医薬品違法サイトが横行。薬剤師にできることは?
2014年6月12日、改正薬事法により医薬品のインターネット販売(以下ネット販売)が解禁されたことは、読者の記憶にも新しいでしょう。昨年末の時点で、各自治体から厚生労働省に報告された販売ルールに適合した医薬品販売サイト数は1522。医薬品ネット販売が解禁された当時の約1.5倍の数でした。そして同時に、危険ドラッグをはじめとする医薬品の違法サイトも、ますます増えていくことが予想されます。今回は医薬品ネット販売解禁までの経緯を振り返るとともに、人々がネット販売で被害に合わないために薬剤師ができることについて考えていきます。
医薬品ネット販売解禁までの経緯
- そもそも法律では医薬品のネット販売について法規制はなかったが、厚生労働省は「対面販売が原則」という立場をとってきた。
- 06年「薬事法の一部を改正する法律」(以下「改正薬事法」)が成立し、09年6月1日に施行。これに伴い、「薬事法施行規定等の一部を改正する省令」(以下「改正省令」)が制定され、「薬事法施行規則」において医薬品のネット販売に関する規制が設けられた。一般用医薬品のインターネットを含む郵便等販売は、第3類医薬品を除き、原則禁止された。
- 09年5月この改正省令を不服とし、健康食品・医薬品の通信販売サイト「ケンコーコム」、「ウェルネット」が改正省令の取り消しを求める行政訴訟を起こす。
- 13年1月「ケンコーコム」、「ウェルネット」は勝訴し、この判例で実質的に同省令の効力はなくなった。
- 14年6月「改正薬事法」において、医薬品のインターネット販売におけるルールが設けられた。
解禁後の新ルールについて
厚生労働省より資料を引用
■一般用医薬品(第1類、第2類、第3類)はネット販売可能にこれまで原則、対面販売だった第1類、第2類、第3類医薬品がネット販売可能になった。
■要指導医薬品の新設これまで第1類に分類していた医薬品の中でも「スイッチ直後品目」と「劇薬」を「要指導医薬品」と定め、薬剤師による対面販売を義務付けた。なお、スイッチ直後品目は原則3年で一般用医薬品へ移行し、ネット販売が可能になる。
■第1類医薬品をネット販売する場合は薬剤師が販売し、以下の手続きが必要に1. 年齢、他の医薬品の使用状況などについて薬剤師が確認
※メールで購入者の性別や持病の有無などを確認。用法・用量、服薬上の留意点なども提供したうえで商品を発送する。
2. 説明がなくても適正に使用されると認められる場合を除き、薬剤師が医薬品に関する情報を提供
- 薬局または店舗販売行の許可を受けている実店舗を持つ薬局・薬店であること
- 実店舗は週30時間以上開店していること
- 実店舗は薬事法の基準を満たした構造をしていること
- 薬剤師または登録販売者が常時配置されていること
- ネット販売する医薬品は実店舗に貯蔵・陳列している商品であること
- インターネットのほかに対面や電話での相談体制を整備していること
など
違法サイト横行の実態
14年9月末までに閉鎖された違法サイトは78あった。違法サイトとは、表示成分が入っていない、もしくは表示にない成分が入っているなどの偽造薬や不良品、未承認薬などを販売しているサイト、ネット販売のルールを無視したサイトだ。特に勃起不全治療薬においては偽造品が多くあり、購入時は注意が必要である。
また、14年6月の厚生労働省の発表によると、インターネット上の個人輸入サイトでサプリメント(健康食品)を購入し、国立医薬品食品衛生研究所で分析した結果、109 製品中56 製品から医薬品成分が検出された。これらの健康食品は強壮、痩身、健康増進、美容を目的としたもので、服用すると頭痛、動機、胸痛、ほてりなどの症状が現れる。
加えて、15年1月末時点では一般用医薬品をインターネットで販売する薬局・薬店のうち、掲載すべき内容を表示していないといったルール違反サイトが12あった。企業にはネット販売のルールを徹底させることも必要だ。
医薬品の違法サイトで被害にあわないために薬剤師がやるべきこと
なぜ人々はインターネットで医薬品を購入するのか。「医師の診察を受けたくない」「離島や僻地に居住しているので医療機関にかかりにくい」「他人には知られたくない病気があり、インターネットで薬を購入したい」「常備薬を安く購入したい」など、その理由は多岐にわたる。何時でも何処でも必要な商品を注文することができ、自宅に届くネット通販を利用するメリットは大きいが、一方で、悪質な違法サイトが多いことも事実だ。違法サイトを運営する者の多くは個人による海外輸入代行業者であり、そうしたサイトで販売する医薬品には未承認薬、偽造薬が多いことから、購入者が健康被害にあうケースが増えている。
では、人々が違法サイトの被害に合わないために薬剤師ができることは何だろうか。
まず、特に健康被害が多いと言われている個人輸入のサイトで医薬品を買うことのリスクを人々に伝えることが必要だ。薬の個人輸入には「薬監証明」が必要で、11年の発給件数は1328件、12年は1554件、13年は1826件と年々増加しており、今後さらに増えると予想される。被害者を出さないためには、薬局窓口や服薬指導で個人輸入サイトでの医薬品購入のリスクを伝えることが望ましい。同時に、違法サイトとルールを遵守したサイトの見分け方を伝えることも重要だ。特に、学生に対してはくすり教育の一環として学校薬剤師による講義を行うのも一つの案だろう。
厚生労働省のウェブサイトでは「一般用医薬品販売サイト」や「販売ルール不遵守サイト」の他、違法サイトを報告・相談できる「あやしいヤクブツ連絡ネット」も用意されている。薬剤師はこれらの存在を人々に伝えるとともに、自身も常に状況を把握しておく必要がある。
セルフメディケーションの推進や、インターネットの普及、高齢化による買い物弱者の増加といった状況を鑑みれば、医薬品のネット販売解禁は遅かれ早かれ実施されたことだ。そして、薬剤師が活躍するフィールドが時代とともに変化していくのは当然のことだろう。悪質なネット販売業者から人々を守るのもまた、薬剤師の役割の一つなのだ。これからは薬の専門家である薬剤師がネット販売のメリット、デメリットを説明できる知識を備え、人々に情報提供することで健康被害を防ぐことが重要となるだろう。
掲載内容は、記事公開時のものであり、現時点における最新情報ではない可能性があります。