重篤な副作用、どこまで伝える必要がある?
医薬品には必ず副作用があります。重篤な副作用の多くはまれにしか起こりませんが、その可能性を患者に伝えると、副作用を怖がって服用を止めてしまうことも多いようです。ゆえに、医師や薬剤師は患者に説明するか判断を迷うのではないでしょうか。今回は重篤な副作用に対する、薬剤師の情報提供と指導の義務について解説します。
医師の裁判例では留意点を指導すべきと判断
実は重篤な副作用に関する裁判例が存在します。
(高松高判平成8年2月27日 判例タイムズ908号232頁)
医師が患者にアレビアチンとフェノバールを併用投与したところ、退院後に300万人に1人しか起こらないといわれる副作用の中毒性表皮融解壊死症(TEN)を発症して死亡。患者の遺族が医師に対して、投薬に際し注意義務違反があったとして損害賠償請求を行いました。
この裁判では「副作用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて少ない場合であっても、患者に対して服用上の留意点を注意する義務があるか」という点が問題になりました。裁判所は「その副作用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて低い場合であっても、副作用が生じた時には早期に治療することによって、重大な結果を未然に防ぐことができるように、服薬上の留意点を具体的に指導すべきである」と判断しました。
薬剤師は医師と同様の義務を求められている
それでは薬剤師の場合はどうでしょうか。皆さんご存じのとおり、薬剤師には情報提供および指導の義務があります。
薬剤師法(情報の提供及び指導)
第25条の2 薬剤師は調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
この条文は改正がされ、情報提供義務に「必要な薬学的知見に基づく指導」義務が加わったうえで、2014年6月に施行されています。詳細な説明は割愛しますが、患者に対し、個別具体的な指導が法的に求められます。薬剤師は薬の専門家であるため、薬に関する指導義務は少なくとも医師と同等と考えられます。したがって、重篤な副作用についても医師と同様に説明義務があるといえるのです。
薬剤師は患者自身が行動できるように指導を行う
では、薬剤師は重篤な副作用についてどのように指導すればよいのでしょうか。
たとえば、副作用の留意点といって、SJS症候群のことを事細かに話せば、患者は怖くなってしまい服用を中止してしまう可能性があるでしょう。これでは薬剤が適正に使用されず、適切な指導とはいえません。
裁判所も重篤な副作用を詳細に説明することは求めていません。薬剤師の役割としては、重篤な副作用を詳細に伝えるのではなく、あくまで初期症状を患者に伝えておくことが重要なのです。単に「何かあればいらっしゃい」という一般的な注意だけでは不十分だが、「痙攣発作を抑える薬を出しているが、ごくまれには副作用による皮膚の病気が起こることもあるので、かゆみや発疹があったときにはすぐに連絡するように」といった程度の説明が必要だと言っているのです。副作用の初期症状にはさまざまあり、医療の知識のない患者は異変を感じてもそれがすぐに薬のせいだという判断ができない場合があります。もちろん、すべての初期症状を説明することは困難でしょうが、特異的な初期症状などを例示して説明することによって、症状が出た場合、患者が自分で副作用の可能性を疑い、薬剤情報提供書を確認し、医師や薬剤師に相談するなどの対応が可能になります。薬剤師には過度に不安を与えることなく、万一副作用が発生した場合に、患者が自身で対処できるような指導が求められているのです。この指導の内容と程度は薬の種類、患者の属性などによって変わります。まさに薬剤師の専門性が求められる部分でしょう。
裁判所も「投薬による副作用の重大な結果を回避するために、服薬中どのような場合に医師の診察を受けるべきか患者自身で判断できるように、具体的に情報を提供し、説明指導すべきである」と患者が実際に行動できるような指導が必要なことを明らかにしています。薬剤師は副作用に関する情報提供および指導において、上記のことを意識しながら行い、患者の安全を守る必要があるのです。
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