第105回国試の傾向(3)合格基準が相対基準となった今、基礎科目は不要なのか??
合格基準が相対基準となり、理論問題での足切りがなくなった薬剤師国家試験(以下、国試)。苦手な学生が多い基礎科目(物理、化学など)の勉強をするより、得点の取りやすい薬理や配分の多い実務の勉強をした方がいい。なんて声が聞こえてきますが、本当にそうなのでしょうか?
反応の生成物の正誤を問う国試問題が近年どう変化してきたのか、実際の国試問題を確認してみましょう。
問1〜2
98歳女性。体重30kg。逆流性食道炎のため、薬物アが処方された。
(処方)
薬物ア錠10mg粉砕
1回0.7錠(1曰0.7錠)
1日1回 朝食後 14日分
薬剤師が処方監査を行ったところ、粉砕して服用すると問題があることが判明したため、処方の変更を医師に提案することとなった。
問1(化学) 正答率※:54%
薬物アが生体内において受ける変化(A~D)に関する記述のうち、粉砕した後に服用すると問題が起こる理由と深く関連しているのはどれか。1つ選べ。
- Aの反応が胃内の環境において加速される。
- Bの過程で不斉中心が消失する。
- Cの過程で硫黄原子上における求核置換反応が進行する。
- Dの過程で薬物が酵素のシステイン残基と反応する。
- A~Dの反応が胃壁細胞のプロトンポンプ付近で起こる。
問2(実務) 正答率※:69%
粉砕して服用する場合の不都合を回避するために、当該病院の採用薬の中から薬剤師が提案する薬物として、適切でないのはどれか。1つ選べ。ただし、これらの薬剤は全て錠剤であり粉砕して用いるものとする。
コメント
問1(化学)では選択肢に記載されている全ての反応が、薬物ア(ラベプラゾール)を投与した際に生体内で起こっている反応であり、選択肢を見ただけでは解答を導くことができません。リード文をしっかり読むことで正解を導くことが出来る読解力を必要とする問題です。 また、問2(実務)では、選択肢の全てが構造式であり、化学の知識無くしては解答することができません。合格基準が変わっても『構造がわかる薬剤師』が必要だと言われている気がしませんか?
解答・解説
問1 解答: 1 正答率※:54%
薬物アは、ラベプラゾールナトリウムである。ラベプラゾールナトリウム錠は腸溶錠であり、腸管部で吸収された後、胃腺に存在する壁細胞の酸性領域で活性体になり、H+,K+-ATPaseのシステイン残基のSH基を修飾してその酵素活性を阻害し、胃酸分泌を抑制する。ラベプラゾールナトリウムは酸性溶液中で不安定であるため腸溶性コーティングが施されているが、腸溶錠を粉砕して使用すると、胃内の環境においてAの変化が加速し、急速に分解される。
問2 解答: 3 正答率※:69%
1はラニチジン、2はボノプラザンフマル酸塩、3はオメプラゾール、4はシメチジン、5はファモチジンの構造である。オメプラゾールはラベプラゾールナトリウムと同様に酸性溶液中では不安定であり、胃酸へのばく露により急速に分解されるため、腸溶性の皮膜が施されている。薬物アと基本骨格が同一であることから、類似の作用を示すと推定することができる。
※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,641名参加)より