基礎系が苦手、医療系が得意?!そもそも科目の壁ってないんじゃない??
医療系はできるけど、基礎系が苦手で…。そんな言葉をよく聞きますが、実際の薬剤師国家試験(国試)の問題では、「基礎系」「医療系」といった科目の境目はなくなりつつあります。基礎科目とは、『全ての科目の基礎となる科目』なのです。
国試合格に向け、最初は科目ごと、範囲ごとに分けてしっかり内容を理解することが必要ですが、最終的には、科目の壁を越えて知識を繋げることが大切なのです。
皆さんは臨床現場で、しっかり知識を繋げて活用できていますか?さぁ、実際の国試の問題を見てみましょう。
図は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってアセチルコリンが加水分解される際の初期段階の反応機構と2種類のAChE阻害剤A、Bの構造を示したものである。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- グルタミン酸-ヒスチジンの相互作用により、ヒスチジンのイミダゾリル基の塩基性が高くなる。
- グルタミン酸-ヒスチジン-セリンの三つのアミノ酸残基間の相互作用によって、セリンのヒドロキシ基の求電子性が高くなる。
- アセチルコリンはトリプトファンとイオン結合している。
- AChE阻害剤Aはセリンのヒドロキシ基を不可逆的にアミド化する。
- AChE阻害剤Bはセリンのヒドロキシ基を不可逆的にリン酸化する。
コメント
第105回国試の問106として出題された化学の問題。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によるアセチルコリンの加水分解に関する問題であり、アミノ酸の構造など生物の知識が不可欠となります。また、その相互作用では物理の知識が、AChE阻害剤との反応では、衛生や薬理の知識が必要です。
このように、1つの科目の知識のみでは解答出来ない問題が増えています。
薬学生には、基礎科目は『全ての科目の基礎となる科目』ということを理解して学修して欲しいと思いますので、実務実習生にも科目の知識を繋げて考える大切さを教えてあげてください。
解答・解説
問1 解答 1、5正答率※:38%
- 正。グルタミン酸のカルボキシラートイオンの負電荷がヒスチジンのイミダゾリル基と相互作用することで、イミダゾリル基がプロトン化された際に生じる共役酸の正電荷が安定化されるため、イミダゾリル基の塩基性が高くなる。
- 誤。グルタミン酸とヒスチジンの相互作用により、ヒスチジンのイミダゾリル基の塩基性が高くなる。その結果、セリンのヒドロキシ基が脱プロトン化され、アルコキシドイオンの生成を可能とするため、セリンのヒドロキシ基の求核性が高くなる。
- 誤。アセチルコリンとトリプトファンの相互作用は、アセチルコリンの第四級アンモニウム構造の正電荷とトリプトファンのインドール環のπ電子雲に起因するπ-カチオン相互作用である。
- 誤。AChE阻害剤Aはネオスチグミン臭化物である。ネオスチグミン臭化物はカルバミン酸エステル構造を有することからアセチルコリンエステラーゼのセリン残基をアミド化(カルバモイル化)し、その活性を阻害する。生成したカルバミン酸エステルは、通常のエステルよりかなり安定だがゆっくりと加水分解されるため、本反応は可逆的である。
- 正。AChE阻害剤Bはサリンである。サリンは、リン原子上のフルオロ基が脱離基として働き、アセチルコリンエステラーゼのセリン残基をリン酸化する。これにより安定で加水分解を受けにくいリン酸エステル複合体が生成されるため、本反応は不可逆的である。
※薬学ゼミナール自己採点システムによるデータ(12,641名参加)より