「オピオイド」の副作用:悪心・嘔吐に制吐剤を併用していいの?
オピオイドの副作用として、悪心・嘔吐を最初に思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。悪心・嘔吐は、患者にとって非常に不快な症状であり、十分にコントロールできないとオピオイドの拒薬につながる場合もあります。オピオイドを使用する際は、悪心・嘔吐への対策を知っておくことが必須といえるでしょう。
そこで今回は、オピオイドによる悪心・嘔吐の発生機序や対策について、ポイントをわかりやすく解説します。
オピオイドによる悪心・嘔吐の特徴とは?
オピオイドの副作用としてよく知られている悪心・嘔吐について、まずは基本的な特徴を解説します。オピオイド服用患者の約40%に悪心、嘔吐は約15~25%にみられるとされています1)。
モルヒネによる悪心・嘔吐は、鎮痛に必要な用量の約1/10の低用量から起こると報告されており2)、オピオイドの血中濃度が鎮痛用量に達していない段階でも起こりうる副作用です。
オピオイドの投与初期や増量時には特に発生しやすいとされています3)。悪心・嘔吐が出現すると、オピオイドを継続することが困難となる場合もあるため、早めの対策が重要です。
一方で、数日から1週間で耐性が生じ、悪心・嘔吐の症状が改善されることが多いとされています3)。
悪心・嘔吐予防を目的とした制吐剤の併用について
悪心・嘔吐は、早期からの対策が重要であることをお伝えしました。では、オピオイド開始時に予防的に制吐剤を併用することは推奨されるのでしょうか。
日本緩和医療学会のガイドラインでは、悪心が生じやすい患者を除き、制吐剤の予防投与は行わないことが原則とされています3)。
制吐剤の予防投与が推奨されない理由として、悪心・嘔吐は便秘に比べると発現頻度が低いこと、制吐剤の副作用がかえってQOLを低下させる場合があることなどが挙げられます。
オピオイド導入時に、プロクロルペラジンを予防的に投与した結果、悪心・嘔吐の発現頻度にプラセボ群と有意差はなく、プロクロルペラジン群では重度の眠気の発現が多くみられたという報告もあります4)。
以上より、制吐剤を一律に予防投与することは避け、悪心・嘔吐のリスクが高いと判断される患者にのみ予防投与を行うことが推奨されます。
ただし、悪心・嘔吐が発現した場合には速やかに対応できる体制を整える必要があります3)。嘔気時頓用として制吐剤をいつでも使用できる状況にしておくとよいでしょう。なお、悪心・嘔吐のリスクが高いと判断される患者の例として、以下が挙げられます。
- オピオイド開始前からすでに悪心・嘔吐がある(上部消化器がんなど)
- 乗り物酔いしやすい体質
- 化学療法などで過去に強い悪心・嘔吐を経験している
- 不安が強い
また、制吐剤を予防投与する際は、悪心・嘔吐に対する耐性が生じることを考慮し、投与後1~2週間で減量もしくは中止を検討することも大切です。
悪心・嘔吐の発現機序と使用される薬剤
オピオイドによる悪心・嘔吐の発現機序として以下が挙げられます3)5)6)。
① CTZ(化学受容器引き金帯)への直接刺激
CTZ(化学受容器引き金帯)に発現しているμオピオイド受容体の刺激を介して、VC(嘔吐中枢)が刺激される。
② 前庭器を介したCTZ(化学受容器引き金帯)への間接的刺激
前庭器に発現しているμ受容体の刺激を介して、CTZ(化学受容器引き金帯)やVC(嘔吐中枢)が刺激される。
③ 消化管蠕動運動の抑制
消化管蠕動運動の抑制により胃内容物が停滞することで、求心性にシグナルが伝わりCTZ(化学受容器引き金帯)やVC(嘔吐中枢)が刺激される。
④ 予期悪心
悪心・嘔吐への不安により、大脳皮質からシグナルが伝達されVC(嘔吐中枢)が刺激される(過去に化学療法などで強い悪心・嘔吐を経験した患者などにみられやすい)。
オピオイドによる悪心・嘔吐の治療では、症状の特徴から悪心・嘔吐の発現機序を推測し、最も有効と考えられる制吐剤を選択する方法が一般的です。