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更新日: 2014年9月11日

調剤過誤発生!責任はどうなる?

“調剤過誤発生!責任はどうなる?の画像1

薬剤師向けの講演内容として最も依頼が多いのは、やはり調剤過誤に関するものです。薬剤師であれば、調剤過誤は誰にでも起こり得るものとして関心が高いでしょう。そこで今回は、調剤過誤を起こしてしまった場合の薬剤師の責任について解説します。

赤羽根 秀宜氏の画像

赤羽根 秀宜
あかばね ひでのり

薬剤師として調剤薬局に10年勤務する傍ら、司法試験に合格。弁護士として、中外合同事務所に勤務。 医療分野以外にも企業法務や一般民事も多く取り扱っている。

社会的責任と法的責任

調剤過誤とは一般的に、薬の取り違えなどのミスにより、患者に健康被害が起こってしまった調剤事故のことを指します。この場合の責任は、社会的責任と法的責任の2つに分けられます。
社会的責任は法的強制力はなく、信用の失墜、社会的な非難、患者の減少などが挙げられます。これに対して、法的責任とは、強制的に責任を問われることになります。

法的責任には「刑事責任」「行政責任」「民事責任」の3つがある

責任についての理解が不十分なために漠然とした不安を抱き、適切な対応がとれなかったというケースをよく聞きます。しかし、責任の内容をきちんと理解しておけば、問題をうまく解決できることが多くみられます。この機会にぜひ皆さんも覚えておいてください。

① 刑事責任

まず、刑事責任ですが、この責任は犯罪を犯した者が懲役刑や罰金刑などの刑罰に処せられる責任です。患者さんが、被害届の提出や告訴などで関わるとはいえ、刑事責任はあくまで国に対する責任といってよいでしょう。
薬剤師が調剤過誤を起こした場合、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われることになりますが、すべての場合において、この罪に問われるわけではありません。一般的には、被害が重大であり、過失の態様が悪質であれば刑事事件になる可能性が高くなります。したがって、健康被害が軽微な場合などは刑事責任を問われる可能性は低く、また健康被害がない場合には、そもそも罪は成立しないことになりますので、過度に心配することは適切ではないでしょう。近年では、ウブレチド事件*において薬剤師が禁錮1年執行猶予3年の刑を受けたほか、ワーファリンの過量投与で罰金50万円に処されたものがありますが、いずれも患者さんが死亡してしまった事件です。

② 行政責任

行政責任は、薬剤師が厚生労働大臣から薬剤師としての業務停止や免許取消などの処分を受ける責任です。これも患者さんではなく、厚生労働省という監督官庁に対する責任といえます。罰金刑以上の刑に処された場合や薬剤師としての品位を損するような行為があったときなどは薬剤師法8条、5条により処分される可能性がありますが、罰金以上の刑に処された場合などでも、すべてが処分の対象になるわけではありません。厚生労働省が事件として把握したものを医道審議会にかけ、そこで処分が必要と判断された場合にのみ処分されることになります。したがって、調剤ミスが起こったすべての場合において、直ちに業務停止などを心配することは適切ではありません。ちなみに、上記のウブレチド事件*では業務停止1年の処分が科されています。

③ 民事責任

民事責任は、被害者である患者さんに対し、損害の填補のために金銭を支払わなければならない責任(損害賠償責任)です。近年では、病院薬剤師が5倍量の医薬品が処方されていたにもかかわらず疑義照会を怠たり、そのまま薬剤が投与され患者が死亡してしまった事件で、処方医や病院開設者だけではなく、調剤および監査した薬剤師に対しても損害賠償責任を認めた判決があります(東京地判2011年2月10日 判例タイムズ1344号90頁)
民事責任は裁判になるかは別として、過失により患者に損害を与えた場合に発生します。ただし、調剤ミスがあればすべて損害賠償責任が発生するというわけではなく、あくまで損害や因果関係が必要だということに注意が必要です。例えば、薬剤の取り違えをしてしまったが、患者さん自らが気づいてくれてすぐに交換したような場合には患者さんの損害はないため、原則損害賠償責任は発生しないことになります。もちろん、このような場合でも、道義的な責任はありますから、適切な対応が必要になります。

*ウブレチド事件・・・2011年3月25日、埼玉県越谷市で自動錠剤分包機の設定を誤り、胃酸中和剤ではなく、毒薬のウブレチドを調剤。後日、管理薬剤師は調剤ミスに気づいたが、責任追及を恐れて患者に対し服用中止の指示や医師への情報提供などをせず、患者を中毒死させた。

まとめ

以上、調剤過誤における薬剤師の法的責任を簡単に説明しました。もちろんミスを起こさないことが最も重要なのは言うまでもありませんが、万が一、ミスがあった場合には過度に不安になるのではなく、責任の有無および程度を理解したうえで対応していくことが適切です。
また今回は、ミスをした薬剤師の責任について説明しましたが、このような責任は開設者や管理者にもおよぶ可能性もあります。ミスが起こった場合には上司などに速やかに報告し、会社組織として対応するという意識が重要でしょう。

掲載内容は、記事公開時のものであり、現時点における最新情報ではない可能性があります。

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