認知症症状への抗精神薬の使い分け・BPSDに対するチアプリドの効果は?
寄せられた質問に専門医が回答する人気動画「千葉悠平のお悩み相談 by Docpedia」を、記事でも読めるようにしました。
今回のテーマは「認知症症状への抗精神薬の使い分け・チアプリド」です。
実臨床に役立つ知識が満載の実践的な内容となっています。
回答する医師 千葉悠平
積愛会 横浜舞岡病院医師・医学博士
医学博士
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医 指導医
日本認知症学会専門医 指導医
経済産業大臣登録中小企業診断士
YUAD 代表
Q.認知症のBPSDにチアプリド、使い分けのポイントは?
今回の質問は以下の通りです。
30代の精神科医です。
ベテランの先生は、認知症の患者にチアプリドをうまく使ってBPSDをコントロールしている印象があります。
BPSDにはバルプロ酸、抗精神病薬、抑肝散など様々な選択肢がありますが、チアプリドを用いた方が良いケースを教えていただけると幸いです。よろしくお願いします。
チアプリドは比較的歴史のある薬で、古くから使われてきたこともあり、ベテランの先生方は使い慣れているかもしれません。他の薬とは異なる点もあるため、今回はチアプリドの特徴について解説していきます。
チアプリドについて
チアプリドの主な特徴は以下の通りです。
| 適応 |
1)脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄の改善 2)特発性ジスキネジア及びパーキンソニズムに伴うジスキネジア (※統合失調症には保険適応なし) |
| 作用機序 | ドーパミン受容体(D2/D3)遮断 |
| 代謝経路 | 主に腎排泄(血液透析ではわずかしか除去されない。) |
| 用量設定 | 1日75〜150mgを3回にわけて ※高齢者やジスキネジアの場合は少量から(25mg程度から) |
| 半減期 | 3.91時間 |
| 副作用 | 悪性症候群、痙攣、QT延長、傾眠、めまいなど |
| 禁忌 | プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の患者 |
BPSDへ使用する場合は、1)の適応が該当します。
適応が明確に記載されていることから、脳血管性認知症や脳梗塞後遺症を伴う認知症患者に対しては、使用しやすい薬剤といえます。
一方で、「攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄」という適応の解釈にはやや難しい側面もあります。
過去の治験では、「脳血管障害性疾患で、問題行動、情動障害、自発性低下のいずれかの精神神経症状を呈する患者」が対象とされており、現在の適応症とはやや異なる可能性があります。
ただし、これらの患者に対してはプラセボと比較した有効性が示されており、副作用発現率は約14%と報告されています。
脱落例はなく、最も多い副作用は傾眠(約7%)でしたが、プラセボとの明確な差は認められませんでした。
これらの点から、少ない副作用で一定の有効性が期待できる薬剤と考えられます。
また、半減期が比較的短いため、効果を得たい時間帯に合わせた投与調整がしやすいのが特徴です。
さらに、抗精神病薬の多くが肝代謝であるのに対し、本剤は主に腎排泄であるため、肝機能障害を有する患者においても選択肢の一つとなり得ます。
論文からの報告
チアプリドは比較的歴史のある薬であり、いくつか論文が出されています。
ここでは、「アルコール離脱」と「高齢者認知症のアジテーション」に関して書かれたものをご紹介します。
アルコール離脱に対するチアプリドの治療
以下の論文は、アルコール離脱の治療における、チアプリドと他剤またはプラセボの有効性や安全性を比較したものです。
| 著者・年 | チアプリドの 平均 1日投与量 |
比較薬・平均1日 投与量 |
結果 |
| Agricola et al. (1982) |
600mg | カルバマゼピン 600mg |
両剤とも脱落は0% 詳細な記載はなし |
| Martinotti et al. (2010) |
550mg | プレガバリン365mg /ロラゼパム6.5mg |
【有効率】 チアプリド37.8% /プレガバリン62.2% /ロラゼパム56.8% 【脱落】 チアプリド0% /プレガバリン2.7% /ロラゼパム0% |
| Murphy et al. (1983) |
450mg | クロルメチアゾール 1804.8mg/プラセボ |
【有効率】 チアプリド83.3% /クロルメチアゾール86.2% /プラセボ77.8% 【脱落率】 チアプリド6.7% /クロルメチアゾール3.4% /プラセボ0% |
| Shaw et al. (1994) |
300mg | プラセボ | 【有効率】 チアプリド41.7% /プラセボ30% |
Zangani C,et al., A. Efficacy of tiapride in the treatment of psychiatric disorders: A systematic review. Hum Psychopharmacol. 2022;37(5):e2842
Martinotti et al. (2010)の研究では、プレガバリンやロラゼパムとの比較が行われています。ただし、日本のガイドラインでは、アルコール離脱に対するベンゾジアゼピン系としては、主にジアゼパムが用いられます。
そのため、本研究の結果は参考程度にとどめるのが望ましいでしょう。
もしジアゼパムにアレルギーがあったり、肝障害などで使用が難しかったりする場合は、代替選択肢として検討することは可能といえます。
高齢者認知症のアジテーションに対するチアプリドの治療
以下の研究は高齢者認知症のアジテーション治療に関する論文です。
| 著者・年 | チアプリドの 平均1日投与量 |
比較薬・平均1日 投与量 |
結果 |
| Allain et al. (2000) |
175.45mg | ハロペリドール3.53mg /プラセボ |
【有効率】 チアプリド62.7% /ハロペリドール68.7% /プラセボ48.5% 【脱落率】 チアプリド4.9% /ハロペリドール16.8% /プラセボ5.8% |
| Gutzmann et al. (1997) |
400mg | メルペロン100mg | 【有効率】 チアプリド75.9% /メルペロン72.5% 【脱落率】 チアプリド6.3% /メルペロン12.7% |
Zangani C,et al., A. Efficacy of tiapride in the treatment of psychiatric disorders: A systematic review. Hum Psychopharmacol. 2022;37(5):e2842
ハロペリドールとの比較では、有効性は概ね同程度とされています。
一方で、脱落率はチアプリドの方が低い傾向がみられており、忍容性の面で優れている可能性が示唆されます。
回答
チアプリドの使用に関するポイントは次の通りです。