オンライン服薬指導のメリット、デメリットは?
2020年9月1日に開始された「オンライン服薬指導」。国家戦略特区の事業として、ひと足早く遠隔服薬指導に取り組んだ「きらり薬局」の薬剤師・原敦子先生に、「オンライン服薬指導」のメリット、デメリットをうかがいました。
お話をうかがった方
原敦子さん
きらり薬局 名島店勤務(2013年9月入社)総合病院勤務時代に「緩和薬物療法認定薬剤師」の資格を取得。緩和ケアを必要とする患者に接するうちに、「在宅医療の環境を整えたい」と2013年に転職。現在は後輩の育成にも力を入れている。
原さんの在宅医療に関するインタビュー記事はこちら
遠隔服薬指導に取り組むきっかけ
「きらり薬局名島店」では、国家戦略特区法の実証実験として、2018年7月から遠隔服薬指導を始めています。取り組みのきっかけを教えてください。
原さん 「きらり薬局名島店」はもともと在宅訪問業務が95%の薬局です。患者さんは2017年末時点で270名、そのうち70名は個人宅です。これだけの患者さんを管理する薬剤師の業務の負担もかなりのものでした。そこで遠隔服薬指導の認可を考えました。
どのような患者さんに対して遠隔服薬指導を行っているのでしょうか?
原さん 80代のご夫婦2名です。お住まいの地域には医療機関がなく、2017年の時点で主治医が遠隔診療も行っており、当薬局では1年以上前から在宅訪問を行っていました。薬局からは患者さんの自宅までは、片道16.5キロ、車で40分ほどの距離。「へき地」「遠隔診療が行われている」「すでに対面での服薬指導が行われている」という国家戦略特区の条件が合致し遠隔服薬指導を実施しようという流れになりました。
※実際の患者さんのご自宅とはポイントを変えています。
資料:原さん作成
オンライン服薬指導のメリットは「時間」
オンライン服薬指導のメリットは?
原さん 薬剤師、患者さん(とその家族)の双方にとって、効率よく時間を使えるのが最大のメリットです。薬剤師の移動時間は必要なくなりますし、事前に時間を決めておけば、患者さんの生活リズムを崩さなくてすみます。薬局での対面の服薬指導では、どうしてもお待たせすることもありますが、その心配がないのはいいですね。また、在宅ではないけれど、「病院、薬局に通うのがつらい」という患者さんの需要も高まりそうです。これまでは患者さんのご家族がお薬を取りに来るケースも多かったですから。
オンラインならではの服薬指導の難しさはありましたか?
原さん いいえ、オンラインといっても、普段の服薬指導とほぼ同じです。患者さんの顔色やむくみなどの状況もテレビ電話で把握できます。テレビ電話に映り込んだ患者さん宅の様子から、生活習慣なども確認できます。生活の変化や肉体・精神状態の観察は、「テレビ電話でできるの?」と思う薬剤師も多いと思いますが、実際は問題なくできました。
オンライン服薬指導のデメリットは「機器の操作」
実際にオンラインでの服薬指導を運用してからの問題点はどんなことがありましたか?
原さん 高齢者が多い在宅患者さんが相手の場合、デバイスの扱いが悩みのタネですね。
私が受け持っている患者さんは、スマートフォンやiPadを使っていましたが、スマホで電話をとることはできるのですが、本体やアプリのアップデート作業で戸惑ってしまうことがありました。
現在、「きらり薬局」では、インテグリティ・ヘルスケアの管理アプリ『YaDoc(ヤードック)』を使っていますが、定期アップデートのたびにログイン作業などをするのが高齢者の患者さんには負担だったようで。『オンラインでの服薬指導自体をやめたい』と告げられたため、機能改善をお願いし対応していただきました。対面訪問の際に、薬剤師がデバイスの状況確認作業は必要かもしれません。
先ほど、患者さんはスマホやiPadを使用しているというお話でしたが、デバイスの費用負担などについて教えてください。
原さん 実証実験だったため、システム会社よりデバイスを患者さんへ貸与して頂き、システム使用料も無償提供していただいています。今後は、デバイス費用やシステム料も患者さんに負担していていただくようになるのではないでしょうか。薬局側の利益も考えなければいけません。現在は外来でも、オンライン服薬指導でも調剤報酬の点数は同じです。これも調剤報酬の改定があるかもしれません。
オンライン服薬指導のシステムを導入するなら、患者さん一人あたり、月額1000円~5000円の費用がかかります。このシステム料の負担というのが、オンライン服薬指導の普及を妨げる要因になりえます。
たとえば、オンライン服薬指導用に新規システムを導入するのではなく、既存のWebミーティングシステムやSNSのネットワークを活用すれば、薬局にも患者にも負担が軽く、普及が進むかもしれません。
当然、オンライン診療・服薬指導専門のシステムのほうが、個人情報保護観点や、医療従事者側の使いやすさといった利点は多いです。例えば、ニプロの『ハートライン』では体温、血圧、脈拍なども管理できます。患者さんのバイタルがリアルタイムでわかるのは、従来の服薬指導を超えた利点ですよね。
配送料は薬局、患者、どちらが負担すべきか?
医薬品の配達はどのようにしているのですか?
原さん 「きらり薬局」では、最初は医療事務などの非薬剤師スタッフが各家庭に訪問し、薬を届けていました。その後、薬品卸業者への委託も開始しました。現在もこの2つの方法を使い分けてご家庭に直接とどけています。配達費用として一定金額を患者さんに負担していただいていますが、民間の運送業者などに委託すると費用が倍近くになってしまうため、導入を見送り、現在のかたちになりました。
患者さんのなかには薬代より配送料の方が高くなってしまうケースもあり、困惑して相談されるケースもあります。
オンライン服薬指導は、費用やツールなどこれからどんどん整備されていくと思います。環境整備は進んでいるのに、対応できる薬局、薬剤師が追い付かない、という事態にならないように、地域やコミュニティで情報交換をしながら、知見を深めていきたいですね。
資料:原さん作成