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心に残る症例(m3メンバーズメディア)

更新日: 2018年5月10日

「安達さんからの手紙」-執刀した患者さんから来た最後の年賀状-

「安達さんからの手紙」-執刀した患者さんから来た最後の年賀状-の画像

「安達さんからの手紙」-執刀した患者さんから来た最後の年賀状-「M3メンバーズメディア」の画像

「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。

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M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。

P.N. DHNY

もう10年以上前のことですが、今でも忘れられない患者さんの話です。
当時、私は卒後9年目の外科医でした。患者さん(仮名:安達さん)は80歳の男性で、進行直腸がんの根治手術(Miles手術)を受けました。術者は当時の院長(外科)、第一助手は外科部長、そし第二助手が私でした。患者の担当主治医は外科部長と私だったのですが、そこは外科のヒエラルキーの中で自然と院長が術者と決まったわけです(外科部長としては面白くなかったことでしょう)。

-「俺が術者じゃないから、知らん」

手術そのものは問題なく終了したのですが、術後2日目の回診の際にドレーンからマイナーリークを疑わせる汚染した排液がありました。

その時、回診を率いていた外科部長(手術の第一助手)はその汚染をみて何気なく「俺が術者じゃないから、知らん」と口走って次の患者に行ったのです。

悪気のない軽口だったとは思いますが、それを耳にしたとき患者さん(安達さん)は戸惑いと不安が入り混じった何とも言えない表情をされました。

その時、すぐ後ろをついて回っていた私はすぐに患者さんの肩を軽くたたいて、
「安達さん、大丈夫ですよ。ちゃんとよくなりますから」
と、声をかけました。

実は私が覚えているのはこのあたりまで、病院でのエピソードもここまでなのです。その後患者さんは徐々に回復され退院され、外来に定期的に通っておられました。

私は1年後に転勤してしばらくしたある日、安達さんから手紙が届きました。

季節の挨拶とご機嫌伺いの言葉のあと、大略このように書かれていました。

「あの時の回診で部長先生が、俺は知らん。と言って次に行かれたとき、先生はすぐに、大丈夫ですよ!と声をかけてくださいました。あの一言で私は救われました。回復できたのも先生のおかげです。私の命のある限り先生への感謝は忘れません」

安達さんは、戦時中はシベリアにいた経験もあり過酷な人生を生きてきた方で、その後社会的にも大成功をおさめられた方でした。このような方であってもやはり病の時には、何気ない一言に傷つき、そしてたった一言で励まされるのだと、我々の言葉の持つ力に驚きました。

-安達さんからの最後の手紙

その後の2年間、季節ごとの便りや年賀状のやり取りをしていましたが、手術から4年を経過した正月、安達さんからの年賀状が届きませんでした。

体調でも崩されたのだろうかと心配していたところ、2月になって遅い年賀状が届きました。

その年賀はがきには大略こうありました。
「ご無沙汰して申し訳ありませんでした。半年前から肝臓、肺にも転移して今は○○病院に入院しています。ペンもとれない状態ですが、看護婦さんにお願いしてご機嫌をお伺い致しました。もうお会いできないと思いますが、先生にはなんとかもう一度お会いしたかったです。本当に残念です。先生も体に気を付けて長生きをして下さい。」

それを読んで、私はもう安達さんが亡くなってしまったかのように涙を流しました。私は会いに行こうと思えば会いに行けたのです。それなのに、忙しさにかまけてそうしませんでした。痛恨の極みです。

3月でまた転勤となったため、○○病院に出かけていきましたが、受付では当然個人情報を他人に教えるわけもなく、「今、この病院には入院されていません」とだけ言われました。

安達さんの「最後に一目お会いしたい」という言葉に応えられなかったという後悔の思いはいつまでも消えません。安達さんからの手紙と最後の年賀状は今でも机の中に大事にとってあります。この手紙を読むたびに、安達さんを思い出し、あの回復室でのやりとりを思い出し、そして「医師として大事なこと」を思い出すのです。

幕末の名医 緒方洪庵先生は、「とびきりの親切者でなければ医者はつとまらない」というような言葉を残されています。私は「とびきりの親切者」ではありませんが、少なくとも、病んだ人や不安をもつ人を見て、「可哀そうだ」「なんとかしてあげたい」という気持ちや感情が動かないようでは「医者はつとまらない」だろうと思うのです。

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