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更新日: 2015年8月4日

「薬歴の開示請求」されたらどうする?

「薬歴の開示請求」されたらどうする?の画像1

先日、薬歴未記載の問題が大きく報道され、話題となりました。この報道によって、不安に思った患者もいるようで、薬局に対し、自分の薬歴を確認させて欲しいと問い合わせる方が増えているそうです。もし、患者から薬歴開示請求をされた場合、あなたはどう対処しますか。
今回は、薬歴開示請求への適切な対応について解説します。

赤羽根 秀宜氏の画像

赤羽根 秀宜
あかばね ひでのり

薬剤師として調剤薬局に10年勤務する傍ら、司法試験に合格。弁護士として、中外合同事務所に勤務。 医療分野以外にも企業法務や一般民事も多く取り扱っている。

薬歴開示請求があった場合応じる必要があるか?

患者から、薬局に保管してある自身の薬歴を開示してほしいと言われた場合、開示する必要があるのでしょうか。「薬歴は薬局の所有物だし、手間もかかるので開示する必要はない」などと断ってもいいのでしょうか。

薬歴のような個人情報の開示については、以下のとおり、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第25条第1項に定められています。

(開示)
第二十五条  個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一  本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二  当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三  他の法令に違反することとなる場合

薬歴は、この「個人データ」(「個人情報データベース」を構成する「個人情報」)にあたると考えられるので、個人情報取扱事業者*1にあたる薬局では、原則、薬歴を開示しなければなりません。またこれは「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(厚生労働省平成16年12月24日通知、平成18年4月21日改正、平成22年9月17日改正参照)でも規定されています。

一方、薬歴には患者の処方内容や住所などの個人情報だけでなく、薬剤師の判断や評価も記載されています。そのため「患者の個人情報とは限らないので開示を拒むことができる」、もしくは「薬剤師の判断などについては非開示にできる」と考える方もいるかもしれません。確かに、薬歴は患者と薬剤師の情報という二面性を持っています。しかし、一般的には、薬歴全体が患者の個人情報と解されているため、二面性があることを理由に、全部または一部の開示拒否はできないとされています。

また、個人情報取扱事業者にあたらず、個人情報保護法が適用されない薬局であっても、同ガイドラインでは個人情報取扱事業者同様の対応が望まれているため、原則開示すべきと考えられます。

*1体系的に整理された個人情報を5000件以上保有する企業は、個人情報取扱事業者となり、個人情報保護法を遵守する対象者である。

どのような情報でも開示しなければならないのか

原則はすべて開示する必要がありますが、薬歴にはさまざまな情報が記載されており、開示することで患者に不利益を被ることが想定される場合があります。そこで、個人情報保護法第25条第1項各号では例外を設け、一部又は全部を非開示にできるとしています。

この点につき、ガイドラインでは以下を例に挙げています。

1. 患者・利用者の状況等について、家族や患者・利用者の関係者が医療・介護サービス従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者・利用者自身に当該情報を提供することにより、患者・利用者と家族や患者・利用者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

2. 症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

また、薬局の「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」にも非開示が可能です。
実際は、患者や第三者の権利利益などを害する恐れがあるという点から個別具体的に判断しなければなりませんが、非開示とできる場合もあることを認識しておくことは重要です。
なお、仮に開示しない場合は、本人に対し遅滞なくその旨を通知しなければならず(個人情報保護法25条2項)、開示しない理由を通知する努力義務があるので注意が必要です(個人情報保護法第28条)。

開示方法

「開示方法については、個人情報保護法施行令第6条に規定があり、原則書面を交付する必要があります。薬歴の場合は、原本は交付できませんので、コピーしたものを交付することになります。なお、コピーしたものの交付などで開示した場合には、薬局は患者に対し、開示にかかる手数料(実費と勘案して合理的な金額)を請求することができます(個人情報保護法第30条)。また、開示の手続の方法および開示に関わる手数料は、患者が知り得る状態にしておかなければなりません(個人情報保護法24条1項)。

薬歴開示請求に備えて

以上の通り、患者から薬歴の開示請求があれば原則開示しなければなりません。最近開示請求が増えていると聞きますし、調剤過誤などがあった場合に開示請求がされることは十分に考えられます。したがって、開示請求された場合の薬局内のマニュアルなどを整備しておきましょう。いうまでもないことですが、開示請求に迅速に対応できるように薬歴を残すこともお忘れなく。

掲載内容は、記事公開時のものであり、現時点における最新情報ではない可能性があります。

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