薬剤師の年収は高い?低い?薬学部の学生に伝えたい年収のリアル
国家資格である薬剤師になれば、仕事に困らないし、高年収が保障されるだろう。
そう考えて薬学部を選んだ方も多いのではないでしょうか。
しかし、薬剤師の年収は本当に高いのでしょうか?
ここでは、薬剤師の年収のリアルと、年収がアップできるキャリアパスについて考えていきます。
薬剤師の平均年収は?
厚生労働省が令和4年度に行った調査によると、薬剤師の平均年収は583万円となっています。
一般労働者の平均年収は312万円なので、それに比べると薬剤師の平均年収は高いことがわかります。
男女で薬剤師の平均年収はどのくらい違う?
薬剤師の男女別平均年収(令和4年度)
男女計 | 男 | 女 |
583万円 | 637万円 | 540万円 |
※厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和4年賃金構造基本統計調査」の、「きまって支給する現金給与額」12か月分に、「年間賞与その他特別給与額」を足した金額を平均年収として算出
薬剤師の平均年収を男女別にみると、男性は637万円、女性は540万円と約100万円の差があります。
男女の平均年収について、もう少し詳しく年齢別にみていきましょう。
薬剤師の男女年齢別平均年収(令和4年度)
男女計 | 男 | 女 | |
20~29歳 | 423万円 | 454万円 | 407万円 |
30~39歳 | 586万円 | 627万円 | 532万円 |
40~49歳 | 636万円 | 723万円 | 593万円 |
50~59歳 | 692万円 | 797万円 | 611万円 |
60~69歳 | 550万円 | 543万円 | 577万円 |
70歳~ | 558万円 | 544万円 | 585万円 |
20代では男女の差は約50万円ですが、30代から約100万円に開きます。
これは、女性のほうが結婚や子育てなどで、時短勤務をしたり、昇進が遅れたりしているためと考えられます。
ただ、薬剤師は同じ仕事をしている限り、年収に男女の差はありません。
また、男女の年収差は50代までは大きくなりますが、60代では女性のほうが年収が高くなっています。
子育てのために仕事をペースダウンしても、子どもが手を離れてからまた稼ぐことができているのがうかがわれます。
女性薬剤師は、結婚や子育てで仕事を続けるのが難しくなったとしても、その後にリカバーすることが十分に可能です。まったく仕事から離れるのではなく、長い目で自分のキャリアを考えて、その時々に応じたスキルを磨いていくようにしましょう。
進路によってこれだけ違う 薬剤師の平均年収
薬学部を卒業後にどの進路を選ぶかによっても、薬剤師の平均年収は変わってきます。
次の表は、代表的な職場の平均年収です。
業種別の平均年収
男女計 | |
ドラッグストア(調剤併設) | 528万円 |
ドラッグストア(OTCのみ) | 500万円 |
ドラッグストア一律 | 514万円 |
調剤薬局 | 517万円 |
病院 | 474万円 |
ここからは、それぞれの職場の平均年収の特徴について解説します。
病院
6年間通った大学の薬学部を卒業したあと、そのまま大学病院に就職するという薬剤師は多くいます。また、母校でなくても、病院勤務は新卒生に人気の就職先です。
病院勤務の魅力は、なんといっても医療の現場の中心で働きながら生きたスキルを身につけられることです。
ただ、年収面をみると、病院薬剤師の年収は474万円とほかの職種と比べて低くなっています。
これは、病院勤務は人気があるため、給与を高くしなくても人材が確保しやすいことが理由のひとつです。病院のなかでは高給与の医師に人件費が回されるため、薬剤師の給与が抑えられてしまうという面もあります。
調剤薬局
調剤薬局の平均年収は、517万円です。調剤薬局は薬剤師が働いている代表的な職場であり、この年収も薬剤師の平均に近いといえます。
薬剤師の中心となるスキルは、調剤業務と服薬指導です。調剤ができないと、これから先に転職したいと思ったときに転職先が限られてしまいます。
ドラッグストア
ドラッグストアの平均年収は514万円です。
ドラッグストアには、一般医療品(OTC)のみを扱う店舗と、調剤を併設した店舗があります。調剤のほうが専門のスキルが必要となるため、調剤併設型のほうが平均年収は高くなっています。
ドラッグストアは、病院や調剤薬局に比べて平均年収が高いことが魅力です。
ただ、OTCのみ販売する店舗で働くと、調剤スキルを身につけることができません。
薬学部を卒業した薬剤師がドラッグストアに就職する場合、調剤併設の店舗のほうがおすすめです。
薬学部卒の進路におすすめ 高年収の職種
これまで説明した職種のほかに高年収が期待できる職場は製薬会社です。
今後、転職して製薬会社に入りたいと思っても、製薬会社は基本的に都市部にしかなく、中途採用の求人も少ないので、転職によって入れる確率は非常に低くなっています。
基本的に薬学部を卒業した新卒時にしか就職できないと考えたほうがいいでしょう。
薬学部で学んだことを生かしたい、自分の能力を伸ばしながら年収も上げていきたいと考える薬学部の学生には、新卒カードを使ってぜひチャレンジしてほしい職種です。
ここでは、製薬会社のなかでも特に高年収の研究職とMRについて解説します。
製薬会社の研究職
製薬会社の研究職は、研究者でチームを組んでさまざまな研究を行いながら、新しい医薬品を開発する、製薬会社の中心となる仕事です。
ジェネリック医薬品が広がるなかで、会社の行先は新薬が開発できるかどうかによって大きく左右されるといえます。
新薬の開発をする薬剤師には、薬剤に対する深い知識だけでなく、地道な研究を繰り返していく粘り強さも必要となります。
会社に対してだけでなく、薬を使用する患者さんに対する責任も重いですが、そのぶん給与も高くなっています。土日が休みであることや、福利厚生が充実していることもメリットです。
製薬会社のMR
製薬会社のMRは、一言でいうと製薬会社の営業職です。
ただ、営業職といっても非常に高い専門性が必要となるため、薬剤師でないとなかなか担えない職種となっています。
医師や病院に対して自社の医薬品の品質、有効性、安全性に関する情報を伝えつつ、医師から医療現場でどのようなことが起こり、どのようなニーズがあるのかを聞き取り会社にフィードバックしていきます。
自社の医薬品の効能について深く理解しなければなりませんし、そのうえで医師と信頼関係を築く高いコミュニケーション能力が求められます。
いわゆる営業マンとしての能力と、医薬品の専門家としての知識の両方が必要な仕事です。
勤務時間も長くなる激務ですが、給与は高水準で、製薬会社なので福利厚生も充実しています。
年収アップ! 薬剤師におすすめのキャリアパス
薬学部を卒業して働く際に、どのようなキャリアを積んでいくのがよいのでしょうか。
仕事をしていくうえで、収入を重視する、ワークライフバランスを重視するなどいろいろな価値観があります。
ただ、薬学部を卒業後の最初のキャリアは、その後のベースとなる大切なことです。
薬剤師は最初に就職した職場で定年まで働き続ける人は少なく、転職しながらキャリアアップしていくのが一般的な業界です。
薬キャリエージェントの調査によると、実に3人に2人の薬剤師が転職を経験しています。
これから先、転職したいと思ったときにも不利にならないように、戦略的にキャリアパスを考えることがおすすめです。
ここでは、薬剤師の代表的なキャリアパスについて紹介します。
スキルアップを重視する
医師の処方箋に従って医薬品を調剤したり服薬指導したりするのは、国家資格である薬剤師にしかできない業務です。
この調剤業務は、薬剤師のベースとなるスキルだといえます。
これから先に即戦力として転職しようと思うと、調剤業務ができるのは必須の能力となります。
新卒で調剤業務のないドラッグストアに就職すると、調剤業務を経験することのないまますごすことになります。
調剤薬局や病院で調剤スキルを身につけ、それをもとにキャリアアップしていくのはやはり薬剤師として王道のキャリアパスだといえるでしょう。
また、病院勤務は初任給が低いのですが、医療現場でしか経験できないことが多くあります。病院は新卒でないと就職することが難しい職場なので、薬学部を卒業したときが病院に入る最大のチャンスです。
病院勤務で調剤業務を身につけながらさまざまな症例に触れたあとで、自分に合った職場に転職するというのは、これも薬剤師の王道のキャリアパスとなっています。
年収アップを重視する
先ほど説明したように、薬剤師は基本的に年収の高い職業ですが、給与の上限はあまり高くありません。
年収800万円や1000万円を目指そうと思えば、戦略的に動いていく必要があります。
薬剤師で高年収を目指す際に、最初のポイントとなるのは薬学部を卒業したときです。
高年収の製薬会社で働こうと思えば、実質的に新卒時しかチャンスはありません。新卒カードは有効に使うことをおすすめします。
また、薬剤師の業界で高年収が期待できるのは、大手のドラッグストアです。
大手ドラッグストアで店長からエリアマネージャーへと昇進することで、給与アップも実現できます。
ドラッグストアで昇進するためには、調剤や接客スキルに加えて、多くのスタッフをまとめながら売上を伸ばしていくマネジメントスキルが必須となります。
ドラッグストアは転職しやすい職種なので、病院や薬局で調剤スキルを身につけてからでもチャレンジすることが十分可能です。
給与水準の高い地方で働く
薬学部のある大学は都市部にあることが多いため、薬学部の学生にはイメージしづらいかもしれませんが、薬剤師の給与は都市部よりも地方のほうが高くなっています。
これは、都市部には薬剤師の資格を持つ人がたくさんいるのに対して、地方には薬剤師が少ないことが原因です。高齢化の進むなかで、地方であっても病院や薬局は多くあり、そこには資格を持つ薬剤師が必ず勤務していなければなりません。薬剤師が少ない地方では採用が難しいので、提示する給与が高くなるのです。
僻地や離島ではその傾向が顕著で、高年収かつ住居も提供されるといった求人もあります。
住む場所にこだわりがないという場合は、基本的なスキルを身につけたあとで給与水準の高い地方で働くことも、年収アップには有効な選択肢になります。
薬剤師の年収は実は低い? そう感じる理由
薬剤師の平均年収583万円をみて、思ったより少ないと感じた方もいるのではないでしょうか。
なぜそう感じるのか、そこには薬剤師ならではの理由があります。
6年制の薬学部卒なのに医者ほど高くないから
薬剤師になるには医師と同様に6年制の大学を卒業しなければなりません。
厚生労働省の調査によると、医師の平均年収は1429万円となっています。6年間通って勉強に追われても報われる金額だといえます。
※医師の平均年収は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和4年賃金構造基本統計調査」の、「きまって支給する現金給与額」12か月分に、「年間賞与その他特別給与額」を足した金額を平均年収として算出
一方で、薬剤師として普通に働いているだけでは、なかなか年収1000万円に到達することはありません。
同じ専門の医療職である医師と比べると、薬剤師の給与は低く感じられてしまうのです。
薬学部の学費が高いから
医学部や歯学部の学費は高いことで知られていますが、薬学部の学費もそれに次いで高くなっています。また、6年間通わなければならないので、4年制の一般の大学よりも必然的に学費は高くなります。
平均年収が1000万円を越える医師ならば、高い学費を払ったかいがあったと思えますが、薬剤師の平均年収583万円は普通のサラリーマンと比べてずば抜けて高い金額とはいえません。薬学部の学費が相対的に高く感じられることもあるかもしれません。
昇給率が高くないから
薬剤師の初任給は、他の一般企業と比べて高くなっています。
しかし、その後の昇給率は決して高くありません。
その理由としては、病院や薬局の収入は診療報酬に基づいているので、一定の水準から伸びることがないことがあげられます。
また、病院や薬局は小規模なところが多く、管理職の数が少ないこともあります。管理職になれなければ管理職手当がつかないので、大きく昇給することができないのです。
進路が限られているから
薬剤師の進路は、病院、薬局、ドラッグストアにほぼ限定されます。
高年収の製薬会社は狭き門ですし、それ以外の一般企業も求人は少なく、メジャーな進路とはいえません。
薬剤師でない普通のサラリーマンならば、就職先となる企業はたくさんあり、そこから自分に合った仕事を選ぶことができます。高年収が可能となる仕事も多くあります。
それに対して薬剤師は進路が限られており、就職先が違っても基本的な調剤業務に大きな違いはありません。
年収をアップしたいと思っても、選択できる進路が限られており、年収を上げづらいと感じてしまうのです。
都市部の年収が高くないから
先ほど説明したように、薬剤師の年収は都市部よりも地方のほうが高くなっています。
地方で働いていれば、一般企業の給与が低いこともあり、薬剤師の給与は高く感じられるでしょう。
しかし、一般企業では都市部の給与が地方よりも高く、大企業をはじめとしてさまざまな仕事があります。都市部には薬剤師よりも高収入の仕事がたくさんあるのです。
そのような環境にある薬剤師は、まわりと比べて特に自分の年収が高くないように感じてしまうかもしれません。
まとめ
薬剤師は薬学部に6年間通わなければなれない国家資格を持った専門職です。
年収も基本的には高水準ですが、一方で給与が上がりにくい側面があります。
せっかく取得した国家資格を最大限に生かすためにも、薬剤師としてどういうキャリアを重ねていくかをしっかり考えるようにしましょう。
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