植物療法が変えるセルフメディケーションの世界 メディカルハーブの基礎知識
セルフメディケーションの推進は薬剤師に課せられた役割の一つです。このセルフメディケーションの一環として今注目を集めるのが、アロマやハーブと言った植物療法。そこで、東京・自由が丘でアロマ・ハーブショップ「グリーンフラスコ」を経営し、植物療法の普及に取り組む薬剤師の林真一郎氏に、薬剤師が知っていると役立つ植物療法とセルフメディケーションの関係についてうかがいます。
メディカルハーブ(植物療法)の基礎知識
数ある相補・代替療法の中で歴史が最も長く、ヒポクラテスの時代から現代まで脈々と受け継がれてきたのが、メディカルハーブ(植物療法)です。そして、アスピリンがメドースィートから、ジゴキシンがジギタリスから作られたように、メディカルハーブは、医薬品の生みの親でもあります。
ジャーマンカモミールやペパーミントなどのハーブにはフラボノイドやタンニン、精油やビタミンなどさまざまな成分が含まれています。アロマセラピー(芳香療法)では主に精油のみを用いますが、メディカルハーブは、これらすべての成分を丸ごと用いるのが特徴です。
薬剤師にとって「生薬」はなじみが深い言葉でしょう。生薬は「植物」「動物」「鉱物」の3つに分類され、中でもメディカルハーブは「植物性生薬」と考えられます。「漢方」は東の植物療法、「メディカルハーブ」は西の植物療法、ともいえます。
ところで、メディカルハーブには、茶剤(ハーブティー)やチンキ剤、カプセル剤や散剤、湿布剤や入浴剤などさまざまな剤形があります。日常生活で活用するならば、有効性、有用性、安全性の観点から、最もおすすめなのが茶剤(ハーブティー)です。
ハーブティーの楽しみ方
ハーブティーを淹れるには、特別な器具や技術が必要だと考えている方がいらっしゃいますが、急須と熱湯があれば十分です。原料のドライハーブ2~3グラムを急須に入れたら、熱湯200ミリリットルを注ぎ、フタをして3分間蒸らします。フタをするのは揮発性の成分を逃がさないため。抽出したら、香りを楽しみながらゆっくりと服用しましょう。
なお、消化管からの吸収がよいのは空腹時ですが、一般には1日3回毎食後に服用します。クセがって飲みにくい場合は、ペパーミントやローズヒップ(野バラの実)とブレンドすると飲みやすくなります。中には苦いハーブティーもありますが、苦味そのものが効能・効果をもたらすので砂糖やハチミツなどはできるだけ控え、自然本来の味と香りを楽しみましょう。
ハーブティーの心身への作用機序
ここで下の表1をご覧ください。わが国で入手可能な主要ハーブ10種とその作用、適応を示しました。
種類 | 作用 | 適応 |
---|---|---|
ジャーマンカモミール | 消炎・鎮静・鎮痙 | 胃炎・胃潰瘍・アレルギー |
ペパーミント | 消化器機能調整 | 消化不良・食欲不振 |
ローズヒップ | ビタミンC補給・緩下 | 感染症・便秘 |
ハイビスカス | エネルギー代謝 | 肉体疲労・冷え症 |
エキナセア | 免疫賦活 | 風邪・インフルエンザ・膀胱炎 |
タンポポ | 腸内環境改善・強肝 | 便秘・関節リウマチ・虚弱 |
マルベリー | 糖吸収抑制 | 糖尿病・高血糖 |
ネトル | 血液浄化・体質改善 | アレルギー・関節リウマチ・貧血 |
リンデン | 鎮静・利尿 | 不眠・高血圧 |
エゾウコギ | ストレスへの適応力向上 | 心身症・感染症 |
表1 主要ハーブティーの作用と適応
例えば、ストレスが続いて胃の調子が悪いときに、ジャーマンカモミールのハーブティーを服用したとします。ジャーマンカモミールには芳香成分の精油と消炎成分のカマズレン、それにフラボノイドのアピゲニンなどが含まれています。
ハーブティーは、まずカップから立ち上がる心地良い香りが、心身をリラックスさせます。服用すると、消炎成分のカマズレンが胃の粘膜に直接作用して炎症を鎮めます。また、アピゲニンは鎮痙作用とともに、ベンゾジアゼピン様の抗不安作用を与えます。このように、多様な成分が多様なメカニズムで私たちの体に働きかけ、心身に調和をもたらすのがメディカルハーブの特徴です。
ハーブティーによるセルフメディケーションの具体例
ハーブティーによるセルフメディケーションの具体例
①胃潰瘍・機能性胃腸症胃潰瘍には、早朝、食間、就寝前にジャーマンカモミールのハーブティーを服用します。機能性胃腸症には、ジャーマンカモミールまたはジャーマンカモミールとペパーミントのブレンドハーブティーを。
ブレンドは、ジャーマンカモミール1に対してペパーミント0.5~2を目安に配合します。
お酒やカフェイン飲料、炭酸飲料を控えます。
風邪のひき始めに、エキナセアのハーブティーを1日3~6杯、集中的に服用します。ビタミンC補給のため、ローズヒップとブレンドする方法もあります。
体を冷やす清涼飲料水は控え、温かいハーブティーを服用します。
症状の改善にはジャーマンカモミール、根本的な体質改善にはネトルやダンディライオンのハーブティーが有効です。
慢性炎症の増悪要因である糖分を多く含んだ嗜好飲料や、体を冷やす清涼飲料水の摂取を控えます。
就寝前にリンデン(西洋ボダイジュ)のハーブティーを香りを楽しみながら服用します。飲みにくい場合は、ペパーミントを少量ブレンドする方法もあります。
日中にカフェイン飲料の摂取を控えます。
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