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更新日: 2014年12月9日

医師から見た信頼できる薬剤師像とは

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太田秀樹先生
医療法人アスムス理事長 (医師・介護支援専門員)。自治医科大学大学院修了後、自治医科大学専任講師、整形外科医局長を経ておやま城北クリニックを開業し在宅医療に取り組む。(社団)全国在宅療養支援診療所連絡会事務局長、日本在宅医学会理事、全国知事会先進政策頭脳センター委員、日本医師会在宅医療連絡協議会委員など。

患者に信頼される医療人をめざして

介護保険制度設立前の1992年、栃木県小山市でいち早く在宅医療を始めた医師の太田秀樹氏。太田氏は23年もの間、地域住民の健康を見守り、その命と向き合ってきました。他職種との関わりが多い在宅医療を通して見えてきた「信頼できる薬剤師像」とは何か。在宅医療において求められている薬剤師の姿についてうかがいました。

太田医師が在宅医療に携わるまで

「医師は自分にとって都合のいい患者の、都合のいい病気しか診ない」。これは、大学病院勤務中の太田秀樹氏が在宅医療に携わるきっかけとなった患者からのひと言だ。彼らはそれぞれ身体に障害があるのだが、診療所に行った際に「混雑している待合室に車イスは遠慮してほしい」、構音障害で会話が聞き取りにくいと「何を言いたいかわからないから診療できない」などと言われたという。「この事実に衝撃を受け、『医師はもっと信頼される存在であるべき』と思いました」(太田氏)。大学病院は最先端の医療を提供できるが、患者と医師との関係性が一時的。自分が信じる医療を提供して一人の患者の人生と向きには大学病院を辞める必要があった。
そして、デンマークで彼の決心は固まる。デンマークには日本のような「寝たきり老人」はおらず、健康寿命と平均寿命の差を縮めて、健康的で自分らしい人生を送ることを重視した医療が施されている。一方、日本は健康寿命よりも平均寿命ばかりを延ばそうと必死だった。在宅医療の充実は、年々膨れ上がる医療費の削減になるだけでなく、虚弱な高齢者が少しでも安らかに過ごす手助けになるのではないか。自分の家で最期を迎えたいという高齢者は多くいるのだ。そうして1992年に大学病院を辞め、おやま城北クリニックを開業し、在宅の取り組みをスタートした。

J-HOPメンバーとの出会いが教えてくれたもの

これまで20年以上にわたって在宅医療に関わっていらっしゃいますが、チーム医療の一員として薬剤師の役割は大きいと思います。これまでの経験の中で感じる“信頼できる薬剤師像”について教えてください。

何もないところに道を作っていくバイタリティがある人、そして誰にでも親切な人ですね。身近な人物だと、J-HOP(全国薬剤師・在宅医療支援連絡会)の会長であり(株)メディカルグリーンの大澤光司氏です。私と大澤氏は、介護保険がスタートした2000年4月から栃木市の福祉の力を高めようと、「こみけん(蔵の街コミュニティケア研究会)」という市民団体を立ち上げました。医師、薬剤師、在宅介護相談員、保健師、介護福祉関連専門学校講師などの多職種と連携した活動でした。発足時は40人程度の会員でしたが、今は300人を超す規模となり、隔月でさまざまなテーマの課題を取り上げて学びの場としています。また、この場で感じ取ったことが「在宅医療推進地域診断ツール*」を開発するうえでのヒントにもなっています。

*在宅医療推進地域診断ツール その町に合った地域包括ケアシステムを構築するためのツール。「在宅医療」「入院医療」「在宅介護」「市区町村行政」「地域連携」「コミュニティ」「利用者意識」の7つの視点から地域ケア力を数値化し、対応方針を考えることができる。

具体的にどのような点で信頼できると感じたのでしょうか。

「こみけん」の立ち上げ当時、大澤氏は在宅医療の経験がないため、事情にも詳しくなかったのですが「できない」という言葉は決して口にしませんでした。そして当時から現在まで一貫しているのが、困っている人がいたら必ずソリューションを提示するという信念や、薬のことならなんでも任せてくれという姿勢です。たとえば、サプリメントについて患者さまから聞かれたとしても「サプリメントは薬ではないので・・・」と面倒がるのではなく、すぐに調べて対応します。また、たとえ夜中でも会議中でも、嫌な顔一つせずにていねいに話を聞いてくれます。薬剤師の中には、医師の御用聞きのように仕事をする人がいますが、彼の場合はすべての立場の人に対してホスピタリティがあります。

「街の科学者」と呼ばれていた昔の薬剤師のようですね。

その通りです。彼の姿はいわば、かつての薬剤師そのものだと言っても過言ではありません。それから、副会長に就いた薬局つばめファーマシー代表取締役の萩田均司氏も敬愛し、信頼する薬剤師の一人です。彼は主に、地域に在宅医療を普及させるため医師を巻き込む仕組みづくりを提案し、町づくりに取り組んだ薬剤師と言えるでしょう。二人とも、ゼロから現在の環境を作り上げた人物。試行錯誤しながら歩んできた20数年間を振り返ると、薬剤師たちの協力なしには地域ケアシステムは構築できなかったと思います。

患者の変化に気づけるか、柔軟に考えられるか

信頼される薬剤師には何が必要でしょうか。

第一に医療人としての心構えですね。制度があるから在宅医療を行うのではなく、医療人として患者さまの役に立つことをする矜持(きょうじ)が必要です。たとえば患者さまが急に来局しなくなり、代わりにご家族が薬を受け取りにくるようになった時、「ご自宅まで薬を届けますよ」と声かけができるか、実際の服薬状況を確認できるか。仕事を選択するうえで重視する点は、やりがい、収入、職場の雰囲気など人それぞれあると思います。しかし、調剤報酬において在宅の点数が高いからという理由では、在宅医療における本当の喜びや感動を味わえないのではないでしょう。
次に、患者さまとの関わりを密に取り、医師には相談しにくいことも薬剤師ならば言える、といった患者さまとの信頼関係を築くことが大切です。同時に訪問看護師からの信頼を得ることも重要。在宅医療の現場では、医師の代わりに訪問看護師が患者さまやご家族に病状の説明をしたり、思いを聞いたりしてケアチームに伝える役目を担うことが一般的で、訪問看護師は患者さまやご家族にとって身近で頼れる存在である場合が多くあります。ですから、看護師から信頼される薬剤師は、患者さまやそのご家族にとっても信頼できる薬剤師なのです。

最後に薬剤師へアドバイスをお願いします。

日本は今、超高齢社会に起因するさまざまな問題を抱えており、社会構造自体の変革が迫られています。経営の足を引っぱるから在宅医療に参入しないのではなく、どうすれば参入できるかと思考プロセス自体を考えないと、10年、20年後の日本の医療システムは革命的に変わってしまうでしょう。在宅医療において、薬剤師の職能は自身が思っている以上に主体性を発揮できる仕事です。この考え方を忘れずに、日々患者さまと向き合ってほしいと願っています。

掲載内容は、記事公開時のものであり、現時点における最新情報ではない可能性があります。

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