「当直明けの世間話」-13歳、白血病の男の子からのメッセージ-
「M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。
M3メンバーズメディア」では医師会員から寄せられた記事の一部をご紹介します。今回からシリーズとして、「心に残る症例」をテーマにエピソードをご紹介したいと思います。薬剤師の先生方も、いつまでも印象に残る症例、患者さんとの想い出があるかと思います。中には仕事の在り方を考えさせられるかもしれないエピソードもあるかもしれません。日々のお仕事にプラスの変化となるような、「気づき」を感じてもらえたら幸いです。
小児科後期研修医の時代に出会った白血病の13歳の男の子。
親は子供の病気の受容ができず、医療機関や新たな治療探しに奔走してあまり本人に寄り添えず、しかし末期という状態で、移植を待ってはいたが徐々に最期が迫っていた。治療する傍ら、本人の希望に沿って感染リスクのある行動も多少は容認してほしいとのことで、NPO団体の協力で外出なども果たしていた。
-売店までの散歩
当直明けの疲れた朝だったが、ふらっと階下の売店までの散歩に看護師と同行し、本人がジュースを買って自分はコーヒーを買って、10分ほど世間話をした。あまりそれぞれの患者さんと個々に関わりすぎるのはよくないとも考えていたので、今となっては結構珍しい行動をしたなと思う。
同行と休憩合わせ30分ほどの時間だった。似合わないことをしたな、と思ったし、これで帰るのが遅くなって余計疲れたかもしれないな、なんて非情なことも頭をめぐった。とにかく当直が多くてちょっと嫌になっている時期だったのだ。
当直明けのお休みの日だったので、その後は病棟を見回って帰宅した。だから、同行したとき、顔は疲れていただろうし、会話も本当にたわいもないことで、彼には申し訳ないが正直細かくは覚えていない。その後1週間ほどで、彼の状態が悪化して動けなくなってしまい、そういう行動はできなくなった。最期2日ほどは親も受け入れて寄り添ってあげられた。
-感謝の言葉と後悔
自分が関わったのは闘病の後半の半年ほどで、病院にいる彼しか知らないし、元気な姿も知らない。自分は治療できないと半ばあきらめの中、口内炎や色々な苦痛を取り除くことを考えるくらいしかしてあげられず、結局それもなかなかかなわず、自分は何もしていないなぁと医者になりたての無力さも助け、今思えば、何となく彼のところに行くのがつらいという気持ちがあって足が遠のいていたのかもしれない。
後で聞いた話だが、いつも忙しそうで疲れているから同行などしてくれないと思っていたので、売店に一緒に行ってくれたときはとても嬉しかったと看護師に言っていたそうだ。最期まで我慢し続けで頑張り屋の彼が、自分のそんな些細な行動で喜んでくれていたなら、もっともっと疲れてたって構わなかったし、無力な自分とも思う存分ぶつかっていればよかった、と余裕のなかった自分を後悔している。
医者は医療だけではないし、色々な意味で寄り添えばいいのだということも多い。何もできないけど責任をもって「最後」や「最期」まで付き合うのが仕事だと感じる。色々なことにつけて彼とのささやかなやりとりや後悔が医者としての自分にメッセージを投げかけてくる。