タミフルかリレンザか。妊婦のインフルエンザ治療薬の選び方と服薬指導法
- インフルエンザ罹患妊婦におけるオセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ペラミビル(ラピアクタ)の薬剤選択のポイント
- インフルエンザ治療薬を推奨する背景と利点を踏まえた妊婦への服薬指導法
妊娠中にインフルエンザが疑われたときは、迷わず早めの対処が大切です。高熱や呼吸器症状がつらいのはもちろん、放っておくと肺炎や入院のリスクが上がり、妊娠の経過にも影響する可能性があります。
妊娠していても原則は変わらず、非妊娠時と同様に早期の治療開始を目指します。なかでも 「オセルタミビル(タミフル)」は妊娠中のデータが最も多く、最初に検討しやすい選択肢です。今回のコラムでは、インフルエンザの妊婦が来局した時に現場で迷わないための考え方と伝え方を、解説します。
妊娠中のインフルエンザ治療薬は何を選ぶ?
妊娠中の治療は、「ノイラミニダーゼ阻害薬」を軸に考えます。
ノイラミニダーゼ阻害薬はウイルスのノイラミニダーゼ活性を抑え、感染細胞から新生ウイルスが遊離・拡散する過程を止める働きがあり、発熱・全身症状の期間短縮と合併症予防が期待できます。
経口の「オセルタミビル(タミフル)」はプロドラッグで、体内で活性体に変換され全身へ行きわたり、妊娠中も通常用量で5日間投与が基本です。
吸入の「ザナミビル(リレンザ)」は気道で高濃度が得られ全身移行が少ない一方、強い咳や気道過敏があると吸入が難しい場合があります。入院例や重症例では静注の「ペラミビル(ラピアクタ)」が有用で、腎機能に応じた調整を行います。
妊娠中の使用経験量と使いやすさから、第一選択はオセルタミビル(タミフル)で問題ありません。なお、「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」である「バロキサビル(ゾフルーザ)」は作用機序が異なりますが、妊娠でのエビデンスがまだ十分に集まっていないため第一選択にはせず、まずは他のノイラミニダーゼ阻害薬の使用を優先します。
妊娠中の罹患リスクとワクチン接種の重要性について
妊婦がインフルエンザウイルスに感染しても、インフルエンザウイルスは胎盤を通過しないため、ウイルスそのものが胎児に直接影響を及ぼすことはないと考えられています。
しかし、妊娠中は循環や呼吸の負担が妊娠前より大きく、インフルエンザにかかると悪化しやすい土台があります。高熱が続いたり、低酸素状態は母体にとってつらいだけでなく、妊娠の経過にもマイナスに働くことがあります。インフルエンザが重症化した妊婦のリスクとして、入院率の上昇、自然流産、早産など、胎児のリスクとして低出生体重児、胎児死亡などにつながる可能性があります。
そのため症状が生じた場合は早めに治療を始めることが母児の安心につながります。
臨床現場では「妊娠だから薬は控える」ではなく、「妊娠しているからこそ早く適切な対応をする」という伝え方を心がけます。
加えて、予防の柱として季節性インフルエンザワクチンの接種を勧めます。妊娠のどの時期でも接種でき、母体の重症化を減らすだけでなく、移行抗体により出生後しばらくのあいだ新生児の防御にもつながります。