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更新日: 2015年7月28日

薬剤師国家試験はなぜ「難化した」と言われるのか

薬剤師国家試験はなぜ「難化した」と言われるのかの画像1

地域包括ケアシステムやかかりつけ薬局の推進によって、薬剤師に求められる役割は着実に増えています。このような状況を受けて、薬学教育はどのように変化しているのでしょうか。それは「薬剤師に必要な資質」を反映している薬剤師国家試験に如実に表れていました。
薬剤師国家試験予備校ファーマプロダクト東京校の和田功副社長に話をうかがいます。

合格率低下の要因は、学生か大学か

薬学教育に関する最近の話題といえば、国家試験の合格率低下だろう。第100回薬剤師国家試験の合格率は63.17%。6年制教育になってから初の卒業者が受験した第97回が合格率88.31%を叩き出して以来、第98回は79.10%、第99回は60.84 %と、年々下降し続ける合格率が問題とされていた。

しかし、株式会社ファーマプロダクト副校長の和田功氏は、これについて「幅広い知識が要求される6年制での国家試験ということを考えると、妥当な合格率ではないかと思います。合格率が下がっているのは事実ですが、過去に遡ると合格率は75%前後で推移しています。むしろ97~98回が高すぎたのではと見ています」と話す。

和田 功氏の画像 株式会社ファーマプロダクト
代表取締役 副社長
和田 功氏

とはいえ、合格率が下がっているのはまぎれもない事実。その原因として挙げられるのが「薬学生の学力低下」と「国家試験問題の難化」だ。

まず「薬学生の学力低下」は、規制緩和による薬学部の増設が背景にある。
「薬学生の学力低下は、予備校講師として教壇に立ちながら実際に感じます。薬学部新設により薬学全体の定員が増加したため、結果的に、薬学部の学力水準を大きく下回るレベルの学生でも薬学部に入学できてしまっているのが現状。一部の大学では、高校レベルの学習内容を授業に盛り込むケースもあると聞いています。ですから、トップとボトムの生徒で学力の差がかなり開いているのです」(和田氏)

6年制教育となり、学習範囲の拡大、実務実習が増大するなかで、もともと学力が基準レベルに達していない学生にとっては、かなり荷が重いだろう。学生の学力低下と聞くと、学生側に責任があると捉えがちだが、大学側の責任も見過ごせない。

試験は難化したのではない!?

もう一つの原因「国家試験の難化」は、「問題様式の変化」と言い換えることができるだろう。
「全体的に見ると、難易度が高くなっているとは思いません。ただ言えるのは、昔の国家試験は、正解が分からなくても選択肢の消去法で解を導きだすことができたのですが、近年はいわゆる『思考型』の問題が増え、『どのように考えるか』というプロセスが問われるため、消去法では答えられない。ですから、単に『キーワードを覚えればよい』問題と比べれば難化と言えるでしょう」(和田氏)
しかし、ここで目を向けるべきは「問題の難化」ではない。「なぜ思考型の問題が増えているか」という点である。

言うまでもないが、薬剤師国家試験は、薬学教育と同じく「薬剤師に必要な資質」を示している。つまり、これからの薬剤師には「考える能力」が求められているのだ。
これまで数十年間、薬剤師国家試験予備校の講師を務め、その出題内容と業界動向を見てきた和田氏は、これからの薬剤師に求められる資質を「医療人としての自立」だと言う。

薬剤師は薬学的見地に基づいた意見を多職種に提示できるか

「従来は、『処方箋に書かれている通り、間違いなく調剤する』ことが薬剤師に求められていました。
しかし、病棟業務や在宅医療において多職種連携が必要となっている今、薬剤師に必要とされるのは単なる薬剤の知識ではなく、薬剤のプロとして『患者の病状を見て薬学的観点から意見を述べられるスキル』です。国家試験が提示する『思考力』はそのための素地をチェックしていると言えるのではないでしょうか」(和田氏)

また、和田氏は次のようにも述べる。
「新卒薬学生の就職先といえば、病院が一番人気で、次に調剤薬局。対してドラッグストアを希望する学生は多くありません。しかし私は、年齢も病状も多様な患者さまが訪れるドラッグストアこそ、これから薬剤師が活躍するフィールドだと考えています。フィジカルアセスメントや血液検査など薬剤師ができることはたくさんある。現在の薬剤師が、このような業務を行なえないことは承知していますが、自分たちが活躍する場を自分たちで創出する、その主体性こそ、これからの薬剤師が身につけるべき要素。そうして、薬剤師の職域をどんどん拡大していってほしいですね」

和田氏が語る「薬剤師に求められる資質」は、決して未来の薬剤師に限ったものではない。すでに今、現場で活躍している薬剤師にも当然に必要なスキルである。和田氏が「足りない」と指摘する「主体性」をもって、患者や業界に関わっていくことが求められている。

掲載内容は、記事公開時のものであり、現時点における最新情報ではない可能性があります。

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