妊婦は服薬推奨?「炭酸リチウム」の効能とリスク
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- 妊娠中に炭酸リチウムを使用する場合は、低用量の服用が推奨される
- 胎児の絶対リスクは0.05〜0.1%程度。薬を急にやめた場合の再燃の方が深刻になる可能性もある
- 産後のリチウム再開(あるいは継続)は双極性障害の再発予防に有効
双極性障害の寛解維持に欠かせない炭酸リチウムですが、妊娠が判明すると「胎児への影響が心配」と自己中断されるケースが少なくありません。確かに心奇形、とくにエプスタイン奇形との関連は議論されていますが、絶対リスクは0.05〜0.1%程度であり、薬を急にやめた場合の再燃や自殺企図の方が深刻になることもあります。本コラムでは、妊娠中のリチウム使用に伴うリスクと管理方法、そして薬剤師が行うべき服薬指導のポイントを解説します。
「炭酸リチウム」とは?基礎知識を知ろう

「炭酸リチウム」は、双極性障害の気分安定薬として長年用いられており、細胞内シグナル伝達(イノシトール代謝やGSK-3β活性など)の調整を介して躁・うつの波を平坦化させると考えられていますが、詳細な作用機序は完全には解明されていません。治療域は0.6〜1.0 mEq/Lと狭く、中毒域との距離が近いため、定期的な血中濃度測定(TDM)が必須です。
通常は1日600〜1,200 mgを2〜3回に分けて投与し、水分摂取や塩分摂取が安定していないと濃度が揺れやすくなります。添付文書上、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とされています。
一方、「日本うつ病学会診療ガイドライン双極症2023」では、第二世代抗精神病薬など他の治療薬が有効でない場合を除き、妊娠中の使用は原則避けることを“弱く推奨”としています。
すなわち、再発予防効果を勘案し、共同意思決定(SDM)と厳密なモニタリングを行う必要がある薬剤だといえます。
妊娠中の「炭酸リチウム」を使用する際の重要なポイント

炭酸リチウムは添付文書上妊娠禁忌とされていますが、服薬中断は妊娠中・産後の再発率を大きく高めることが示されており、個別例では継続の意義も小さくありません。
胎児リスクとしては、特に妊娠初期に先天性心疾患(エプスタイン奇形など)が懸念されています。しかし、絶対リスクは0.05〜0.1%程度であり、低用量(600mg/日以下)や血中濃度0.64 mEq/L未満では先天異常リスクの上昇が示されなかったとする観察研究もあります(ただし断定はできません)。
出生後の児の認知機能に関しては、影響が乏しいとする報告が蓄積しています。