現役薬剤師の力試し!薬ゼミ講師が選ぶ「最新国試(第105回)、これ解けますか?」
1964年以来、2回目の夏季オリンピック開催国となった日本。TOKYO2020をキーワードに、入念な準備を数年がかりで進めてきておりました。特に2019年のチケット申し込みの時期には、皆さんの周りでも応募する方が多かったのではないでしょうか。日本はオリンピック・パラリンピック開催国になるということで大きな盛り上がりを見せていたところですが、ご存じの通り、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受けて、開催は1年延期となってしまいました。
しかしTOKYO2020が、大きな注目を集める世界的イベントであることは間違いないです。第105回薬剤師国家試験(国試)でも、来たるオリンピック・パラリンピックを見据えた問題が出題されていましたので、実際の問題を確認してみませんか。
問1 正答率※:34%
勤務先は災害拠点病院であり、オリンピック・パラリンピックの競技会場が近隣にあることから、NBC災害(注)時の解毒薬の準備状況を確認するため、対象物質とその解毒薬又は拮抗薬のリストの作成に着手した。表の組合せのうち、適切でないのはどれか。1つ選べ。
(注)NBC災害:核(nuclear)、生物(biological)、化学物質(chemical)による特殊災害をさし、目に見えない脅威が人体に害を与える性質をもつ災害とされる。
対象物質 | 解毒薬又は拮抗薬 | |
---|---|---|
1 | サリン | プラリドキシムヨウ化物 |
2 | 鉛 | エデト酸カルシウム二ナトリウム水和物 |
3 | ヒ素 | ジメルカプロール |
4 | 放射性ヨウ素 | ヨウ化カリウム |
5 | 炭疽菌 | カナマイシン硫酸塩 |
コメント
オリンピック・パラリンピック開催国としては、競技会場や選手村などの環境を準備するだけでなく、その大会の安全性を確保する必要もあります。オリンピック・パラリンピック開催中は当然のことながら世界中の人が開催国に集まるわけですから、テロなどのリスクも増します。そのための警備強化なども計画されていたと思いますが、薬剤師としては設問のNBC災害への対策というところでも関与できる可能性が見えますね。
解答・解説
解答: 5 正答率※:34%
炭疽菌(Bacillus anthracis)は敗血症等を起こす病原体である。炭疽菌は培養が容易かつその芽胞は光・熱・消毒薬に対して強い抵抗性があることから1950~1960年代にかけて米国で兵器化されている。炭疽への抗菌薬治療に、カナマイシン硫酸塩は使用しない。
〈炭疽の抗菌薬治療〉
疾患 | 抗菌薬の例 |
---|---|
髄膜炎を伴う炭疽菌感染症 | シプロフロキサシン、メロペネム、リネゾリド |
髄膜炎を伴わない肺炭疽・腸炭疽、全身症状を伴う皮膚炭疽 | シプロフロキサシン、クリンダマイシン等 |
全身症状を伴わない皮膚炭疽 | シプロフロキサシン、クリンダマイシン、(ペニシリン感受性株であれば)アモキシシリン等 |
問2 正答率※:78%
22歳男性。身長175 cm、体重60 kg。花粉症の症状がひどくなったので、家族が使用していた一般用医薬品の小青竜湯エキス顆粒の服用を考えたが、陸上競技の国体選手であったため、かかりつけ薬剤師に相談した。薬剤師は、小青竜湯エキス顆粒にはアンチ・ドーピング規程における禁止物質が含まれるため、服用しないよう指示した上で、近隣の医療機関への受診を勧奨した。
小青竜湯エキス顆粒に含まれる成分のうち、アンチ・ドーピング規程における禁止薬物に該当するのはどれか。1つ選べ。
コメント
こちらはアンチ・ドーピングに関する化学の実践問題の一部です。ここ数年の国試でもスポーツファーマシストやアンチ・ドーピングに関連する問題が出題されていましたが、今回はアンチ・ドーピング規程における禁止薬物の構造を選択する出題です。もちろん、現場で構造式を目にすることは少ないかと思いますが、「医薬品構造がわかる薬剤師」、「科学者としての薬剤師」が求められていると感じられる部分ではないでしょうか。
国試だけでなく、現在、スポーツファーマシスト認定者が増加していることも見逃せません。自国開催となるTOKYO2020では、薬剤師として期待される関わり方をしていきたいですね。
解答・解説
解答: 3 正答率※:78%
世界アンチ・ドーピング機構が定めたアンチ・ドーピング規程では、①常に禁止される物質(蛋白同化薬、β2作用薬、利尿薬、ホルモン調節薬など)、②競技会(時)に禁止される物質(興奮薬、麻薬、カンナビノイド、糖質コルチコイド)、③特定競技において禁止される物質(β遮断薬)に分けられている。
小青竜湯エキス顆粒は、マオウ、シャクヤク、カンキョウ、カンゾウ、ケイヒ、サイシン、ゴミシ、ハンゲの成分を含有し、マオウが禁止物質に該当する。マオウの主要成分であるl-エフェドリンの構造が選択肢3である。
1はカンゾウの主要成分であるグリチルリチン酸の構造、2はカンキョウの主要成分である[6]-ショーガオールの構造、4はサイシンの主要成分であるメチルオイゲノールの構造、5はケイヒの主要成分であるシンナムアルデヒドの構造であり、いずれも禁止薬物には該当しない。
※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,641名参加)より