高齢者のアルコール依存、どう対応する?脳への影響と認知症リスクを解説
寄せられた質問に専門医が回答する人気動画「千葉悠平のお悩み相談 by Docpedia」を、記事でも読めるようにしました。今回のテーマは「高齢者のアルコール依存、対応は?」です。実臨床に役立つ知識が満載の実践的な内容となっています。
回答する医師 千葉悠平
積愛会 横浜舞岡病院医師・医学博士
医学博士
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医 指導医
日本認知症学会専門医 指導医
経済産業大臣登録中小企業診断士
YUAD 代表
Q. 高齢者のアルコール依存、対応は?
今回の質問は以下の通りです。
75歳以上でフレイル、「通院時とお酒を買いに行くとき以外は外出しないので困っている」との相談を立て続けに受けました。認知機能低下も疑われ、易怒性もありそうなので、本人に物忘れ外来の受診や認知機能検査をおすすめしても拒否されます。
ご家族が地域包括支援センターに相談しても「本人の意思があるから」とか、「通院中の病院にその状態を話して」と言われるだけで、何の解決にもならないそうです。
ご家族は、認知症やアルコール依存に関して受診を望まれています。ご家族にどのようなアドバイスができるか、実際どのようなことができるか、ご教示いただければ幸いです。
高齢者のアルコールに関する問題は年々増加しており、臨床現場でも大きな課題となっています。しかし、実際には受診につながりにくいケースも多く、つながったとしても対応に難渋することが少なくありません。
まずは医療につながり、少しずつ病識を持っていただくことが重要です。そのためには、関わる医療者がアルコールと認知症の関係について理解し、適切に関わっていくことが求められます。
はじめに:アルコールの歴史
お酒は非常に歴史が古く、紀元前4000年頃からすでに果実酒やビールが造られていたとされており、聖書にも酒に関する記述は数多く登場します。
【聖書におけるアルコールの記載】
- ノアは、大洪水のあとに、ぶどう酒を作る。
(『創世記』のエピソードより一部抜粋) - 喜びをもってあなたのパンを食べ、楽しい心をもってあなたの酒を飲むがよい。
(『伝道の書』09章07節) - 彼はぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。
(『創世記』09章21節) - 酒は人をあざける者とし、濃い酒は人をあばれ者とする、これに迷わされるものは無知である。
(『箴言』20章01節)
このように聖書では、「喜びをもって酒を飲む」ことが肯定的に描かれる一方で、飲み過ぎによる失敗や問題についても記されています。
また、聖書の初期に登場する人物は非常に長寿ですが、お酒を飲む頃になると徐々に寿命が短くなっています。これは、古くからのお酒と寿命との関係を連想させるエピソードといえるかもしれません。
アルコールの中枢神経作用
アルコールには中枢神経への作用があり、飲酒量に応じて症状が変化します。
| 血中濃 度(%) |
酒量 | 酔いの状態 | 脳への影響 | |
| 爽快 期 |
0.02〜 0.04 |
ビール中びん (~1本) 日本酒(~1合) ウイスキー・シングル (~2杯) |
・さわやかな気分になる ・皮膚が赤くなる ・陽気になる ・判断力が少し鈍る |
網様体が麻痺すると、理性を つかさどる大脳皮質の活動が 低下し、抑えられていた大脳 辺縁系(本能や感情をつかさ どる)の活動が活発になる。 |
| ほろ 酔い 期 |
0.05〜 0.10 |
ビール中びん (1~2本) 日本酒(1~2合) ウイスキー・シングル (3杯) |
・ほろ酔い気分になる ・手の動きが活発になる ・抑制がとれ、理性が低下する ・体温が上がる ・脈が速くなる |
|
| 酩酊 初期 |
0.11〜 0.15 |
ビール中びん (3本) 日本酒(3合) ウイスキー・ダブル (3杯) |
・気が大きくなる ・大声でがなりたてる ・怒りっぽくなる ・立つとふらつく |
|
| 酩酊 期 |
0.16〜 0.30 |
ビール中びん (4~6本) 日本酒(4~6合) ウイスキー・ダブル (5杯) |
・千鳥足になる ・何度も同じことをしゃべる ・呼吸が速くなる ・吐き気・嘔吐がおこる |
小脳まで麻痺が広がると、運動失調 (千鳥足)状態になる。 |
| 泥酔 期 |
0.31〜 0.40 |
ビール中びん (7~10本) 日本酒(7合~1升) ウイスキー・ボトル (1本) |
・まともに立てない ・意識がはっきりしない ・言語がめちゃめちゃになる |
海馬(記憶の中枢)が麻痺すると、 今やっていること、起きていること を記憶できない(ブラックアウト) 状態になる。 |
| 昏睡 期 |
0.41〜 0.50 |
ビール中びん (10本超) 日本酒(1升超) ウイスキー・ボトル (1本超) |
・ゆり動かしても起きない ・大小便は垂れ流しになる ・呼吸はゆっくりと深い ・重症例では死亡する |
麻痺が脳全体に広がると、呼吸 中枢(延髄)も危ない状態と なり、死に至る。 |
少量の飲酒では、爽やかな気分になったり陽気になったりする程度ですが、飲酒量が増えてくるにつれて、大脳の働きが抑制され、感情のコントロールが効きにくくなっていきます。
さらに酩酊状態が進行し、泥酔や昏睡の段階になると、大脳だけでなく脳幹などにも影響が及びます。場合によっては命に関わることもある非常に危険な状態です。
特に高齢者はアルコールの影響を受けやすいとされています。長期間にわたり飲酒を続けている場合には、アルコールの影響によって認知機能が低下している可能性もあるため、その影響を見極めることが重要です。
参照:社団法人アルコール健康医学協会ホームページより
https://arukenkyo.or.jp/health/base/index.html
認知症リスクとして、アルコールの適量は?
アメリカの地域住民を対象に行われたコホート研究では、3021人(平均年齢78歳、女性46.2%)を平均6年間観察した結果、512人が認知症を発症しました。
以下の表は、認知症の発症とアルコールの摂取量との関連を検討した結果です。横軸がアルコール摂取量を示していますが、飲酒量が多いほど認知症の発症リスクが高くなるという明確な結果は認められませんでした。
引用:Manja Koch et al., Alcohol Consumption and Risk of Dementia and Cognitive Decline Among Older Adults With or Without Mild Cognitive Impairment. JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1910319
一方で、認知症の発症そのものではなく、MMSEの点数に着目すると異なる結果が示されています。
軽度認知障害(MCI)の患者では、週14drinks以上の飲酒をしている場合、MMSE低下のリスクが高いことが報告されています。(1drink10g相当)
引用:Manja Koch et al., Alcohol Consumption and Risk of Dementia and Cognitive Decline Among Older Adults With or Without Mild Cognitive Impairment. JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1910319
近年では、認知症の新しい治療薬も登場し、MCIの段階から治療介入が行われるようになってきています。そのため、MCIの患者の飲酒はあまり推奨されないといえます。
もちろんアルコールに対する感受性には個人差があり、目の前の患者がどの程度影響を受けるかを一律に判断することはできません。しかし、MCIの患者に対しては、飲酒が認知機能低下のリスクとなる可能性があることを説明することが重要と考えられます。
喫煙と飲酒
お酒を飲む方のなかには喫煙習慣を持つ人も多く、「飲酒と喫煙では、どちらが脳への影響が大きいのか」と質問を受けることも少なくありません。そこで、喫煙者のリスクに関するデータをご紹介します。
CARDIA(the Coronary Artery Risk Development in Young Adults)コホート研究では、698人(女性52%、黒人参加者40%、平均年齢50.3歳)を対象に、喫煙と脳灰白質(GM:gray matter)体積との関連が検討されました。
以下の表の黒字で示された部分が統計学的に有意な結果を示しています。特に、現在喫煙している人(current smoker)では、GM体積の低下、すなわち脳萎縮との関連が認められました。
引用:Manja Koch et al., Alcohol Consumption and Risk of Dementia and Cognitive Decline Among Older Adults With or Without Mild Cognitive Impairment. JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1910319
さらに、現在喫煙している人をアルコール摂取量によって「アルコールを飲んでいない」「少量飲んでいる」「大量に飲んでいる」の3群に分けて調べています。
その結果、現在喫煙していてもアルコールを飲んでいない人では、脳萎縮との関連は認められませんでした。一方、少量および大量にアルコールを飲んでいる人では、脳萎縮との関連がみられました。
つまり、喫煙にアルコールが加わることで、脳に悪影響がある可能性が示唆されています。
引用:Manja Koch et al., Alcohol Consumption and Risk of Dementia and Cognitive Decline Among Older Adults With or Without Mild Cognitive Impairment. JAMA Netw Open. 2019;2(9):e1910319
また、部位別に解析すると、飲酒者では特に前頭葉と側頭葉、扁桃体、帯状回、島で、より小さな総GMと関連するということがわかっています。
引用:Martine Elbejjani et al., Cigarette smoking and gray matter brain volumes in middle agre adults: the CARDIA Brain MRI sub-study. Transl Psychiatry. 2019 Feb 11;9(1):78.
アルコール依存と脳年齢
次に、アルコールの脳への影響をもう少し深掘りしていきます。以下のA・Bの図は、脳の萎縮の度合いを色で表示したものです。
AとBを比較すると、萎縮している部分が非常によく似ていることがわかります。以前から、アルコールは脳の加齢を促進するのではないかと考えられていましたが、この結果はその仮説を支持するものといえます。
つまり、加齢によって影響を受けやすい脳領域は、アルコール依存症患者でも萎縮していることが示されたのです。
さらにこの論文では、脳の灰白質やデモグラフィックスなどの情報をパラメーター化し、脳年齢を測定するモデルを作成しています。
引用:Martine Elbejjani et al., Cigarette smoking and gray matter brain volumes in middle agre adults: the CARDIA Brain MRI sub-study. Transl Psychiatry. 2019 Feb 11;9(1):78.
上の図では、赤の点がアルコール依存症の方を示していますが、全体的に上の方に分布しています。
つまり、アルコール依存症患者では、脳の老化が進んでいる可能性が示されたということです。
さらに年齢別にみていくと、「脳年齢」が実年齢と差がない状態を0とした場合、アルコール依存症の方では、40代、50代、60代のいずれにおいても、脳年齢が実年齢を上回っています。
たとえば、40代では約5歳、60代では12〜13歳程度、脳年齢が高いことが示されています。
引用:Matthias Guggenmos, et sl. Quantitative neurobiological evidence for accelerated brain aging in alcohol dependence. Transl Psychiatry. 2017 Dec 11;7(12):1279.
これらの結果は、アルコールによって脳の加齢が促進するという仮説を支持するものといえるでしょう。
一般的に、アルコール依存症の方は寿命が短いといわれていますが、その背景には、アルコールによって脳の老化が早まっていることが関係している可能性も示唆されます。
また、40代に比べて60代の方が脳年齢の上昇幅が大きいことも示されました。つまり、加齢脳の脆弱性という観点からも、高齢者の方がアルコールによる脳への影響がより大きく現れる可能性があるということです。
脳年齢の加速
ここからは、実際にどのような人で脳年齢の加速が起こっているのかを調べた研究をご紹介します。