薬ゼミ講師に聞きました! 薬剤師国家試験対策

更新日: 2020年6月21日

第105回国試の傾向(1)症候・検査値から患者の状態を把握することが求められている!

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第105回薬剤師国家試験は、結果として、合格基準が213点(345点で換算)と例年より低く設定されたため、第104回とほぼ同数、6年制新卒84.78%(7,795名)が合格となりましたが、内容的には難易度の高い試験でした。臨床的な背景や最近のトピックスを取り入れた問題も多く出題されていましたので、薬学ゼミナールの講師が、現役薬剤師の皆さんにもチャレンジしていただきたい問題、実務実習生との話題に使っていただきたい問題を選定しました。

近年の国試では、症候や検査値から患者の状態を把握して解答する必要のある問題、時には病名を診断しなければならない問題やその患者さんに合わせた処方変更や代替薬を提案する問題が多く出題されています。リード文も長文でリアルなものが多く、沢山の症候や検査値から真に必要な情報を洗い出し、判断する臨床能力や問題解決能力が求められています。
初回である今回は、実践問題の複合問題で「病態・薬物治療」と「実務」の連問として出題された、症候や検査値を読み解く問題にチャレンジしていただきたいと思います!話題のオプジーボ®(一般名:ニボルマブ)が出題された問題です。

(参考)厚生労働省【薬剤師国家試験】 

問題にチャレンジ!

問1−2

70歳女性。糖尿病の既往歴はない。非小細胞肺がん(扁平上皮がん、PD-L1発現率15%)と診断され、ニボルマブ点滴静注240mg、2週間ごとの投与が開始された。経過良好だったが、6回目の投与後、自宅で強い倦怠感、食欲低下、口渇と多尿が出現し、水分摂取も困難であったため、緊急受診した。受診時、朝食をとらずに行った検査値は以下の通りである。


検査値:
Na 135mEq/L、Cl 96mEq/L、K 5.4mEq/L、BUN 23mg/dL、HbA1c 6.0%(NGSP値)、血糖値571mg/dL、血液pH 7.1、尿糖4+、尿ケトン3+


問1 【正答率※:52%】

この患者に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • Tリンパ球の機能が低下している。
  • 血中C-ペプチドが低値である。
  • 次回以降のニボルマブの投与を中止すべきである。
  • インフュージョンリアクションが起きている。
  • 2型糖尿病を発症している。
問2 【正答率※:68%】

この患者に実施されるべき治療の目的と薬物治療の組合せとして、適切なのはどれか。2つ選べ。

目的 薬物治療
1 高血糖改善 速効型インスリンを持続投与
2 脱水補正 生理食塩液を点滴投与
3 アシドーシス補正 ガベキサートメシル酸塩を点滴投与
4 高ナトリウム血症改善 5 %ブドウ糖を点滴投与
5 電解質バランス改善 炭酸水素ナトリウムを点滴投与

解答・解説

問1−2

本患者は、強い倦怠感、食欲低下、口渇、多尿といった所見が認められ、血糖値が571mg/dLと高値を示していることから、ニボルマブによる副作用である1型糖尿病が生じていると考えられる。また、患者の症状および検査値(尿糖および尿ケトン強陽性)より、糖尿病性ケトアシドーシスを発症しており、適切に治療が行われなければ昏睡や死亡へと進行する危険な状態であることが考えられる。

問1 解答: 2、3 正答率※:52%

  • 誤。ニボルマブは、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体製剤であり、PD-1とそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2との結合を阻害し、がん抗原特異的なT細胞の増殖、活性化および細胞傷害活性の増強などを示す。そのため、患者の副作用発現にはTリンパ球の機能亢進が関与していると考えられている
  • 正。患者は、1型糖尿病を発症している可能性が高く、インスリン分泌能を示す血中C-ペプチドは低値の可能性が高い
  • 正。ニボルマブ投与時に1型糖尿病が疑われた場合には投与を中止し、インスリン製剤の投与などの適切な処置を行うこととされており、次回以降の投与は中止すべきである
  • 誤。インフュージョンリアクションは、モノクローナル抗体製剤で起こりやすい副作用であり、代表的な症状として悪寒、発熱、頭痛などがある。患者の所見より、インフュージョンリアクションを生じている可能性は低い
  • 誤。ニボルマブの副作用として生じるのは、1型糖尿病である

問2 解答: 1、2 正答率※:68%

  • 適切。1型糖尿病では、インスリン欠乏(不足)による高血糖を生じるため、それを速やかに改善するためには速効型インスリンの持続投与が行われる。
  • 適切。高血糖に伴う浸透圧利尿により脱水が生じ、それを速やかに改善するために、生理食塩液を点滴投与する。
  • 不適切。糖尿病性ケトアシドーシスには、原則アルカリ化薬の投与は行われない。体液のpHが6.9以下となった場合は、炭酸水素ナトリウムなどを用いることがある。ガベキサートメシル酸塩は、急性膵炎や汎発性血管内血液凝固症に用いられるタンパク分解酵素阻害薬である。
  • 不適切。本患者は、高ナトリウム血症ではない。
  • 不適切。代謝性アシドーシスになると不揮発性酸が増加し、アニオンギャップ増大が生じる。本患者の電解質バランス改善のためには、生理食塩液の静注、インスリンの静注により高血糖の是正を行うことが必要である。

※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,641名参加)より

村上 理(むらかみ あや)

村上 理むらかみ あや

学校法人 医学アカデミー 薬学ゼミナール 教育推進部 部長、講師(病態生理・薬物治療学)、薬学博士、薬剤師。岡山大学大学院卒業。

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