第105回国試の傾向② 2020年度の法改正で臨床現場は変わった?
現役薬剤師の皆さんは既に実感されているかもしれないですが、2020年度は薬剤師業務に関連する法改正として、薬剤師法や医薬品医療機器等法、覚醒剤取締法など、例年に比べると多くの改正があることに気づきます。また、医薬品医療機器等法に至っては、2022年12月までの段階的改正となっており、新しい知識を学ばなければならないという点で、気を抜けない状況です。薬剤師を取り巻く環境が大きく変化していることを実感する年でもあると思いますが、今回は最新の薬剤師国家試験(105回)のうち、麻薬の出題から業務での取扱いを振り返りつつ、2020年4月に改正された覚醒剤原料の取扱いについて、取り上げたいと思います。
医療現場で用いられる覚醒剤原料には、セレギリン(エフピー🄬など)やリスデキサンフェタミン(ビバンセカプセル🄬)、10%を超えるエフェドリンなどがあります。今年度の改正点については、2019年3月に厚生労働省から通知も発出され、医療機関や薬局における取り扱いの手引きも公表されていますので、国試の問題と共に覚醒剤取締法の改正点を再確認してみませんか。
問1~2 【正答率※:90%】
71歳男性。膵臓がんで入院治療していたが、本人の希望もあり退院し、自宅で緩和ケアを受けている。退院時は、以下の処方であった。薬剤師が訪問したところ、痛みの評価は、NRS(数値スケール)で5、強い痛みがある場合は、モルヒネのレスキュー薬を使用していた。また、最近、「薬が飲みにくい」という訴えもある。本人は、毎日お風呂に入りたいという希望がある。
処方
モルヒネ塩酸 塩水和物徐放性 カプセル120mg |
1回1カプセル (1日1カプセル) |
1日1回 夕食後 14日分 |
モルヒネ塩酸 塩水和物 内用液10mg |
1回2包 (10mg/包) |
痛いとき 20回分 (全40包) |
酸化マグネシウム | 1回0.5g (1日0.5g) |
1日1回 就寝前 14日分 |
問1
薬剤師は、モルヒネ塩酸塩水和物徐放性カプセルを中止して、他の薬剤への変更を医師に提案することにした。薬剤として適切なのはどれか。1つ選べ。ただし、変更時点では、増量は考えないものとする。
- フェンタニル1日用貼付剤(貼付用量4mg)
- フェンタニル1日用貼付剤(貼付用量2mg)
- フェンタニル1日用貼付剤(貼付用量1mg)
- フェンタニル3日用貼付剤(貼付用量4.2mg)
- フェンタニル3日用貼付剤(貼付用量2.1mg)
注)以下を前提に計算すること
・オピオイドスイッチングを行う際の換算比は、経口モルヒネ対フェンタニルを100:1とする。
・フェンタニル貼付剤から1日あたりフェンタニルとして吸収される量は、1日用は貼付用量の約30%、3日用は貼付用量の約14%とする。
問2
その後、この患者が死亡し、患者の相続人から、薬剤が残っているので、薬局に返却したいとの申し出があった。確認したところ、残薬はフェンタニル貼付剤及び酸化マグネシウムであった。これらの薬剤の取扱いに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- フェンタニル貼付剤の返却には、都道府県知事の許可が必要であるため、申請するよう指導した。
- 返却されたフェンタニル貼付剤は、回収することが困難な方法で廃棄した。
- 返却されたフェンタニル貼付剤を薬局で廃棄したので、廃棄後30日以内に都道府県知事に届出を行った。
- 返却されたフェンタニル貼付剤は、まだ使用期限を過ぎていなかったので、仕入れをした卸売販売業者に返品した。
- 酸化マグネシウムは、まだ使用期限を過ぎていなかったので、必要に応じて相続人が服用してもよいと指導した。
解答・解説
問1 解答: 1 正答率※:90%
フェンタニル貼付剤から1日あたりフェンタニルとして吸収される割合と、オピオイドスイッチングを行う際の換算比(経口モルヒネ対フェンタニルを100:1)を用い、経口モルヒネ量を計算すると1日当たり吸収量は1.2mg。更にフェンタニルとして吸収される量が、1日用は貼付用量の約30%、3日用は貼付用量の約14%を考慮すると、フェンタニル1日用貼付剤(貼付用量4mg)が適切である。
コメント
オピオイドスイッチングは多くの臨床現場で遭遇するシチュエーションだと思います。実際には添付文書などの対応表を参考に適正量を確認する方も多いかもしれませんが、今回の出題ではそれを計算で算出させるものです。本問題の難易度は高くないですが、考えるための情報を与えて解答を導き出す形式の問題は最近の国試では増加傾向にあります。
問2 解答: 2、3 正答率※:86%
フェンタニルは麻薬に該当する。麻薬を廃棄するときは、麻薬の品名、数量、廃棄方法について都道府県知事に届け出て、当該職員立会いの下に行う。ただし、調剤された麻薬の廃棄については、廃棄後30日以内に都道府県知事に届け出ればよい。
コメント
本問題は麻薬の廃棄について問うものですが、2020年4月からは覚醒剤原料の廃棄も麻薬の廃棄に準じた規制になっています。
2019年度までは調剤された医薬品覚醒剤原料に関する廃棄の特例はなく、患者様が使用しなくなった医薬品覚醒剤原料は、患者様自身に廃棄していただく必要がありました。しかし今年度からは使用しなくなった医薬品覚醒剤原料は患者又はその相続人等から病院(当該病院の医師が交付した医薬品覚醒剤原料に限る)・薬局へ返却が可能となります。また返却された医薬品覚醒剤原料の廃棄は、都道府県職員の立ち合いなしに廃棄し、その後、必要事項を都道府県知事に届け出ることとなっています。
更に他の改正点として、医薬品覚醒剤原料を服用する患者様は、許可を受ければ携帯輸出入が認められ、海外旅行が可能になったことも注目ポイントでしょう。実際に海外旅行に行かれる患者様は多くないかもしれませんが、服用する薬剤を理由に行動を制限されることが減り、患者様のQOL向上に繋がるのではないでしょうか。
麻薬も覚醒剤原料も厳格な管理が必要な医薬品ですので、改めて適切な取扱い方法を再確認し、ミスのないように日々の業務に当たっていきたいですね。
※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,641名参加)より