「トラネキサム酸」が、なぜ“喉の痛み”に効く?~メカニズムと実際の有効性
「トラネキサム酸」は、主に線溶系に作用することから“止血薬”としてよく用いられている薬です。しかし、そんな「トラネキサム酸」が、OTC医薬品では風邪薬(総合感冒薬)や口内炎の薬によく配合されているのは何故でしょうか。
確かに、医療用の「トラネキサム酸」製剤である『トランサミン』の適応症にも扁桃炎や咽喉頭炎による“咽頭痛”や“口内炎”が含まれており、医療現場でもこれらの症状に処方されることがあります。その効果はどういうメカニズムで期待できるのか、そして実際のところどのくらいの効果を期待できるのか。セルフメディケーションで「トラネキサム酸」を上手に扱うためのポイントを解説します。
- 「トラネキサム酸」が“喉の痛み”に対して効果を発揮するメカニズム
- 「トラネキサム酸」の実際の有効性は、どのくらいのものとして報告されているか
- 1969年の古い報告と、2026年の新しい報告の“異なる結果”は、どう解釈するのが良いか
止血薬の「トラネキサム酸」なぜ“喉の痛み”に効く?~トラネキサム酸が効果を発揮するメカニズム
「トラネキサム酸」は、風邪薬や口内炎の薬に多く配合されています。本来は出血を抑える“止血薬”として使われるのが主ですが、「トラネキサム酸」には抗アレルギー作用や抗炎症作用も期待できるからです。
「トラネキサム酸」が配合されているOTC医薬品の例
| 総合感冒薬/解熱鎮痛薬/鎮咳薬/鼻炎薬 | クールワンせき止めGXプラス、コルゲンコーワIB錠TXα、コルゲンコーワかぜ総合、コルゲンコーワ解熱鎮痛LXα、新ルルAゴールドDXα、ジキニンファーストネオ顆粒/錠、ストナアイビージェルEX、鎮痛カプセルa、ノスポール咳止め液Z、ハリーエースプレミアムα/NX、ハレナース、パブロンせき止めトリプル錠、パブロンのど錠、パルウィンTX錠、ファイティーEX総合かぜ薬、ベンザエースAゴールドW錠、ベンザエースA錠、ベンザ鼻炎薬α、ベンザプロックLプレミアム、ベンザプロックSプレミアム、ベンザプロックYASUMO、ベンザプロックせき止め液、ペラックTa、ペラックコールドTD錠、ルルアタックEX、ルルアタックIBエース、ルルアタックNXプレミアム |
| 口内炎用薬 | アスゲンT錠、オロファニックTX錠、大正口内炎チュアブル錠、トラフルA |
日本OTC医薬品協会のデータベースに掲載されているもののみ掲載
https://www.jsmi.jp/
「トラネキサム酸」は、「プラスミン」の働きを阻止する作用をもつ薬です。
「プラスミン」は血液を固めるフィブリンを溶かす作用を持つ、線溶系の重要な物質です。
そのため、「トラネキサム酸」を使うことで「プラスミン」の作用が弱まると、線溶系が抑えられて血液が固まりやすくなる…つまり“止血効果”が発揮されることになります。
トラネキサム酸による止血効果のメカニズム解説図/筆者作成
このことから、「トラネキサム酸」は全身や局所の線溶系が亢進していることで起こる出血性疾患の治療に用いられます1)。
また、この「プラスミン」は線溶系だけでなく、ヒスタミン・ブラジキニン・カラゲニンといった炎症物質の産生にも関わっているため、「トラネキサム酸」で「プラスミン」の作用を阻害すると、アレルギーや炎症反応も軽減されることになります1)。
この抗アレルギー・抗炎症作用を活用したのが、風邪による喉の痛みや口内炎の症状に対する使い方です。
「トラネキサム酸」は、実際どのくらい“喉の痛み”を軽減してくれるのか~相反する結果を示す古い報告と新しい報告の解釈
「トラネキサム酸」が“喉の痛み”や“口内炎”に対して有効、とする代表的な根拠としては、インタビューフォームにも掲載されている研究が挙げられます。
その研究では、急性咽頭炎・扁桃炎、口内炎などによる粘膜の痛み・腫れ・発赤に対して、プラセボよりも優れる効果(※有効判定:26.2% vs 52.4%)が報告されています1)。
しかし、この研究は発表されたのが1969年と非常に古く、対象患者が咽頭炎・扁桃炎・口内炎などと非常に雑多であること、またその有効判定が“医師の主観”による4段階(著効・効果・不変・悪化)のみで行われているなど、しっかりした根拠になるとは言い難いところがあります。
そこで近年、この「トラネキサム酸」が“風邪”による喉の痛みにどれくらい有効か、改めてより精密に検証するための研究が行われています。
その新しい研究は、対象を“風邪”の患者だけに限定し、また咽頭痛の強さも患者自身がVAS(ビジュアルアナログスケール)の100段階で評価するなど、よりバイアスがかかりにくいデザインで行われたRCTです。
この新しい研究では、投与から2時間以内の咽頭痛の軽減効果は「トラネキサム酸」と「プラセボ」で変わらなかった2)という結果が得られています。
つまり、現代医学の評価基準においては、少なくとも服用してすぐに喉の痛みが軽減する、といったような劇的な効果は期待できそうにない、ということになります。