピンの推奨度
2021年6月に発刊された慢性疼痛診療ガイドラインでは、ノイロトロピンは次のように推奨されています。
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン)は、腰痛症、頸肩腕症候群、帯状疱疹後神経痛に対して有用な可能性がある。重篤な副作用は稀であり、安全性が高いため、標準的な治療に反応しない場合には、使用することを考慮する。
推奨度:2(弱)使用することを弱く推奨する (合意率84.6%)
プラセボ対照のRCT
腰痛、頸肩腕症候群、帯状疱疹後神経痛に対して、ノイロトロピンの有効性を検討したプラセボ対照のRCT(ランダム化比較試験)の結果も報告されています。
いずれの疾患においても、プラセボ群と比較して有意差を持って効果が認められました。
また、副作用は軽微であり、それほど心配する必要がないといわれています。
参照:慢性疼痛診療ガイドライン /真興交易(株)医書出版部
https://square.umin.ac.jp/mansei-toutsu/file/mansei-toutsu_GL_J_2021.pdf
神経障害性疼痛の薬物療法アルゴリズム
ガイドラインで示されている神経障害性疼痛の薬物治療アルゴリズムは、以下の通りです。
| 第一選択薬 (複数の病態に対して有効性が 確認されている薬物) |
・Ca2+チャネルα2δリガンド プレガバリン、ガバペンチン ・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 デュロキセチン ・三環系抗うつ薬(TCA) アミトリプチリン、ノルトリプチリン、 イミプラミン |
| 第二選択薬 (一つの病態に対して有効性が 確認されている薬物) |
・ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 (ノイロトロピン) ・トラマドール |
| 第三選択薬 | ・オピオイド鎮痛薬 フェンタニル、モルヒネ、オキシコドン、 ブプレノルフィン など |
参照:神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2/日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide08_11.pdf
神経障害性疼痛に対して、ノイロトロピンは第二選択薬に位置付けられています。
そのため、デュロキセチンやプレガバリンなどの第一選択薬で効果が不十分な場合には、ノイロトロピンやトラマドールの使用が検討されます。
疼痛の分類
痛みはその発生機序に基づき、主に以下のように分類されます。
【器質的疼痛】
侵害受容性疼痛:炎症や組織損傷によって生じた発痛物質が末梢の侵害受容器を刺激することによって生じる痛み
- 極めて限局的な痛み
- 内臓組織が関与している場合はより広範
- スパッと切れるような痛み
神経障害性疼痛:体性感覚神経に対する損傷や疾患によって引き起こされる痛み
- 持続的な痛み
- 灼けつくような痛み
- 電気ショックのような痛み
最近では、これら以外に「痛覚変調性疼痛」という新しい概念も提唱されています。
- 原因ははっきりしないが痛みがある
- 原因はあるがそれ以上に痛みを訴える
このような訴えがある場合は、痛覚変調性疼痛ではないかと考えられています。
下行性疼痛抑制系の経路
ノイロトロピンの作用は、下行性疼痛抑制系が関与すると考えられています。
下行性疼痛抑制系とは、「脳の中で自分で痛みを抑える神経経路」のことです。
ノイロトロピンはこの経路を促進することで、痛みを抑制するとされています。
炎症を抑えることで鎮痛効果を示すNSAIDsとは作用機序が異なり、炎症の有無にかかわらず痛みを和らげる可能性がある点が特徴です。
痛覚変調性疼痛、代表的な疾患は?
痛覚変調性疼痛として分類される代表的な疾患には、次のようなものがあります。
- 線維筋痛症
- 複合性局所疼痛(CRPS)
- 口腔顔面痛
- 過敏性腸症候群
- 慢性腰痛
これらの疾病は、WHOによって定められたICD-11(国際疾病分類第11版)では、「慢性一次性疼痛」として分類されています。
慢性一次性疼痛について
慢性一次性疼痛の患者の多くは、痛みの原因がはっきりしておらず、しばしば次のような症状を訴えます。
- 気分の落ち込みが多い
- 不安の気分がある
- 怒りやイライラ感がある
また外傷後疼痛についても、一部が慢性一次性疼痛ではないかといわれています。
慢性一次性疼痛の診断基準
慢性一次性疼痛の診断基準は以下の通りです。
【診断基準:条件A〜Cが満たされている】
A.慢性的な痛み(3か月以上続くか、再発する)がある
B.痛みは、次のうち少なくとも以下の1つに関連している
・痛みによる感情的苦痛が存在する
・痛みが日常生活活動や社会参加を妨げている
C.痛みは、他の慢性疼痛の病態によってうまく説明できない
外傷後疼痛として、日本ではむち打ち症が多いですが、診断が曖昧な場合は慢性一次性疼痛とみなされることがあります。
プレガバリンの用量を調整する際の工夫
運動器慢性疼痛に対するノイロトロピンとプレガバリンの併用療法に関する研究が行われました。
対象は、薬剤投与の開始時点で両剤を併用しており、7ヶ月以上経過が観察できた23名。
以下の3群に分けて確認が実施されました。
【23名を以下A~Cの3郡に分類】
A.併用継続群(10例):プレガバリン+ノイロトロピンを継続
B.ノイロトロピン群(5例):併用からノイロトロピン単剤へ変更
C.プレガバリン群(8例):併用からプレガバリン単剤へ変更