「気づけなかった疾患」-BNP高値、高調尿、血液検査・心エコー異常なし。鑑別は?-
「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。
M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。
―先輩からの依頼
15年前の話です。医局の6期先輩の先生から、
「検診で<BNPが異常高値・要精査>と指示をもらった人がいたので、BNPを再検したらやはり高い。血液検査、心エコーをやってみたが何も出てこない。念のためお前の眼でも確認してみてくれ」と言われました。
BNPの値は忘れましたが、当時BNPの測定はやっと商業ベースにのったばかりで、結果が出るまで7日前後かかっていました。
この先生は医局でもとびきり優秀な方でしたが、しつこい慢性病があり早くに外の病院に出ていた先生で、私の新人時代、9ヵ月ほど、手とり足とり教えってくださった方でもありました。
―BNP高値、高調尿、しかし下垂体異常なし
その先生の網の目をくぐって新たな発見ができるはずもない・・・そう思いきや、
「お!実際おいでになると、先輩らしくもない!」、抗利尿ホルモンを測っていませんでした。測ってみると、検尿一般の尿比重は1025と高調尿でした。
「高調尿が出てるってことは、体液を増やしているって事だね?これであの大好きな、先輩先生に褒められるかもしれない?!」
私は、いさんで、下垂体CTをオーダーしました。ところが、できてきた写真は、下垂体左葉・右葉の大きさに違いがなく、下垂体茎は直立不動で屹立。
「まったく正常写真・・・?」
結局振出しに戻ってしまい、同じことを再確認しただけで検査終了となりました。
―訃報
しばらくして、先輩からその検診の方の訃報が届きました。死因は肝細胞癌。がん以外の部分の組織が肝硬変となり急速に二次性アルドステロン症が進行。
「検診結果の<BNP高値>の機序」は体内のアルドステロンの拮抗物質(利尿・降圧など)であるBNPが二次的に分泌亢進となっていたためだったのでしょう。ANPでも高血圧他同様の体液過剰状態で見受けられることは諸先生方ご存知のことと思います。
「これくらいなら気づいてもよかったのに・・・」と先輩のお手伝いができなかったことやら、ひょっとして、長生きできたらかもしれない検診の方のことを考えると残念でなりませんでした。
あとからすべての血液成績を見直しますと、先輩から送られてきたBNP値より、私の指示で採血したBNPの方が5%程上昇しており(この間約1か月)、この辺に考えるヒントがあったかな、と今ふりかえると反省しきりです。
最後になりますが、成書には「ナトリウム利尿ペプチド」は心不全において活性化され、体液を増やす役割を、レニンーアルドステロンーアンジオテンシン(RAA)系に拮抗して、二次的に分泌亢進すると書かれてあります。しかし、どこの臓器でRAA系が賦活化されているかを確認しなければ、初動の治療に、齟齬をきたすことがあるかもしれません。