「受け継がれる親心」 ―祖父から父へ、父から娘へ
「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回は大学受験・国家試験にまつわる「受験の思い出」がテーマです。薬剤師の先生方も皆さんが通った、夢への道。合格発表の季節には毎年懐かしく想い返される方もいらっしゃることでしょう。悲喜こもごものエピソードを全4回でお届けします。普段とは違うドクターの素顔が垣間見られるかもしれません。
「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回は大学受験・国家試験にまつわる「受験の思い出」がテーマです。薬剤師の先生方も皆さんが通った、夢への道。合格発表の季節には毎年懐かしく想い返される方もいらっしゃることでしょう。悲喜こもごものエピソードを全4回でお届けします。普段とは違うドクターの素顔が垣間見られるかもしれません。
社会に役立つ人間になるために
高3の頃ひどい自己嫌悪に陥っていた私は、何の目的意識も持たないまま法学部を受験し失敗に終わった。
自分みたいに何の取柄のもない人間は、はたして世の中での存在意義はあるのだろうか。はたして自分は何になって社会に役立つ人間になろうとしているのだろうか。悩み、考え抜いてだした結論は医師になることであった。
補習科(予備校にいけない生徒の受け皿として当時はどこの進学校にもあった)で授業を受ける傍ら、独学で数IIIを勉強した。文系にいた自分には当然の話である。
高い倫理意識をもって朝早くから一生懸命に勉強した。そして受験が近づくと願書を一校だけに提出した。というか当時、理科一科目で受験できる国立の医学部は他になく、ここしか願書をだせなかったのである。二浪はできないため最初で最後の医師になるチャンスであった。
「神様はなんて無情なのか」
入試も終了し足早に駅に向かって歩いていると、先ほどの数学の問題での手痛いミスに気づいた。
「あっ、しまった! なんであんなミスをしたんだ!」
放心状態のまま帰途についた。帰りの夜行列車の中では頬杖をつき、ずっと下を向いてた。涙が切れることなく流れ落ちた。
「神様はなんて無情なのか」、「俺ほど医師になりたいと思っている人間はいないのにどうして医師にならせてくれないのか」。
東の空が白みはじめると涙もかわいてきた。少し冷静になってきた。親に「試験はどうやった?」ときかれたら、「ごめん、少しミスをした。すまんけど合格は期待せんでくれ」と言おう。
そしてありがとうと感謝の言葉を付け加えよう。一年間の浪人生活を許してくれたのだから。
受け継がれる親心
午前6時、故郷の駅に夜行列車は到着した。親父がホームに迎えにきてくれていた。ところが親父が発した言葉は予想と違い意外な言葉であった。
「終わったな、良かった、良かった、やっと終わったな」。
運よく合格した私は医師になって2人の娘に恵まれた。娘たちが高校生の頃この話をした。
おじいちゃんはお父さんを好きな道に進ませてくれた。そして受験勉強の結果ではなく過程を大事にしてくれたんだよ、と話すと娘2人は大粒の涙を流しながらしっかりと聞き入っていた。
親父の良心が娘たちにしっかりと受け継がれたと思った。