供給不安に対応するため国が考えるシステムとは?
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ジェネリック医薬品(後発薬)を中心に続く薬の供給不足の対策で、厚生労働省が2025年度に、製薬企業の生産から患者への投薬、薬局での調剤まで、一連の流通の把握に向けたシステム構築の検討を始めることが28日、分かった。需給状況を常時モニタリングして「見える化」を進め、供給不足の兆候を早期に捉える。
医療用医薬品の供給不安と現状
2020年から続く医療用医薬品の供給不安ですが、2025年になった今でも供給は安定することなく、形を変えて継続しています。2021年に供給問題が表面化した段階では、一部の製薬企業の不祥事を理由とした業務停止により、市場に供給される医薬品の総量が低下することによる供給不安でしたが、4年経った現在は、原料や添加物の入手困難、製造設備の老朽化、感染症の蔓延による需要増加等、問題の原因が変化する形で供給不安が継続している状況です。2021年に企業の不祥事が起きた影では、現在発生している供給不安の要因が積み重なっていたのだと思います。
感染症の蔓延と在庫の偏在
年末から年始にかけてインフルエンザ治療薬の供給不安が発生したことは記憶に新しいと思います。現在の測定方法になって最大の流行となったこともあり、インフルエンザ治療薬の需要が急増しました。各企業は流行に備えて十分な準備を行っていたはずですが、一部製品については需要に対して製造が追いつかず供給停止となり、他の薬剤についても供給不安となった製品の代替えとして過剰発注されることを防ぐために限定出荷という形を取りました。その後、インフルエンザの患者数は急激に減少したため、一部ではインフルエンザ治療薬が余っている状況になっていると思います。流行の動向を見てから発注を行うわけですから、在庫する側が後手になるのは避けられません。ですが、患者さんが必要な時に医薬品を供給するのが薬局や医療機関の使命ですから、それを果たすために前倒しで注文することが増えます。そうすることで、需要の増加に耐えうる在庫を持つことは可能となりますが、需要が減った場合にその在庫を減らす手段は返品以外に存在しません。そのため、在庫の偏在が起こり、必要とする場所に薬がないにもかかわらず、一方では余っているという状況が発生してしまいます。
供給の安定を目指す上で必要以上の発注は避けるべきではありますが、目の前の患者さんに対応するため、意図しない形で在庫の偏在が起きてしまうことがあり、それを避けるのは各薬局や医療機関、薬剤師の努力だけでは難しい部分があります。
医薬品の供給に関するデータベース
医薬品の供給不安が起きる場合、最も不利益を受けるのは患者さんです。医薬品の供給状況が可視化されれば、代替可能な医薬品を選別し、処方提案につなげたり、同種薬の供給情報をもとに、普段使っている医薬品の供給状況の変化を予測することが可能になります。その際に活用されるのが医療用医薬品供給状況データベースになりますが、現在日本で公開されているデータベースのうち、広く活用されているものは2種類のみです。
一つは厚生労働省が公開する「医療用医薬品供給状況」です。日本製薬連合会(日薬連)が定期的に行っていた供給状況調査をベースに令和6年4月1日から公開されているもので、その時点で最新の供給状況をまとめたExcelファイルをダウンロードすることが可能になっています。製造販売業者は製品の出荷状況に変化が生じた場合、速やかに厚生労働省に報告を行うようになっており、「医療用医薬品供給状況」はその報告をもとに随時更新が行われます。
もう一つは一般社団法人asTasが公開するDSJP(DrugShortage.JP、医療用医薬品供給状況データベース)です。DSJPは各製薬企業が公開する案内文に基づく供給状況をホームページ上で一元的に検索可能としたもので、2021年9月9日から公開されています。厚生労働省のものと異なる点として、販売包装単位での供給状況が登録されていること、案内文へのリンクが掲載されていること、代替薬の検索が可能なこと、過去の供給状況について確認することが可能といった点が挙げられます。
どちらのデータベースも医薬品の供給状況を調べる上で非常に有用なものになっていますが、厚生労働省はこのどちらとも異なる、新しい形のシステムの構築に向けて動きだしています。
厚生労働省が新たに考える供給不安に対応するためのシステム
現在、厚生労働省が検討するシステムは製薬企業や医薬品卸から収集される情報に、電子処方箋管理サービスに蓄積されたデータを組み合わせて構築するものになっています。電子処方箋管理サービスには処方データと調剤データ(薬局では調剤後のデータ登録が必要)が蓄積されています。製薬企業と医薬品卸が保有するデータに薬局や医療機関のデータを加えることで、医薬品流通の可視を図るシステムになっています。
電子処方箋システムでは処方時に処方データ、調剤後速やかに調剤データを登録することで、処方内容・調剤内容がほぼリアルタイムに近い形で蓄積されていきます。実際に現場で調剤され、患者さんに渡された薬の数を把握することが可能になるため、製薬企業の製造量・出荷量、医薬品卸の在庫量・出荷量、医療現場での使用量を集約することで、市場全体の在庫量を把握し、製薬企業の医薬品製造計画や限定出荷のタイミング等をより適切に行うことが可能になると想定されます。