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心に残る症例(m3メンバーズメディア)

更新日: 2018年5月2日

「アウエル小体のある芽球がいます」-妊婦健診で助かった二つの命-

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「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。

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M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。

―「アウエル小体のある芽球がいます」

血液内科の外来中、血液検査技師さんから電話が入りました。今からもう21年も前のことです。外来診療もそこそこに血液検査室に足を運びました。妊娠26週の妊婦検診の検体でした。白血球3,900/ul、ヘモグロビン8.2 g/dl、血小板10.2万/ulと、白血球は正常ですが貧血と血小板減少がありました。

検査技師さんに言われて血液スライドを見ると、確かに全視野の中に1個だけ「アウエル小体のある芽球」がいました。「よくぞみつけた」と感心しました。その妊婦さんは、結婚後10年目の39歳にしてはじめての妊娠でした。家族みんなが待ちに待った「おめでた」だったのです。経過はとても順調で、妊婦検診がなければ血液検査はまずされなかったでしょう。

緊急入院となり、骨髄検査により急性骨髄性白血病(AML)の診断が確定しました。

「39歳女性、妊娠26週で子供を待望している」
「降って湧いたAML」「白血病の治療はどうするのか」
「子供は助けられるのか」
大変な難問に直面しました。血液内科、産婦人科、小児科の3者で話し合いました。

「AMLは2~3週間なら化学療法を遅らせても大丈夫だろう」
「胎児のエコー所見からは、リスクはかなり高いが体外でも子供はなんとか成育できるだろう」

そう判断し、入院4日目に帝王切開となりました。

―918gの命

体重918g。手のひらの上に乗るような小さな小さな女の子でした。内科医の私には人間とも思えない驚異の小ささでした。NICUで集中管理となりました。肺合併症で一時危険な状態になりましたが、数ヵ月後には元気に退院できました。

一方のお母さん。帝王切開後に子宮内感染症を併発し、2週間遅れの寛解導入療法となりました。続く寛解後療法では、何度か重症の感染症を起しました。でも、わが子に対面して抱きしめることで、特別な力を得ておられたようです。

女の子に少し遅れて、お母さんも無事退院となりました。

その後の外来では、お母さんの傍らにいつも女の子がいました。「いくつになったの?」かわいい女の子にそう尋ねることを、私は楽しみにしていました。「4つ」、「5つ」、・・・「10歳です」という女の子の答えは、お母さんの白血病の寛解期間そのものでした。

10歳頃を最後に会えなくなっていましたが、15歳中学3年生のときに久しぶりに来てくれました。「今日は、学校がたまたま休みだったから」と。そこには、まるで見違えるようなスラリとした女性の姿がありました。身長は159cmだそうです。

「918 gの手のひらサイズのあの赤ちゃんが、今は159cm・・・」
小児科医ならともかく内科医には信じられない光景でした。

―続いていく物語

そしてさらに時間は流れます。

自分が生まれた時の「物語」がそうさせたのでしょうか。彼女は看護師を目指すようになりました。現在21歳の彼女は、来年には看護師になります。

「どうぞ、患者さん思いのやさしい看護師さんになられますように」

21年前の妊婦健診で、血液スライドの中に1個だけいた「アウエル小体のある芽球」。もしあの時、検査技師さんが見つけてくれなかったらどうなっていたでしょう。彼女はこの世に生を受けていなかったかも知れません。お母さんの白血病は治っていなかったかも知れません。

奇跡のような偶然と幸運。救われた命がまた新しい命を救うことになる。

とっておきのうれしいお話です。

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